河内神社と瀬織津姫の秘密 第6話:川は流れ続ける(終)
作者のかつをです。
第十六章の最終話です。
これまでの章で描いてきた様々な時代の人々の営みを、川の女神の視点で包み込むように締めくくりました。
歴史の「縦糸」を感じていただければ幸いです。
※この物語は史実や伝承を基にしたフィクションです。登場する人物、団体、事件などの描写は、物語を構成するための創作であり、事実と異なる場合があります。
今日も、私は流れる。
山から海へ。
過去から未来へ。
私の名は、瀬織津姫。
川の瀬に坐す神。
神話の時代のヒナタとイツセ。
戦国乱世の弥助。
江戸の茶屋娘、おはな。
職人の正吉。
幕末の志士、松陰。
悲しき義賊、権太。
蒸気機関車の健太。
そして、名もなき女工のハツ。
この土地で生き、笑い、泣き、そして去っていったすべての人々の物語を、私は知っている。
彼らの喜びも悲しみも、すべて私の水の中に溶け込んでいる。
◇
……現代。河内神社。
夕暮れ時、一人の若者が川沿いの道を歩いてくる。
仕事で疲れたのか、その足取りは重い。
彼は、神社の前で足を止め、ふと川面を見つめた。
さらさら、さらさら。
変わらぬせせらぎの音が、彼の耳に届く。
彼は、大きく深呼吸をした。
川の冷たい空気が、彼の肺を満たす。
「……よし」
彼は小さく呟くと、また歩き出した。
その顔は、来た時よりも少しだけ晴れやかに見えた。
私は、彼を見送る。
大丈夫。
あなたの疲れも、迷いも、私が海へ流してあげよう。
だから、明日はまた新しい気持ちで生きていきなさい。
川は、流れ続ける。
この瀬野という土地がある限り。
人が、そこで生き続ける限り。
私は、いつでもここにいる。
あなたのすぐそばの、このせせらぎの中に。
(第十六章:川の女神は見ていた ~河内神社と瀬織津姫の秘密~ 了)
第十六章「川の女神は見ていた」を最後までお読みいただき、本当にありがとうございました!
瀬野川流域には、上流から下流にかけていくつもの河内神社が鎮座しています。それは、この川がいかに人々の生活にとって重要であったかの証ですね。
さて、川の物語の次は、山に眠る石の物語です。
次回から、新章が始まります。
**第十七章:旅する道祖神 ~野原山城跡、石の神様が見た夢~**
山城の廃墟から、人里の路傍へ。
祀られる場所を転々としながら、数百年もの間、旅人を見守り続けた一対の道祖神の物語です。
引き続き、この壮大な郷土史の旅にお付き合いいただけると嬉しいです。
ブックマークや評価で応援していただけると、第十七章の執筆も頑張れます!
それでは、また新たな物語でお会いしましょう。




