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ひろしま郷土史譚《瀬野編》~街道と鉄路が続く物語~  作者: かつを
第1部:古代・中世編 ~神々と武士たちの足跡~
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磐座の巫女と東からの旅人 第1話:神託の途絶え

はじめまして、作者のかつをです。

 

この度は、数ある作品の中から『瀬野郷土史譚~忘れられた丘の上の物語~』の最初のページを開いてくださり、誠にありがとうございます。

 

この物語は、私たちが暮らす郷土ふるさとが、まだ名前もなかった時代に、その礎を築いた「知られざる土地の人々」の物語です。

 

記念すべき最初の章は、瀬野という地名の由来になったとされる、生石子神社の伝説に光を当てます。

 

歴史の知識は一切不要です。

ただ、故郷の風景の裏側に眠る、人間ドラマとして楽しんでいただけたら幸いです。

 

※この物語は史実や伝承を基にしたフィクションです。登場する人物、団体、事件などの描写は、物語を構成するための創作であり、事実と異なる場合があります。

 

それでは、壮大な郷土史の旅へ、ようこそ。

広島市安芸区瀬野。

町の喧騒から少し離れた丘の上に、生石子おおいしご神社は、まるで時が止まったかのように静かに佇んでいる。境内には、苔むした巨大な磐座いわくらがいくつも鎮座し、その表面に刻まれた風雨の跡が、太古からの記憶を今に伝えている。

 

この「瀬野」という地名。

その由来を辿っていくと、遠い神話の時代、一人の巫女と、東を目指す旅人たちの、壮大な物語に行き着くという。

 

これは、私たちの故郷ふるさとが、その名を与えられた、始まりの物語である。

 

 

 

 

陽は、大地を容赦なく照りつけていた。

瀬野川は痩せ細り、川底の泥は乾いて白い亀裂を晒している。田畑は見るも無残に枯れ、村全体が熱病にうなされているかのようだった。

 

村の長老や男たちが、険しい顔で、一人の少女を取り囲んでいた。

少女の名は、ヒナタ。

この地に坐す、生石子の神の声を聞く、最後の巫女だった。

 

「ヒナタ様。神は、まだ何もお告げになりませんか。このままでは、村の者たちが干上がってしまいますぞ」

 

長老のしわがれた声が、ヒナタの胸に突き刺さる。

もう、何日も、何日も、灼熱の磐座の前で額を地にこすりつけ、祈りを捧げている。かつては潮騒のように、時には木々のざわめきのように聞こえていた神の声は、今はぴたりと止み、耳鳴りのような蝉の声と、風の音だけが空しく響くだけだった。

 

雨乞いの祈祷も、効果はない。

村人たちの視線が、日増に厳しく、そして冷たくなっていくのを肌で感じていた。期待が、失望に。そして失望が、疑念に変わり始めている。

 

(神は、私たちを、見捨てられたのか……。それとも、私に、もう神の声を聞く資格がないというのか)

 

ヒナタは、唇を固く噛みしめた。

巫女としての、己の無力さが、ただただ悔しかった。

 

その日も、答えを得られぬまま、重い足取りで磐座を下りる。乾いた土埃が舞い上がり、喉をいがらっぽくさせた。

 

その時だった。

村の外れ、西の峠道の方角が、にわかに騒がしくなったのは。

 

「なんだ、あれは!」

 

見張りの男が叫ぶ。

陽炎の向こうから、見たこともない出で立ちの一団が、亡霊のように現れたのだ。その手には、鈍い光を放つ青銅の剣や矛が握られている。

 

村に、緊張が走った。

男たちは慌てて鍬や鋤を手に取り、女子供を家の奥へと隠す。

それは、ヒナタの、そしてこの村の運命が、乾いた大地を揺るがす音と共に、大きく動き出す予兆だった。

最後までお読みいただき、ありがとうございます!

第一章、第一話いかがでしたでしょうか。

 

物語の主人公は、神の声が聞こえなくなった巫女・ヒナタです。

彼女の苦悩と、村が直面する危機。そこに現れた謎の集団。

 

次回、「西からの来訪者」。

物語のキーパーソンとなる、傷ついた旅人が登場します。

 

「面白い!」「続きが気になる!」と思っていただけましたら、ぜひページ下のブックマークや、☆☆☆☆☆での評価をいただけると、執筆の大きな力になります。

 

それでは、また次の更新でお会いしましょう。


ーーーーーーーーーーーーーー

この物語の公式サイトを立ち上げました。


公式サイトでは、各話の更新と同時に、少しだけ大きな文字サイズで物語を掲載しています。

「なろうの文字は少し小さいな」と感じる方は、こちらが読みやすいかもしれません。


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