第一章 第十話 確かな成長と変化
第三層を突破し、セーフゾーンを拠点化してから数日が経過した。
新と愛華は、戦いの中で得たポイントを使い、力を蓄えつつあった。
だが彼らは知った──
「成長したつもり」で止まるのは、死と隣り合わせの選択だということを。
セーフゾーンの広さは、軽い模擬戦を行うには十分だった。
今日もまた、新と愛華は手合わせを重ねている。
「スラッシュッ──!」
新が踏み込み、刀を一閃。
シュッ、と空気を裂く音と同時に、木製の訓練用標的が真っ二つに切断された。
「今の速さ、少し伸びたね。スラッシュ、レベルいくつ?」
「Lv.2からLv.3に上がったところ。今の感覚……“切る”よりも“放つ”に近い」
実際、スラッシュLv.3では高速の踏み込みと同時に、斬撃を飛ばすような現象が発生していた。
まだ明確な飛び道具ではないが、間合いの自由度は確実に上がっている。
「でも正直、スタミナ消費がヤバい。連発は無理」
「それを補うのが、私の役目ってことかな」
愛華が木の杖を構え、小さな光球──ホーミングドットを空中に浮かせる。
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4層では、ゴブリンの小規模な集団が現れはじめた。
このダンジョンの敵は、ただの経験値ではないと彼らに理解させるには十分だった。
「正面、4体。数が多い、愛華フォロー頼む」
「任せて、先に足止める!」
愛華が前方に【ホーミングドット】を展開。光の玉がゴブリンたちの目を引きつける。
その一瞬の隙を縫って、新が飛び込む。
「スラッシュ──!」
横一文字に抜刀、ゴブリン1体を斬り裂き、踏み込んだ勢いのまま2体目に蹴りを叩き込む。
背後から足音──
「ライト!」
視界を覆う閃光。振り上げた棍棒の照準が狂い、そのうちに新か刀を叩き込む。
「……決まった!」
ふたりは目を合わせ、小さく笑う。
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その夜、火皿の上で焼かれる肉の香りが仮拠点を満たす。
簡易鍋には根菜のスープ、テーブル代わりの木箱には、今日の戦利品──小さな宝箱が置かれていた。
「俺たち……本当に変わってきたよな」
「うん。あの屋上でお弁当食べてたときとは、別人みたい」
愛華が小さく笑い、杖を傍らに立てかける。
「次の階層に進むときは、“ただの高校生”じゃなくなってるといいね」
「いや、もうなり始めてるよ──戦って、生きて、強くなってんだ」
新が静かにそう言ったとき、ふたりの間にあった距離が、少しだけ近づいた気がした。