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刻(とき)吸いの魔女  作者: かもライン
愛しの人を、赤ちゃんにしてしまったら
4/20

before (後編) 色んな男で、試してみたら

 バスルームから、ゆっくり優子が帰って来た。

 服も部屋着であるパジャマの上からバスローブを羽織って。


 その頃には荒れていた部屋も片付き、すっかりエアコンで暖まっていて、当の百合子もキッチン側のテーブルで、先にお茶を淹れて飲んでいた。


「優子も飲む?」

「うん」


 百合子は電気煮出しティポットから、ティカップではなく大きなマグカップに濃いアールグレイ紅茶を注ぎ、ミルクと砂糖たっぷり、あとシナモンパウダーにブランデーも少々入れた。百合子は優子の好みも熟知している。


「ああ、良い香り」

「落ち着いた?」

「うん」


 優子はマグカップを受け取ると、百合子の横に座った。

「まずは何があったか教えて頂戴。本当に心配だったんだから」

「ごめんなさい。でも」

「謝らなくて良いわ。悪いのはアイツでしょ?」

 百合子は、横に畳んだ濃紺のスーツを見ながら言った。


「突然に感じた胸騒ぎ。でもって貴方に電話したけど、出ないのではなく繋がらなくて。まさか壊されていたとは思わなかったけどね」

 踏み潰されたスマホはテーブルの上に置いてあった。修理は利くだろうか?


「とりあえず最初から、何があったか教えて頂戴」

「分かった。まずは……」

 優子はゆっくりとミルクティを飲むと、しゃべり始めた。


 帰ってきたら、アイツがダイニングキッチンに電気も消して潜んでいた事。そのまま強引に犯されてしまった事。


「そうね。確かに失念していたわ。そういう事も想定して対策しておかなきゃいけなかったのね」

「鍵の事ね。でももしシリンダー交換していても、入口とかで待ち伏せされていたかもしれないし……」

「それでも、他の人の目にも留まるから、ハードル上がるわよ。場合によっては不審者として警察に通報される可能性あるわ」

「うーん、その程度で諦めない気がする。追い出されて、本当に何処にも行く当てがなかったみたいよ」


 彼の薄汚れたスーツは、かなり前からクリーニングされていない様に見える。確か彼がお気に入りだったから優子も覚えている。タケオ・キクチ。元が良いブランドだけに、その状態がとても悲惨だ。


「一応、財布の中身も見たわ。小銭だけで、札すら入って無かった」

「ああ、やっぱり。本当に家を追い出されたのね」

「あれから仕事もしていなかった様ね。追い出したのも、その結婚相手だったのか、実家の方だったのか。その彼女も洗脳されていたかもしれないわ。かつての優子みたいに」

 とたんに優子はあわてて顔をブンブンと振った。


「ちょっと!」

「やっぱり30台半ばの結婚初夜まで処女だった娘は怖いわ」

「もう、言わないで。結婚感も男女の恋愛感も無くて、全部が思い込みになっていただけよ」

「ひょっとしたら、今回の相手も似たようなものだったかもね。そうなると奴の増長をエスカレートさせていたのも、貴方との結婚生活にも原因あると思うわよ」

「そこまで責任持てません!」

 優子も、百合子とそういう軽口できる位までは気が落ち着いた。

 そして百合子もその落ち着いたのを確認した。


「それで一番の核心だけど、彼との行為の最後の時ね、どういう感じだった?」

「うん……」

 優子も、ひとつ大きな呼吸をして、


「あの、彼が精を放ったのが本当に嫌だったのが第一。頭の中が真っ白になって、何か火花か雷が弾けたような感じがして、そうね……彼の全身から何かが溢れて私の身体に注ぎ込まれる感じがしたわ、精液だけでなくて」

「うん、なるほど」

「そうしたらその後、立ち上がって歩いて行った彼の姿が、再会した時の太って髪も薄くなっていた状態から、結婚当初の時の痩せて筋肉質で、ちょっと長髪だった姿になった」

「太ってハゲの姿は分からないけど、結婚したころの彼の姿なら分かるわ。凄いイケメンだったからね」

「ちょっと、私は彼がイケメンだから結婚したんじゃないわ。当時の彼はとても優しかったからなんだから」

「言ってしまえば、売れっ子ホストの優しさだね。恋愛経験ゼロだったら、そんな見栄えの優しさにコロっといかれちゃうでしょうね」

「もう」

 優子は、もう一口ミルクティを、ぐぐっと飲んだ。


「それから暫くしたら、その時代からももっと遡った感じで、顔も幼くなって高校生、背がちょっと低くなって体つきも痩せて華奢になった中学生、さらにどんどん背も縮んで小学生位になったところで私に掴みかかろうとしたけど、もう私よりも背も低くなって力も弱くなって、怖くなって彼をソファに投げ飛ばしたら」

