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ひろしま郷土史譚《瀬野編》~街道と鉄路が続く物語~  作者: かつを
第4部:伝奇・民話編 ~土地に眠る不思議な物語~
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木像地蔵の流浪譚 第1話:川岸の地蔵

作者のかつをです。

 

本日より、第十八章「熊野川より来たる ~木像地蔵の流浪譚~」の連載を開始します。

今回の主役は、川から流れ着いた「木彫りのお地蔵様」。

 

「流れながれぼとけ」という言葉があるように、漂着した神仏を祀る風習は日本各地に残っています。

物言わぬ地蔵が秘めた、過去とえにしの物語です。

 

※この物語は史実や伝承を基にしたフィクションです。登場する人物、団体、事件などの描写は、物語を構成するための創作であり、事実と異なる場合があります。

広島市安芸区を流れる瀬野川。

この川は、かつて上流の地名をとって「熊野川」とも呼ばれていた時代がある。

山々から湧き出た水は、多くの支流を集め、時に激しく、時に穏やかに、この谷あいの里を潤してきた。

 

川は、水だけでなく、様々なものを運んでくる。

肥沃な土砂、山の木々、そして時には、不思議な「物語」さえも。

 

これは、ある大雨の翌日、川岸に流れ着いた、一体の木彫りの地蔵にまつわる、数奇な運命の物語である。

 

 

 

 

江戸時代の中頃。

瀬野の村を、長雨が襲った。

瀬野川は濁流となり、恐ろしい轟音を立てて渦巻いていた。

 

雨が上がり、水が引いた朝。

川沿いの田んぼを見回りに来た百姓の喜助きすけは、あしの茂みの中に、何か黒っぽいものが引っかかっているのを見つけた。

 

「流木か……。薪にでもするか」

 

喜助は、泥まみれのその物体を引き上げた。

ずしりと重い。

泥を川の水で洗い流してみると、現れたのは、ただの木切れではなかった。

 

それは、人の形をしていた。

柔和な顔立ち、合わされた手。

一本の木から彫り出された、お地蔵様だった。

 

「あっ、こりゃあ……」

 

喜助は、慌てて手を合わせた。

 

その地蔵は、長い間水に浸かっていたせいか、角が取れ、所々が欠けていた。

しかし、その表情は不思議なほど穏やかで、見る者の心を落ち着かせるような、温かい微笑みを浮かべていた。

 

「どこから、流れて来なさったんじゃろうか」

 

喜助は、上流の山々を見上げた。

この川の上流には、熊野の村がある。さらにその奥には、深い山が続いている。

 

長い旅をしてきたであろう、その木像。

喜助には、それが単なる漂着物には思えなかった。

何か、深い事情を抱えて、わざわざ自分の元へとたどり着いた、言葉なき旅人のように見えたのだ。

 

彼は、濡れた地蔵を自分の着物の袖で丁寧に拭うと、背負って家へと持ち帰った。

粗末にするわけにはいかない。

そう、直感したからだ。

最後までお読みいただき、ありがとうございます!

第十八章、第一話いかがでしたでしょうか。

 

瀬野川は、昔から地域の生活用水としてだけでなく、水運や、時には水害をもたらす畏怖の対象でもありました。川が運んでくるものは、人々にとって特別な意味を持っていたのです。

 

さて、喜助に拾われた地蔵。

村人たちは、この不思議な漂着物をどう受け止めるのでしょうか。

 

次回、「村の言い伝え」。

地蔵の正体を巡って、村がざわめき始めます。

 

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