野原山城跡、石の神様が見た夢 第2話:廃城のあと
作者のかつをです。
第十七章の第2話をお届けします。
城が落ち、忘れ去られた長い時間。
石の神様にとって、数十年、数百年の時間は、人間の一眠りのようなものかもしれません。
静寂の描写と、再発見の喜びを描きました。
※この物語は史実や伝承を基にしたフィクションです。登場する人物、団体、事件などの描写は、物語を構成するための創作であり、事実と異なる場合があります。
ある日のこと。
山々を揺るがすような鬨の声と共に、城は炎に包まれた。
熱い。煙たい。
人間たちの悲鳴と、燃え落ちる建物の音が、一晩中響き渡っていた。
我々は、動けない。
ただ、門の脇で、紅蓮の炎がすべてを飲み込んでいく様を見つめていることしかできなかった。
やがて、音は止んだ。
兵士たちも、城主も、誰もいなくなった。
残されたのは、黒く焼け焦げた柱と、崩れ落ちた石垣、そして、我々だけだった。
「廃城」となったのだ。
それからの時間は、とても長く、そして静かだった。
春には桜が舞い、夏には草木が生い茂り、我々の視界を遮った。
秋には紅葉が積もり、冬には雪が我々の肩を白く染めた。
人間たちの気配は消え、代わりに獣たちが我々の周りを通り過ぎていくようになった。
タヌキが、不思議そうに我々の顔を覗き込む。
小鳥が、我々の頭の上で羽を休める。
我々は、少しずつ土に埋もれていった。
苔が身体を覆い、蔓草が絡まりつく。
(このまま、山の一部になっていくのだろうか)
それはそれで、悪くないと思った。
石は、土から生まれ、土に還るものだから。
かつての賑わいも、悲しい別れも、すべては夢のまた夢。
しかし、運命は我々を放ってはおかなかった。
廃城から、数十年、あるいは百年が経った頃だろうか。
久しぶりに、人間の足音が近づいてきた。
「おや、こんなところに」
草をかき分け、一人の男が顔を出した。
里の、百姓のようだった。薪を拾いに山に入ったのだろう。
彼は、土に埋もれかけていた我々を見つけると、丁寧に泥を払ってくれた。
そして、我々の、男女が寄り添う姿を見て、にっこりと笑った。
「これは、道祖神様じゃな。こんな山奥におられては、寂しかろう」
男は、仲間を呼んできた。
そして、我々の身体を、「よいしょ」と持ち上げた。
数百年ぶりに、身体が宙に浮いた。
我々は、住み慣れた城跡を離れ、山を下ることになったのだ。
揺れる背負子の隙間から、久しぶりに見る下界の景色。
田んぼが広がり、家々からは炊煙が上がっている。
戦の世は、終わっていた。
そこには、我々が知らなかった、平和な里の風景が広がっていた。
最後までお読みいただき、ありがとうございます!
戦国時代が終わると、多くの山城は「一国一城令」などにより廃城となり、石垣などが崩され、自然へと還っていきました。しかし、そこに祀られていた石仏などは、里の人々によって麓に移され、大切にされることも多かったそうです。
さて、山を下りた道祖神。
彼らの、新しい「職場」はどこになるのでしょうか。
次回、「山寺の参道」。
新しい出会いが待っています。
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