 その彼を投げ飛ばしたソファの方を見る。そこには、もう何もない。


「幼児になって、赤ん坊になって、さらに小さくなっておそらく胎児なんだろうなと思う状態から小さな丸いぶよぶよした肉の塊になって、さらに小さくなって消えたの……」

 そう言いながら、優子はまた怖さでブルブルし始めた。

 顔が真っ青になり、両手で自分の身体を抱いた。


 百合子は優しくその両肩に手をやり、そして抱きしめた。

「大丈夫、もう彼はいないから」

「そうよ、彼はいないの。私が殺しちゃったの。怖かったし憎かったけど、殺すつもりなんか無かったのに」

「落ち着いて」

 さらにギュッと百合子は力をこめて抱いた。


「いいのよ、このままずっと生きていたら、絶対彼は貴方の人生をメチャクチャにするわ。生きていない方が良かった。それに」

 百合子は顔を上に向けた。

「あの再婚相手の家族や、彼が関わってきた人間関係や。そう多分そんな世の中全てにおいて、いなくて良い存在よ」

「でも」

 生きていてもしょうがない人だから、殺しても良いなんて理屈は間違っていると、優子は言いたかったが、言葉に出なかった。出なかったけど、その内容は百合子には充分伝わっていた。


「何が起こったのか、百合子は分かる?」

 百合子はちょっと表情を曇らせた。右手で頭をちょっと押さえた。


「やっぱり貴方も、魔女だったって事ね」

「そう、やっぱり」


「ずっと貴方には、潜在能力も魔力というか精神力も感じられるのに、魔法らしいものは何一つ使えなかった。けど、多分今回の事がきっかけになって開花した感じね」

「あんな形で?」

「そうね」


 百合子は両手で何かをつかむようなポーズをして力を込めた。

 何かがその両手の周りを覆って、波打つように、蒸気が沸き上がる様にほとばしっていた。


「見える?」

「ええ。でも見えるだけなら」

「そうね。見えるだけなら、前もそうだったけど」

 百合子は優子の方に向いて、その両腕を突き出した。

 何かが飛んできた。

 優子も両手を前にして、それを受けとめた。


 触れるか触れないか、そんな距離の中で、百合子からほとばしった、その何かが優子の両手から全身に伝わっていき、優子の大きな呼吸と共に全身から発散されて消えていった。


「やっと私も貴方に魔女の力を教えてあげる事、出来るようになったみたい」

「そうか」

 そんな百合子と優子の複雑な関係が、改めて2人の中で再確認された様だ。


  ☆


「まず、私は彼にどういう魔法をかけたんだと思う?」

 魔法の基本とか初歩の事とか、すっ飛ばして聞いた。今、それが何より知りたい事だから。


「魔法だという前提で、優子はどういう魔法だったと思う?」

「そうね……」

 優子は少し考える。


 結果として彼の年齢がどんどん下がっていった。際限なく。

「若返りの魔法?」

 普通に考えれば、そう。


「効果としてはそうなんだけど、その手段というか方法として考えると違うわ」

 百合子はじらす。


「若返りの魔法をかけるという事は、その魔法を優子の中に発生させて彼に送り込むって事になるんだけど、実際には逆になるの」

 優子も、ちょっと前のめりになって聞いている。


「送り込むのじゃなくて、奪うのよ。人から年齢をというか時間を」

「奪うの?」

「そう。それら積み重ねた時間と経験は、その人の財産でもあるから、奪う事は難しい。能力者じゃなくても身体の周りにバリアーの様なものを張って、オーラって言うのかしら。分りやすくいうと、でそういうもので魔法から守っているけど」

「守っているのね」

 優子は自分の手の周りに、そのオーラをぶ厚く発生させてみた。黄色く光っていた。今なら、良く見える。


「その守りも超越する程強い力で魔法をかけるか、それともその守りが無くなる様な無防備な状態にしてしまうか」

「無防備に……」

 優子は考える。無防備な状態を。


「簡単に言っちゃえば、イカせればいいのよ。性的絶頂に達した時って、それらが性器とかに集中しちゃって、イったら精液と一緒にオーラも相手に流れて行くわ」

「あ、ああ」


 確かにそれが魔法として発動したのは彼の絶頂時。

 精液がオーラと一緒に、無防備な彼から一気に時間を奪った、という事なのだろうか。結果的に。


「上手くコントロールすれば、5年分とか10年分とか、一定の分だけ奪う事も可能なんだろうけど、今回の貴方は完全に限界リミットを外して、一気に最大限にやっちゃった感じかしら」

