表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

13/37

第一章 第十二話 痛みと教訓


第四層の探索も、5日目を迎えた。数と質を増したゴブリンたちは、もはや“経験値”ではなく“脅威”になりつつある。


それでも新と愛華は、確かに強くなっていた。


魔眼Lv.4、スラッシュLv.3、刀術の精度。 光魔法Lv.4、複数球のドット制御、連続詠唱。


だがこの日── 彼らは、それでも「足りなかった」と痛感することになる。



「新……見て」


愛華が指さした通路の先には、これまでのゴブリンと異なる雰囲気の個体がいた。


その身体はわずかに紫がかり、両手には短剣。 目が血走り、周囲に微かな瘴気をまとっている。


《ゴブリン・ローグ(変異種)》 ・毒状態攻撃 ・連撃 ・物理防御高め、魔法耐性:極小


「これは……マズいな。魔眼でも動きが捉えにくい……」


「引く?」


「いや……ここを越えなきゃ5層は見えてこない」


新が刀を構え、愛華が杖を掲げる。


「ライト!」


先制の光── しかし、ゴブリン・ローグは“瞬間的に目を細め”、反射的に壁へと跳ね、後方へ退いた。


「光に耐性!? でも完全には無効じゃない!」


「……なら、やるしかないっ!」





「──くっ!」


新が一瞬の隙を突かれ、肩を斬られた。 視界がぶれ、足元がふらつく。


「新くん!」


「大丈夫……!かすっただけ──ッ!毒……かよ……!」


体の感覚が鈍くなる。視界の端に赤黒いフィルターがかかっていく。


(このままじゃ……やられる)


そのとき──


「……ドット、連結。フォーメーション2──!」


愛華の声とともに、3つの光球が連動しながらゴブリンの足元へ飛ぶ。


「……っ、いまだ!スラッシュッ!!」


残像とともに、新の刀がゴブリンの胸元を貫いた。


──沈黙。


息を呑む間もなく、敵は崩れ、紫の煙を残して消える。


直後、空間に響く無機質な声が鳴り渡った。


《敵性存在討伐確認──報酬:50ポイント加算》 《ゴブリン・ローグ:レア個体──追加報酬:回復薬(中)×1 付与》

《激レアドロップ発生──《オーバーエッジ・カプセル》取得》



「……新! 解毒薬、すぐ使って!」


「……ああ、わかってる……少し……おさまって……きた」


肩で息をする新の横で、愛華は必死に道具袋を探る。 持ち物、回復薬、解毒薬──そのどれもが“本当の安全”を保証するものではない。


「……ごめん、私、もっと何かできるって思ってた」


「いや、俺だって……もっと避けられたはずなのに」





戦闘後、地面に転がる銀色の小さなカプセルを、新が手に取る。


「これは……」 《オーバーエッジ・カプセル》──使用者のスキル進化を強制的に促す効果を持つが、今の段階では使用できない。


新はそれをじっと見つめた後、静かにポーチへ仕舞う。






毒が落ち着き、ようやく食事が取れるようになった頃。 ふたりは、静かなセーフゾーンの焚き火の前に座っていた。


「スキルって……進化したら、何か変わったりするのかな」


「わかんない。レベルアップは強くなってる感覚はあるけど、進化は何が起こるのかは全然予測できない」


「もし、次に戦った時に……また、新が傷ついたら……」


「その時は、またふたりで立て直すさ」


ふたりは言葉少なに、スープの湯気を見つめた。


今日の戦いで失ったものは無かった。だが、“あわや”は確かにそこにあった。


彼らの心に刻まれたのは、


──「もっと強くなりたい」ではない。


──「強くなくてはいけない」。


それこそが、今日の夜に得た、あまりにも強い教訓だった。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