after 10 岡山帰省(前編)
さて2月23日は天皇誕生日。都合良い事に土日と、くっついていた為、余裕を持って健太の故郷、岡山県津山市の郊外へ訪ねる事になっていた。
当初では一泊の予定だが、イレギュラーあれば、もう一泊ぐらいしても大丈夫な様に、である。何せ、愛美はまだ生後2ヶ月なのだ。
お昼くらいに到着しようと思ったら、ほぼ始発で出ないといけない事が分かって、超早起きして大荷物抱えて出発した。元々乗り気ではなかった百合子は文句たらたらだ。別居だったら合流が大変なので、まだ同居していて助かった。
朝ごはん食べる時間も無かったが、新幹線の移動時間中を充てにして、サンドイッチ等を前日中に購入済。愛美への授乳の為にケープは用意していたが、人の目もある為、グリーン車の一番前の席を予約しておいた。なお一番前席は、壁との間に若干スペースがある為、ぎりぎりベビーカーも、そのまま入れられて便利。
さて先方には事前に大体の時間を連絡していたが、とりあえず新幹線が岡山に着いて、津山線乗り換えの時に電話してくれたら津山駅まで迎えに行くと言われていた。
とはいえ、その実家の最寄り駅は津山でなく3駅程先だし、その最寄駅からも歩いて20分位だという事を、実家住所をgoogle地図で確認していたからお迎えなんかは不要な旨を伝えたのだが「田舎を舐めたらイカン」と言われ、押し切られた。
というのも一応田舎のローカル線だという事までは認知していたので、そこから乗り換えに1時間位の待ちは覚悟していたが、実はそれは朝夕とかの、まだ乗降が多い時間帯の事であり、今から行くお昼時だと最大で3時間位の待ちになるという話。
また大荷物・ベビーカーに新生児という状況では、予定通りの乗換は出来ない事も考慮して、それに合わせて迎えの車を寄越す事になったという次第。
さて、津山の駅前に着いた。
天気は快晴。流石は晴れの国。
この時期は雪が積もる事もあると聞いていたが全然無く、微妙に残念な気もしたが、積もっていたら積もっていたで移動が難儀なので、これはこれでOKかも。
でも駅前から見える向こうの山々には雪が積もっていて綺麗だった。
城下町らしく、結構開けている。さんざん田舎と言われていたけど、思ったより住むのには便利じゃないかと感じた。
駅前の広場には、蒸気機関車が展示されている。
ロータリーで待っていたら来たのは、ちょっと大きめのセダン。降りてきたのは、前回会った則子ちゃんと初老の男性だった。
「もわぁぃ!」『親父っ!』
愛美が、声をあげる。なるほど、お義父さまね。
挨拶しようとしたら、先に則子ちゃんが来て、手を握る。
「ようこそ遠い所を。久しぶりですっ!。お元気お変わりないですか。あ、愛美ちゃんっ!、ちょっと大きくなった?」
「あの、あ……わ……」
マシンガンのごとく則子ちゃんがしゃべりかけてきて、お義父さんがしゃべるタイミング無くして口ごもっている。
「あ、あの。お義父さまですか?」
ちょっと可哀そうになって、そちらの方に声をかける。
「ええ、あの……」
しゃべり始めようとするのも、則子ちゃんがまた遮って、
「あ、ごめんなさい。あの、こちら、父ですっ!」
と、言って紹介する。
「あ、ああ……」
もうお義父さんは、完全にしゃべるタイミングをミスってただ頭を下げた。
ぎこちないけど、こちらも頭を下げる。
まぁ言われなくても大体分かる。
健太さん程大きくはないが、がっちりとした身体付きに、凛々《りり》しい眉毛。まだ薄くなっていない頭髪には白髪が半分ぐらい混じっている。
「でもって、こちらがお嫁さんの優子さんと、そのお母さんの百合子さん」
勝手にもう、紹介されてしまっている。
再度、頭を下げる。
「でもって、この子が……」
抱いていたところを強引に奪い取られた。
少し乱暴だが、もう半分は首が据わっているから、その程度では大丈夫だ。
しかも愛美も妹の性格を読んで、そろそろ来るなと心の準備していた様だ。
「兄貴の子供の、愛美ちゃんっ!」
そう言って抱き上げて、お義父さんの方に見せる。
お義父さんも一瞬は当惑するものの、愛美の顔を見て、嬉しそうな顔をする。
「抱く?」
勝手に愛美の意思も聞かずに、差し出そうとするが、
「あ、あ、やめとく。まだ、ちぃと怖ええわ」
と、手を出すのをやめる。
ああ、怖いだろうなぁ、男の人は。特に力自慢な人は、こういう時は逆に。
「だってさぁ、しょうがないお祖父ちゃんだねぇ」
そう言いながら、愛美に頬ずりする。
最低限、首やら腰やらは、しっかりカバーしているけど、なんとも乱暴だ。愛美も手足をバタバタさせている。
と、またいきなり顔上げて、
「あ、そうだ。入試日程決まったからヨロシクね。3月8日だからその前々日あたり行くと思う」
「あ、あの。あのアパートじゃなくても、ウチに来てくれてもいいのよ」
「ん~、また行ってから考える」
そう言いながら、また愛美に頬ずりする。
「ほらね~、お姉ちゃんですよ~」
ああ、やっぱお姉ちゃん。叔母さんは嫌なんだ。この先ずっとお姉ちゃんで通すのかな?
