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ひろしま郷土史譚《瀬野編》~街道と鉄路が続く物語~  作者: かつを
第4部:伝奇・民話編 ~土地に眠る不思議な物語~
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野原山城跡、石の神様が見た夢 第3話:山寺の参道

作者のかつをです。

第十七章の第3話をお届けします。

 

戦国の殺伐とした空気から一転、平和な江戸時代の寺での日々。

石の神様が、人々のささやかな日常と信仰心に触れ、自らの存在意義を再確認する物語です。

 

※この物語は史実や伝承を基にしたフィクションです。登場する人物、団体、事件などの描写は、物語を構成するための創作であり、事実と異なる場合があります。

我々が連れてこられたのは、山麓にある古い寺の参道だった。

大きな銀杏の木の下。

木漏れ日が優しく降り注ぐ、特等席だ。

 

「ここなら、お参りに来る人たちを、毎日見守れるだろう」

 

村人たちはそう言って、我々を丁寧に据え付け、新しい注連縄しめなわを掛けてくれた。

 

ここでの暮らしは、城門の時とはまったく違っていた。

ここを通るのは、槍を持った兵士ではない。

赤子を背負った母親、腰の曲がった老人、手をつないだ若い男女。

 

彼らは皆、我々の前で足を止め、手を合わせていく。

 

「子どもが、元気に育ちますように」

「足腰が、丈夫でありますように」

「良いご縁が、ありますように」

 

戦勝祈願ではない。

日々の、ささやかで、平和な願い。

その祈りの声は、春の風のように柔らかく、我々の石の身体を温めた。

 

ある日、一人の若いお坊さんがやってきた。

彼は、毎朝、参道を箒で掃き清めてくれた。

 

「おはようございます、道祖神様」

 

彼は、石である我々に、まるで生きている人間のように話しかけてきた。

今日の天気のこと、村であった出来事、読みかけの経典の難しさ。

 

我々は、何も答えない。

それでも、彼は毎日話しかけてくれた。

 

ある時、彼は我々の頭に積もった雪を払いながら、独り言のように言った。

 

「あなたたちは、ずっと昔からここにおられたのですね。人間の命など、あなたたちから見れば、瞬きする間のようなものでしょう」

 

そうだ。その通りだ。

 

「でも、その一瞬一瞬を、私たちは懸命に生きている。だからこそ、あなたたちのような変わらぬ存在が、心の支えになるのです」

 

彼は、優しく微笑んだ。

 

その言葉を聞いて、我々は思った。

城が燃え落ち、土に埋もれていたあの日々も、無駄ではなかったのだと。

我々が、ただ「在る」こと。

それだけで、誰かの救いになることがあるのだと。

 

季節は巡る。

お坊さんは、やがて年を取り、住職となり、そしてある日、姿を見せなくなった。

代わりに、新しい若いお坊さんが、箒を持って現れた。

 

人間たちは、入れ替わっていく。

しかし、祈りの心だけは、変わることなく受け継がれていく。

 

我々は、その繰り返される営みを、銀杏の木の下で、静かに、幸せな気持ちで見つめ続けていた。

最後までお読みいただき、ありがとうございます!

 

道祖神は、村の境界や峠の入り口などに祀られ、外からの災いを防ぐ神様ですが、同時に「縁結び」や「子孫繁栄」の神様としても親しまれています。男女一対の像が多いのは、そうした願いが込められているからです。

 

さて、平和な日々が続く中、参道の外の世界では、少しずつ変化が起きていました。

 

次回、「旅人たちの祈り」。

街道を行き交う人々が、道祖神の前を通り過ぎていきます。

 

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