河内神社と瀬織津姫の秘密 第4話:鉄道の響き
作者のかつをです。
第十六章の第4話をお届けします。
明治時代、瀬野川のすぐ横に鉄道が敷設されました。
自然の中に突如現れた、人工の巨大な鉄の塊。
女神の視点から見る、近代化の風景です。
※この物語は史実や伝承を基にしたフィクションです。登場する人物、団体、事件などの描写は、物語を構成するための創作であり、事実と異なる場合があります。
幾星霜が過ぎ、人々の装いが変わった。
チョンマゲを結った武士はいなくなり、断髪の男たちが忙しなく歩くようになった。
そして、私のすぐ横に長い長い鉄の道が敷かれた。
山陽鉄道である。
多くの工夫たちが汗を流し、岩を砕き、土手を築いた。
第十五章の、佐吉のような男たちの姿もそこにはあった。
彼らの汗も涙も、私は知っている。
やがて、黒い巨大な鉄の塊が白い煙を吐きながら、轟音と共に駆け抜けていった。
「汽車」――陸蒸気である。
最初は、驚いた。
その音は雷鳴のようであり、その煙は山火事のようだった。
静かだった谷の空気が、煤で汚れ、震えた。
「人間たちは、なんと奇妙で力強いものを作ったのだろう」
私は、呆れると同時に感嘆もしていた。
特に、「セノハチ」と呼ばれる急坂。
そこを登るために、機関車たちは必死の形相で蒸気を噴き上げ、車輪を軋ませる。
第十一章の、健太たち機関士の叫び声が聞こえてくるようだ。
彼らは戦っていた。
重力と、時間と、そして己の限界と。
その姿は、かつてこの地を通り過ぎていった古代の旅人たちと、どこか重なって見えた。
誰もが、何かを背負い、何かを目指して、この谷を越えていく。
足で歩く者も、馬に乗る者も、そして鉄の車輪で走る者も。
私は、そのすべてを見守り続けた。
汽笛の音は、いつしかこの谷の新しいリズムとなっていた。
時には、悲しい事故もあった。
第十二章で見たような、鉄の塊が転がり落ちる痛ましい光景。
そのたびに、私は傷ついた魂を慰めるように、静かに水を流し続けた。
時代は、加速していく。
人の世の移ろいは、私の流れよりも速くなっていた。
最後までお読みいただき、ありがとうございます!
瀬野川と山陽本線は、谷あいを縫うように並走しています。川の神様にとってみれば、鉄道は少し騒がしいけれど、頼もしい隣人だったのかもしれません。
さて、時代はさらに進み、現代へ。
川の環境も、人々の祈りも変わっていきます。
次回、「現代の願い」。
コンクリートに覆われた川で、女神は何を思うのでしょうか。
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