「あ、確かにそんな感じ……」

 とても不思議な感じがしていたけど、種明かしされて、ああ、そうなんだと、納得した様な、まだ納得できていないような。


「でも上手く使えば、これで子供を産む事だって出来る様になるのよ」

「え!?」

 その時間を奪う魔法と、子供が出来る事の関連性が、今一つ分からない。


「私たち魔女も、普通に生理にもなるし排卵だってする。でもね、どうやら私たちの卵子ってとても強くて普通の精子だと、出会っても突破して中に入れないみたいなのよ。卵子を覆うガードが強すぎて」

「え、えええ!。そうなの?」

「そうなのよ」

 百合子も、うんざりする様に腕を組んで昔を思い出している様だ。


「だから、その相手を卵子にまで若返らせて、子宮の奥に入れて受精させて着床させれば、赤ちゃんは出来るわ」

 つまりは自前の卵子を使わず、外から卵子を持ってきて、それで受精させるという事。しかもその卵子は、若返らせた相手そのもの。


「でも卵子は良いとして、精子はどこから持ってくるの?」

 優子がそう聞くと、百合子は笑いながら、


「バカねぇ。その相手から時間奪うためにSEXするんでしょ。その時、生きの良い相手の精子はその子宮に残っているじゃない」

「あ、ああ」

 優子はそれを聞いて顔を赤くする。


「そ、そうか。その為に、ソレをしないといけないんだ」

「そう」

「…………」


 2人の間に、少し無言状態の時間が流れた。

 フランス語では『天使が通った』とも言う。


「じゃ、百合子も私を産む時に、ソレをしたの?」

 今まで聞くこともなかった疑問だ。

「そ、それはね」

 百合子は少し慌てたような声をあげてから、指を口に当てた。

「それは、秘密……」


 ひょっとしたら、また別の方法があるのかもしれないし、単にそうしたという事を隠しているだけかもしれない。

 また、それは百合子が優子の産みの親でありながら、絶対にママとかお母さんとか呼ばせなかった事にも繋がっている理由かもしれない。


「まずはその為にも、魔女としての経験を積まないといけないわね」

「経験って、やっぱりソレ?」

 百合子は、ニヤニヤと笑う事で答えを返した。



 それから優子は、その経験を積む為に、出会い系とか色々な手段で多数の不特定の男と性交を重ねた。


 ただ、まだ零歳・卵子に戻すまで奪っているのではなく、様は魔法をコントロールする為に、5年とか10年とか、時間を限定して奪っていた。

 コントロールせず一気にオーバーキル状態まで奪ったりすると、若返り過ぎて、本当に消えてしまう事もあるから、本番でする場合は、ほぼかっきりにソフトランディングさせる必要があった。


 優子も、その奪った時間でその分歳をとるとか言うのでなく、純粋にそれが経験値となって魔女としてのレベルアップや魔力のアップに役立っていた。

 まぁ奪われた方としても、50歳から40歳とか、30歳から25歳とかに若くなると、体力とか肌の張りとか、薄くなった髪とか若さが戻るから、ある意味ウィンウィンな結果とも言える。


 大体、男たちとはその場限りで別れるのだが、中にはとてもしつこい系・勘違いがまとわり付く事もあり、そんな時は仕方なく卵子まで戻して胎内に回帰させてみた。その際には百合子もサポートしたが、残念ながら今のところそれで妊娠まで至る事はなかった。


 胎児状態に無理して弱り切ってしまったか、子宮までたどり着けなかったか、胎内の精子と受精できなかった・着床できなかった、卵子以上に若返ってしまったのか。

 何にせよ、そう簡単に出来る事ではない、と実感していた。



 でもってこれが、優子が健太とクリスマスイブに出会う、少し前の出来事だった。




 ―――  today編に、続く ―――

元が18禁Verで作成していまして、こちらに掲載時には、かなり性的表現部分を削除しておりましたが、コンプライアンス的にヤバそうなところを再チェックして、ついでに一部(出産シーン)とか加筆修正しました。


続きも、ヤバいところ修正次第UPの予定です。

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