河内神社と瀬織津姫の秘密 第5話:現代の願い
作者のかつをです。
第十六章の第5話をお届けします。
戦後の環境汚染と、そこからの再生。
川の女神は、人間の愚かさも、そして賢明さも、すべてを見てきました。
現代の瀬野川の風景に重ねてお読みください。
※この物語は史実や伝承を基にしたフィクションです。登場する人物、団体、事件などの描写は、物語を構成するための創作であり、事実と異なる場合があります。
昭和、そして平成。
私の姿もまた、大きく変わっていった。
暴れ川だった私は、コンクリートの護岸で固められ、真っ直ぐに整えられた。
もう、自由に氾濫することはできない。
高度経済成長の時代。
私の水は、汚れた。
泡が浮き、魚が住めないほどの時期もあった。
「穢れ……」
私は苦しかった。
人々の罪を流すはずの私が、人々が出すゴミと汚水で穢されていく。
瀬織津姫としての力が、弱まっていくのを感じた。
しかし、人間たちは愚かではなかった。
彼らは気づいたのだ。
川が死ねば、自分たちの暮らしもまた、潤いを失うのだと。
「瀬野川を、きれいにしよう」
地域の人々が立ち上がった。
子供たちがゴミを拾い、大人たちが水を守る活動を始めた。
少しずつ、少しずつ、私の水は澄んでいった。
魚が戻ってきた。
水鳥が、また羽を休めるようになった。
河内神社の境内も、人々の手によって掃き清められた。
現代の人々の祈りは、昔とは少し違う。
生きるか死ぬかという切実な願いは減った。
代わりに、受験合格、交通安全、家内安全。
ささやかで、個人的な願いが増えた。
それでも、祈る心に変わりはない。
「どうか、見守ってください」
その言葉を聞くたび、私は思う。
私は、ここにいる。
形が変わっても、水が入れ替わっても。
この土地を流れる水である限り、私はあなたたちの罪を流し、心を清め続けるだろう。
コンクリートの隙間から、小さな草花が顔を出している。
その強さに、私は微笑む。
人間も、自然も、何度でも蘇る力を持っているのだ。
最後までお読みいただき、ありがとうございます!
現在の瀬野川は、地域の方々の努力によって美しい清流を取り戻しています。河内神社の周りもきれいに整備され、散歩コースとして親しまれています。
さて、物語は終わりへ。
悠久の時を見つめてきた女神の、最後の独白です。
次回、「川は流れ続ける(終)」。
第十六章、感動の最終話です。
物語の続きが気になったら、ぜひブックマークをお願いします!




