第ニ章 第十七話 強敵と新たな課題
小休止を挟みながら、ふたりは茂みの隙間を抜け、岩陰で身を潜めていた。
「数で押されると、一撃が軽くてもジリジリと削られるね……」
愛華が、すでに慣れた手つきで光魔法スキルの調整を確認しながら、肩で息を整える。
「一体ずつなら俺のスラッシュで押せるけど……群れで来られると対応が間に合わない」
「回復はヒールでなんとかなるけど、それも無限じゃないし……でも、こうしてスキルで支援できる幅が広がったのは大きいよね」
「うん。ヒールは即時発動じゃないけど、効果は確かだった……頼りにしてる」
「……ふふっ、珍しく素直だね?」
「いつも素直だろ」
そんなやり取りを交わしながらも、ふたりは今の状況の厳しさを噛みしめていた。
──“複数への対応力”が、今後の課題。
「俺もそろそろ、次の装備かスキルを考えないとダメだな……。刀の刃こぼれで限界に近い」
スラッシュLv.3の連撃は、確かに威力も精度も上がっている。
だがその代償に武器への負荷も増していた。
その時、耳を打つような乾いた咆哮。
「!!……来るよ、新」
「また群れか──いや、今回は……!」
視界の奥。木の上から黒く俊敏な影が地面に着地する。
「……明らかにさっきのとは違う!」
《フェングレイ・ウルフ・アルファ》
・個体強度:高
・咆哮によるバフ効果
・群れを率いる知能あり
「こいつ……リーダーだ」
「強いのまで、出てきた……!」
アルファの咆哮とともに、草むらから次々と姿を現すフェングレイ・ウルフたち。
「数もいる……なら!」
「ライト・バースト! フラッシュ!!」
──閃光。
咆哮とぶつかり合うように、愛華の光魔法が炸裂。数体のウルフが怯んだ隙を突き、新が前へ躍り出る。
「──スラッシュ!」
三連の斬撃が、ウルフの腹部を裂く。背後からの飛びかかりは愛華の《ホーミング・ドット》が迎撃。
「囲まれる前に、数を減らす!」
「回復は任せて! ヒール!」
新の体に光が走り、僅かに傷が癒える。
「……助かる!」
群れの猛攻をかいくぐりながら、連携は次第に洗練されていく。
その中で、愛華のスキル制御はさらに安定し、新の刀術は“体が自然に動く”域へと進んでいた。
──10分後。
最後のアルファがうめき声を上げて倒れる。
《敵性存在“フェングレイ・ウルフ・アルファ”討伐確認──報酬:150ポイント、防具素材:牙獣の毛皮×1 加算》
「……ふぅ。なんとかなったけど……」
「今までで一番、連携を求められた戦闘だったね」
「逆に言えば、連携で勝てた」
ふたりは小さく拳を合わせると、しばらく息を整えた。
「ヒール、かなり助かった……これで、消耗戦もある程度戦えるようになったな」
「うん。でもまだ、セーフゾーンが見つかってないのが気になるね」
(体力も、装備も、限界が近づいてる。そろそろ補給と休息が必要だ)
そう思ったとき──風が揺れ、草の向こうに“白い影”が跳ねた。
「ん……? ウサギ?」
「でも、普通の動きじゃない……?」
小さな白い影は、一度こちらを見つめたかと思うと、森の奥へとぴょんぴょんと跳ねて消えていった。
「……モンスター?」
「……気になるけど、今は追えないね」