第一章 第九話 強化と拠点
第三層を突破した先にあったのは、静まり返った空間だった。
目の前に広がるその部屋は、どこかで見たことがある。
「……ここ、やっぱり“今までの部屋”と同じじゃない?」
愛華のつぶやきに、新は無言で頷いた。
天井の高さ、壁の構造、床の素材──すべてが初めて目覚めたあの部屋と酷似していた。
そして、部屋の隅には──置いたはずのスツールと、簡易収納箱がそのまま残っていた。
「……中身、ちゃんとある。薬草とか、前のドロップ品も」
「セーフゾーン、つながってるのか。毎回作り直されてるわけじゃないんだな」
新は、収納箱の蓋を閉じながら小さくうなずく。
「……なら、この部屋を“拠点”にできる。休憩だけじゃない、準備も、強化も、生活だって──」
愛華が微笑む。
「拠点って言葉、ちょっとわくわくするね」
「さっきのゴブリン戦、なんとか勝てたけど……正直、限界だった」
新は背負っていたナイフを、腰の収納袋に仕舞い込む。
見えているのに届かない──それがどれほど歯がゆいかを痛感した戦闘だった。
「……装備を変える。もっと、届く武器を」
愛華も真剣な表情で頷く。
「私も。魔力をもっと上げないと。今のままだと、火力が足りない」
セーフゾーン中央に現れた光球型のアナウンス装置に、新と愛華は順番にアクセスする。
◆《相澤 新》
【所持ポイント】:300pt
【装備購入】:鉄刀(50pt)
【スキル取得】:スラッシュ(15pt)
> ■現在のステータス
体力:7 筋力:7 敏捷:7 魔力:3
魔眼Lv.2
スキル:スラッシュ(新規取得)
装備:鉄刀(新規購入)
残りポイント:約235pt
試しに構えた刀を軽く振ると、風が切り裂かれる音が響く。
「スラッシュ──抜刀の瞬間に一閃。……これなら“見えた”動きに届く」
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◆《結城 愛華》
【所持ポイント】:300pt
【装備購入】:木の杖(20pt)
【ステータス振り分け】:魔力+3(計12)、魔力回復速度+1(計4)
> ■現在のステータス
魔力:12 魔力回復速度:4
光魔法Lv.2
スキル:ホーミングドット
スキル:フラッシュ
スキル:ライト
装備:木の杖(魔法効果上昇・小)
残りポイント:約240pt
愛華は杖を両手で握り、光球をゆっくりと生成する。
その輪郭は以前よりも明確で、速度にも安定感があった。
「制御しやすくなった……命中精度、かなり上がってるかも」
ふたりはポイントを使い、セーフゾーンを本格的に拠点として整備していく。
【スチール棚】:4pt(素材・薬草などの保管)
【火皿式コンロ】:3pt(調理火源)
【ウォータータンク】:2pt(簡易衛生)
【簡易寝具×2】:2pt×2(休息用)
木箱に加えて整えられた収納棚には、素材や回復薬が並ぶ。
ミニ焚き火には串焼きの準備がされ、空気には香ばしい匂いが漂い始めていた。
「なんかさ、戦って、帰ってきて、飯作って、寝る……」
「高校生活より規則正しいかも」
愛華が笑いながら、クラッカーを手に取る。
「でも、新くん。強くなって……早く地上に出ようね」
「……ああ。こんなところで終われるかっての」
──ふたりの目には、確かに“先”を見据える光が宿っていた。