野原山城跡、石の神様が見た夢 第6話:石が見た数百年(終)
作者のかつをです。
第十七章の最終話です。
数百年という長い時間。
石の神様が見てきた景色と、変わらぬ人の営み。
歴史のロマンと、郷土への愛着を感じていただければ幸いです。
※この物語は史実や伝承を基にしたフィクションです。登場する人物、団体、事件などの描写は、物語を構成するための創作であり、事実と異なる場合があります。
郷土史研究会の人々の手によって、我々はきれいに整備された場所へと移された。
そこは、かつての参道に近い、見晴らしの良い高台だった。
眼下には、瀬野の町並みが広がっている。
かつては田んぼばかりだった谷あいに、今は無数の家が建ち並び、道路には車が行き交っている。
瀬野川はコンクリートで護岸され、山陽本線の上を新しい電車が滑るように走っていく。
景色は、変わった。
城があった頃とは、まるで違う国に来たかのようだ。
しかし、変わらないものもある。
学校帰りの子供たちの笑い声。
散歩をする老人の穏やかな表情。
そして、夕暮れ時に家々から漂ってくる、夕餉の匂い。
人々は、相変わらず懸命に生き、笑い、そして誰かを大切に思っている。
週末になると、ハイキング客や歴史好きの人々が、我々を見にやってくるようになった。
「これが、戦国時代からある道祖神かあ」
「ずっと、この町を見てきたんだね」
彼らは、我々の前で足を止め、写真を撮り、そして手を合わせていく。
その祈りの形は、昔と少しも変わらない。
「幸せになれますように」
「明日も、良い日でありますように」
我々は、石である。
動くことも、語ることもできない。
しかし、我々には記憶がある。
城門を守った誇り。
炎に包まれた悲しみ。
参道を行き交う人々の温かさ。
そして、忘れ去られた孤独と、再会の喜び。
そのすべてを、この苔むした身体の中に刻み込んでいる。
我々は、これからもここに立ち続けるだろう。
雨の日も、風の日も。
新しい時代が来ても、また景色が変わっても。
この瀬野という土地に生きる人々を、静かに、優しく見守り続ける。
それが、我々石の神様に与えられた、永遠の役目なのだから。
◇
……2025年、冬。
道祖神の肩に、薄っすらと雪が積もっている。
その二つの石の像は、互いに寄り添うようにして、今日も静かに、眼下の町を見下ろしている。
その表情は、長い旅を終えた安らぎに満ちて、どこか誇らしげに微笑んでいるようだった。
(第十七章:旅する道祖神 ~野原山城跡、石の神様が見た夢~ 了)
第十七章「旅する道祖神」を最後までお読みいただき、本当にありがとうございました!
道祖神や石仏は、日本全国どこにでもあります。皆さんの身近にある小さなお地蔵様も、もしかしたらとんでもない歴史と物語を秘めているのかもしれません。
さて、山の神様の物語の次は、川からやってきた仏様の物語です。
次回から、新章が始まります。
第十八章:熊野川より来たる ~木像地蔵の流浪譚~
川から流れ着いた木造のお地蔵様。
それは一体どこから、何のメッセージを持ってやってきたのか。
不思議な縁の物語です。
引き続き、この壮大な郷土史の旅にお付き合いいただけると嬉しいです。
ブックマークや評価で応援していただけると、第十八章の執筆も頑張れます!
それでは、また新たな物語でお会いしましょう。




