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第一章 第四話 現実と覚悟


始まりの部屋に静寂が戻っていた。

スライムとの戦闘を終えたばかりの新と愛華は、ポイントの割り振りを終え、第一層へ行く前にとりあえず自分のスキルの確認をしていた。


「この“魔眼”、すごいな。物の強度とか、壁の中に何があるか……少しだけ見える感じがする」


新が呟き、視線を壁に向ける。薄い金色のラインが輪郭のように浮かび上がっていた。

隣で光球をふわりと浮かべていた愛華も、まだ信じられない様子で笑った。


「私も……本当に魔法が使えるなんて。まだ《フラッシュ》とか《ライト》しかないけど、眩しくすれば危なくなった時に逃げるくらいは出来るかも」


ふたりは持ち物を確認し、簡易ナイフと非常食、回復薬など最低限の物資を小さなポーチに収めた。

制服姿のままというのが、どこか奇妙だったが──。


「……行こうか。第一層へ」


新の声に、愛華はしっかりと頷いた。



 始まりの部屋を出ると、空気が少しだけ変わった。天井は低く、湿った空気が重くのしかかってくる。壁は苔むし、足元は石造りのタイル。

 でも、どこか既視感のある風景だった。


「……ほんと、ゲームみたいだね」


愛華が言った通り、そこはまるでRPGに出てくるダンジョンのような雰囲気だった。

新も内心で同意していた。どこか現実感が薄い。“ゲームのような感覚”が強すぎて、怖さよりも好奇心が勝ってしまうフワフワした感覚。


「通路が三つに分かれてるな……とりあえず、真ん中から行ってみようか」


慎重に進むと、通路の先に木箱がぽつんと置かれていた。中には、乾燥肉のような保存食と、使用期限のある回復薬が1本。


「アイテム……こういうのも落ちてるんだ」


「でも、運次第ってことだよね。ハズレや当たりの箱もありそう……」


探索は順調だった。なにかがいるような気配もなく、通路を何本か抜けては、部屋を確認して引き返す、を繰り返す。


だが、その油断の先に――いた。



 石の角を曲がった先で、がさりと何かが動いた。


 次の瞬間、現れたのは──人の背丈の半分ほどの、緑色の肌をした humanoid。


 粗末な布を腰に巻き、木の棍棒を握ったその姿は、どう見ても“ゴブリン”だった。


「……来たっ!」


 こちらが視認したとほぼ同時に、ゴブリンは新に向かって走り出してきた。


「フラッシュッ!」


 愛華がとっさに魔法を放つ。瞬間、強烈な光が狭い通路を満たした。ゴブリンは怯んだように足を止め、目を擦った。


 ――今だ!


 新は駆け寄り、手にしたナイフで首を狙ったがそう上手くはいかず胴体に刺さった。


 


「っ……!」


刺さった感触は、スライムとは違う。確かに“肉”を突き破った手応え。ぬるりと流れ出す感触。

思わず手を引き、後ずさる。ゴブリンは呻き声をあげながら、新の腕に掴みかかってきた。


「や、やめろ……っ!」


振り払うようにもう一度、ナイフを突き立てた。

今度はたまたまだがゴブリンの首に突き刺さる。

ゴブリンは、苦しげにのたうち、そして──崩れた。



粗い呼吸のまま、新はナイフを下ろした。

ゴブリンは床に崩れ落ち、動かない。返り血が制服の袖に染み、手の震えが止まらない。


息を詰めたまま見つめる愛華の手は光球を伴い前に突き出ていたが、可哀想なくらいは震えていた。


「……ごめん」


 何に向けた言葉かは、自分でも分からなかった。

 ただ、その存在が“敵”だったと分かっていても、確かに生きていたことには変わりがない。



その直後。



【敵性個体:ゴブリン(単独)を討伐】

【討伐ポイント:+20 】





「……あの声、まただ」


 新が呟く。聞き覚えのある無機質なアナウンス。

 脳内に直接響くその音は、勝手に状況を説明してくる。


「スキルとかは簡単にはは手に入らないみたい」


 愛華が肩を落とす。少し期待していたのだろう。

 だが、新は逆に、そのメッセージの中に“重要な情報”を感じ取っていた。


「ポイントって……つまり、自分が使うまで、成長もスキルも手に入らないってことかも」


「えっ?」


「ここは戦えば自動で強くなるシステムじゃないんだ。スライムの時にスキルを貰った時は、たしかドロップじゃなくて“初討伐ボーナス”だった。あのスライムはチュートリアルだったんだよ」


 愛華が目を見開く。


「じゃあ……この“ポイント”って……自分で何に使うか、選ばなきゃいけないんだ」


「そう。スキルか、物資か、部屋の機能か……」


 手のひらを開く。そこに“ステータス画面”と呼べるような半透明のウィンドウが表示されている。表示されているのは、自身の名前とスキル、そして――現在のポイント:60pt。


 愛華のもとにも同様の画面が浮かんでいた。



「……これ、やばくない? 選び方次第で、生き残れるかどうか変わるってことだよね」


「たぶん、そうだ。俺たち、自分で考えて、自分で強くならないといけない」


 その言葉は重かった。けれど、それが現実。


 まるで“ゲームのような世界”でも、成長には“意思”が必要だった。

 だからこそ──選べる。どう生きるかを。


「俺は、前衛系に振る。愛華を守れるように」


「じゃあ私は、後衛系にするね。魔法ももっと覚えなきゃ」


 互いにうなずき合い、そっと、ウィンドウに手をかける




「よし……行こう。まだ第一層の奥は見えてない」


「うん、慎重にね……」


 気づけば、あの“はじまりの部屋”から随分と歩いた気がする。

 けれど──ダンジョンは広い。そして階層は、あと二十五もある。


 選び、振り分け、経験し強くなっていく。

 命と隣り合わせの非日常の中、確かな手応えを得ながら。


 彼らの、最初の“本格的なダンジョン攻略”が、今ここから始まる。



《相澤 新》 ステータス振り分け後


体力:7

筋力:5→7

敏捷:7


魔眼 Lv.2


残りポイント:40pt




---


《結城 愛華》 ステータス振り分け後


魔力: 9


魔力回復速度:3


光魔法lv1→lv2

Newスキル ホーミングドット

【小さなレーザー:攻撃能力極少】

残りポイント:0pt


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