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今日も、猫が勝手にやってくる

作者: 朱イ里

「にゃんこ、きみは身勝手だよ」


海辺の防波堤に座って、僕はその猫に言う。

毛並みはボサボサ、白い毛は砂や海水で薄汚れて、でも妙に温かみがあった。

いつも勝手に現れて、何食わぬ顔で甘えてくる。そして勝手にいなくなる。


僕は一人で海を見に来ていた。人間関係に疲れていたのだ。

簡単に言えば恋人と別れた。何がいけなかったとかどうすれば良かったとか全部どうでも良くなって、逃げ場所を探して、たどり着いたのがこの海だった。


猫は僕の隣に寝そべり、何かを見ていた。

その視線の先には、口論しているカップルがいた。


「お前が来たいって言ったんだろ!」


「そっちがリードしてくれるって言ったじゃん!」


若いな。

年食った俺には出来ないわ。


波音にまぎれて、怒鳴り声が風に散り。

元彼女のせいで言葉のピースが再形成される。

猫は動じない。ただじっと僕のそばにいる。


「なんだよ……慰めてるつもりか?」


僕は苦笑した。猫の身勝手さに、なぜか心がほどける。

さっきまで胸につかえていたものが、少しずつ溶けていく。


不思議なものだ。いつも眼中にすらなかった存在に、慰められるなんて。


「まったく、飯でも奢ってやるよ」


猫はまるで分かっているように、僕の後ろをトコトコついてくる。

決して先頭を歩かない。けれど、見捨てもしない。


きっとこの猫も、どこかで誰かに嫌われたり、追い出されたりしたんだろう。

憶測は意味をなさない。


けれど、僕は勝手に決めつけて……勝手に同情する。


嫌なやつだろ?にゃんこ。

それでも、こうして寄り添う。

まるで気にしていない、そんなことどうでもいいというしっかりとした足取りに自然と言葉がこぼれた。


「にゃんこ、きみは身勝手だよ」

もう一度そう言うと、猫は小さく「にゃ」と鳴いた。

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