木像地蔵の流浪譚 第2話:村の言い伝え
作者のかつをです。
第十八章の第2話をお届けします。
村人たちに受け入れられ、祀られることになった地蔵。
しかし、その出自には、何か深い悲しみが隠されているようです。
喜助が見た夢は、地蔵の記憶なのでしょうか。
※この物語は史実や伝承を基にしたフィクションです。登場する人物、団体、事件などの描写は、物語を構成するための創作であり、事実と異なる場合があります。
喜助が持ち帰った地蔵の噂は、すぐに村中に広まった。
「川から、仏様が流れてきたそうな」
「きっと、上流の熊野の山奥からじゃろう」
村の古老たちは、集まって地蔵を囲んだ。
そして、口々に言い伝えを語り始めた。
「昔から、川から流れてくるものは神様からの授かりものと言うからのう」
「粗末に扱えば、祟りがあるかもしれん」
「いや、丁重に祀れば、村を守ってくださる守り神になるはずじゃ」
地蔵は、黒く変色し、あちこちに傷があったが、その木肌は滑らかで、かつては名のある仏師が彫ったものかもしれなかった。
何より、その微笑みは、見る者を不思議と安心させる力を持っていた。
村人たちは相談し、川を見下ろす街道沿いの辻に、小さな祠を建てることにした。
「ここなら、川の様子もよく見えるじゃろう」
「旅行く人たちの安全も、守ってくれるに違げえねえ」
喜助は、毎日、祠に花を供え、水を換えた。
「お地蔵様。あんたは一体、どこで生まれたんじゃ。何を思って、ここまで流れてきたんじゃ」
彼は、地蔵の顔を見つめながら、いつもそう問いかけた。
地蔵は、何も答えない。
ただ、静かに微笑んでいるだけだった。
しかし、ある夜のこと。
喜助は、不思議な夢を見た。
夢の中で、彼は深い山奥にいた。
そこには、一人の男が、一心不乱にノミを振るう姿があった。
男の横には、病に伏せる小さな子供が寝かされている。
男は、泣きながら木を彫っていた。
子供の回復を祈り、あるいは、迫りくる別れを予感して、その魂を木に刻み込んでいるようだった。
カン、カン、カン……。
ノミの音が、喜助の耳に、悲しく、そして切なく響いてきた。
(あれは……このお地蔵様が、作られた時の記憶か?)
喜助は、汗びっしょりになって目を覚ました。
外では、瀬野川のせせらぎが、静かに聞こえていた。
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漂着神(寄り神)信仰は、海や川の向こうには常世の国があり、そこから富や幸福がもたらされるという考え方に基づいています。エビス様なども、元々は海から流れ着いた石や鯨を祀ったのが始まりという説があります。
さて、地蔵の記憶に触れた喜助。
夢の中で見た光景は、さらに鮮明になっていきます。
次回、「地蔵が見る夢」。
地蔵に込められた、切なる願いが明らかになります。
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