第一章 第五話 探索と宝箱
ゴブリンを倒した後の戦闘の余韻を引きずりながら、二人は次の部屋へと足を踏み入れた。
「……なんか、空気違くない?」
新の声に、愛華も小さく頷く。これまでのどの部屋よりも広く、中央にはぽつんと木箱のようなものが置かれていた。
「……宝箱?」
「うわー、めっちゃゲームっぽい。開けたら爆発とかしないよね……」
慎重に近づいた新が箱に手をかけると、箱は何の抵抗もなく開いた。中には銀色の小瓶と、簡素な包みに入った食料が収められていた。
回復薬【小】:体力を中程度回復
保存食セット:高カロリーの栄養バー×3
「これ……ラッキーってことでいいのかな」
「たぶん?怪しい部屋だけど、敵がいないだけで最高だよ……」
瓶の中身が回復薬であることをアナウンスが教えてくれると、少しだけ二人の顔に安堵が浮かんだ。愛華はその場にしゃがみ込んで、エネルギーバーを一つ取り出してもそもそと食べ始めた。
「新も食べなよ。なんか、落ち着いたらお腹空いてきた」
「……そっか。そうだよな、ちゃんと体力つけないと」
それは戦闘なんかよりも、現実味を帯びた瞬間だった。
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――その後、いくつかの戦いを越えて。
スライムにコブリン、異形のワームのような敵を倒し、二人は確実に経験を積み重ねていた。
スライムは既に怖くはなかった。新は体の動きに慣れ、愛華はホーミングドットの軌道を自在に操れるようになっていた。
敵の動きが読める全能感――それは新の魔眼がLv.2へと進化した証拠だった。
「右からくる、伏せて!」
「ナイス、新!」
一度も言葉を交わさずとも、呼吸が合う瞬間が生まれていた。
「……ここは、何もないね……」
ゴブリンとの戦闘からいくつかの部屋を抜け、二人が辿り着いたその部屋は、奇妙なほどに静かだった。無機質で、まるで“最初に目覚めた部屋”を少し広くしたような空間。
「あれ……なんか、見たことあるような……?」
「いや、でも、違うよな……?」
違和感を抱きつつも、部屋の端に配置されたベッドのような寝台や、壁に埋め込まれた簡素な補給装置。画面の前に立つと、音声が響く。
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《システムアナウンス》
【セーフゾーンに到達しました。戦闘は発生しません。補給、ステータス管理、物資の交換が可能です】
【滞在時間の制限はありません。任意で次層へ進行可能】
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「……ここ、本当に安全なのか?……」
「ふふ、ちゃんと“セーフゾーン”って言ってるし。大丈夫なんじゃない?」
壁際に腰を下ろすと、新の全身からどっと疲労が溢れ出た。愛華も隣に座り、足を投げ出して息を吐く。
「この世界、まだよくわからないけど……戦えるってわかっただけで少し安心したよ」
「俺も……最初はただ怖くて、逃げたいだけだったけど」
新は拳を握った。自分の中で少しずつ、覚悟が形になっているのを感じていた。