「三人斬り岩」と鉄道工夫の叫び 第4話:岩に滲む血
作者のかつをです。
第十五章の第4話をお届けします。
今回は、物語の核心である、「三人斬り」の悲しい真相が明らかになります。
歴史の闇に葬られた、名もなき人々の無念。
その声なき声に、耳を傾けるように描きました。
※この物語は史実や伝承を基にしたフィクションです。登場する人物、団体、事件などの描写は、物語を構成するための創作であり、事実と異なる場合があります。
佐吉が意識を取り戻した時、あたりはすっかり夜になっていた。
身体のあちこちが痛む。
そして、記憶が少しずつ蘇ってくる。
監督の狂気の目。
振り下ろされた刃。
そして、仲間の血の匂い。
(俺は……。俺は、何をしてしまったんだ……)
恐怖と罪悪感で、身体が震えた。
辰夫と、三郎は、どうなったのか。
まさか、あの場で……。
彼は、よろめきながら立ち上がった。
確かめなければならない。
たとえ、どんな恐ろしい真実が待っていようとも。
彼は、月明かりだけを頼りにあの工事現場へと戻っていった。
現場は、不気味なほど静まり返っていた。
彼は、事件が起きたあの岩壁の前で足を止めた。
そこには、争ったような跡が生々しく残っている。
そして、地面には赤黒い血の染みが点々と続いていた。
彼は、その血の跡をたどっていった。
それは、岩壁の少し奥まった、洞穴のような場所へと続いていた。
彼は、息を殺し中を覗き込んだ。
そして、息を呑んだ。
そこには、三つの真新しい土饅頭が並んでいたのだ。
誰かが、急ごしらえで作った墓だった。
その一つの墓の前に、見覚えのある布切れが落ちていた。
それは、三郎がいつも首に巻いていた手ぬぐいだった。
(……ああ)
佐吉は、その場に膝から崩れ落ちた。
辰夫も、三郎も、そしてあの監督も。
三人とも、死んだのだ。
あの、狂気の殺し合いの中で。
誰が、誰を殺し、そして誰がこの墓を作ったのか。
もはや、わからない。
ただ、三つの命がここで失われた。
その紛れもない事実だけが、そこにあった。
佐吉は、声もなく泣いた。
仲間を守れなかった悔しさ。
そして、自らも手を汚してしまったかもしれない罪の意識。
そのすべてが、彼の心を、引き裂いた。
彼は、気づいた。
岩壁の表面。
月明かりに照らされて、まるで血が滲み出しているかのように、赤黒く濡れて見える箇所があることに。
それは、ただの岩の模様かもしれない。
しかし、佐吉の目には、それはここで死んでいった三人の無念の涙のように見えた。
最後までお読みいただき、ありがとうございます!
この「三人斬り岩」の伝説が、いつ、どのようにして生まれたのか、その正確な記録は残されていません。しかし、鉄道建設という国家的な事業の陰で、多くのこうした悲劇が実際に起きていたことは、想像に難くありません。
さて、仲間たちの死という残酷な真実を目の当たりにした佐吉。
彼は、ここからどう生きていくのでしょうか。
次回、「見て見ぬふり」。
事件は、闇から闇へと葬られます。
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