でもまぁ健太さんの意識で、妹だった相手をお姉ちゃんと呼ばされるのは何の罰ゲームだろうか。今は無理でも、しゃべり始める1歳くらいからは、そう呼ぶように強要されるんだろうなぁ。
ただまぁ愛美ちゃん的にも、両親の事を、じぃじ・ばぁばと呼ぶのは、おそらく抵抗ないと思う。
あーっ!、それより何より、自分の事は何って呼ばせれば良いんだろう。ママとか お母さんとか呼ばせた方が良いのか?。でもこれは、さすがに抵抗あるわ、互いに。
ならまだ優子と呼ばせた方が……って、それじゃぁ百合子の時と同じじゃない!
と頭が混乱していた時、ふとお義父さんの方を見た。
その視線に気付き、お義父さんも小さく両手を上げて、お手上げポーズ。
いや、これは則子ちゃんの事を呆れていたんじゃなくて、自分の思考がドツボループにハマっていただけだから!
まぁいいか。お義父さんにはそう思わせて、則子ちゃんも好きな様にさせておこう。則子ちゃんも、しばらく受験勉強でストレス溜まっていたんだろうし。
はぁ、とため息ついた後、迎えに来た車を観た。
今風とはちょっと違う、角々した感じ。ちょっと古い?
車に詳しい涼子とかだったら分かるかな?
ふと思ったのが、迎えに来たセダンが5人乗りだったから、このメンバーだったが、7人乗りとかのワゴンだったら、お義母さんも一緒に来てくれたのだろうか。
ただその場合にお義母さんが、今の状況にブレーキかけてくれるのか、相乗効果でさらに盛り上がるのかは、想定不能だ。
とりあえず則子ちゃんの気が済むまでスキンシップしてから、ようやく車に乗り込む事になった。
☆
そこから車で行く事約30分。再度、則子ちゃんがしゃべりまくったり愛美をかまったりして退屈はしなかった。
出発した津山駅近辺は、城下町で地方都市だから、近隣の人たちが集まる便利で良い所だなと感じた。通り道にイオンモールもあったし。でも、主要幹線から離れてだんだん山の方に入ると開けた感じがどんどん無くなっていき、途中に山越え川越え、着いたその健太さんの生家はポツンと、ではなかったが見事に田舎の大きな一軒家であった。そこは農家ばかりの集落なので、隣の家とは間は、畑や小川や木々があって、数十mも先にあると言う。
家に着いて、まずはお義母さんと挨拶し、そこで優子は予告通り健太の祖母と、もう一人の妹の元子さんと、その夫を紹介された。元子さんが健太さんより、いくつか年下で旦那さんが彼女より少し年上だから、おそらく健太さんと同年代。場合によっては少し年上の可能性もあった。
「愛美ちゃん。見ん間に、もう立派に赤ちゃん赤ちゃんじゃぁねぇ」
まぁ、あの時は完全な新生児だったからね。
流石に今はもう、肌も綺麗なピンク色だし、ギョロギョロ目じゃない。
誰が見ても可愛い赤ん坊になっている。
愛美がまた、そっちの方に手を伸ばしたので、目で合図して抱いてもらう。
「おぅ、ちぃとばぁ重ぅなっとぅかねぇ。元気じゃぁ」
抱かれながら、愛美はキャッキャと笑って手足をバタバタさせている。
その様子は、いる人全員が注目している。
「義母さんも、抱かんね?」
お祖母ちゃんの方を向く。
手を伸ばすから、そっちに愛美も移動する。
もう大分年齢いっている様に見えるが、意外と背筋はしゃきっと伸びている。
「まぁまぁ、生きているウチにひ孫が抱けるとは、嬉しいねぇ」
「あ、こっちもこっちも」
もう一人の妹・元子さんも抱きたいと催促する。
また愛美は、手から手へ移動していく。
「まさか兄貴に先をこされるとは思わなかったわ。でも、赤ちゃん良いね。こっちも頑張らないと」
そう言いながら元子さんは、夫の方を見る。
見られながら、御主人は照れて頭を掻く。
背は低いが、やはりがっちりした体格。やはり農業するからには、こうじゃないとダメなんだろうか。
「ねぇねぇ、こんなところで立ちっぱなしで、中に案内してあげてよ」
車から荷物運びの手伝いしてきた則子ちゃんに、注意されている。
気を使ってくれているのか、落ち着いてまた愛美の相手をしたいのか。
農家の玄関は土間スペースが広いからか、全員集まっても全然窮屈に感じず、妙にくつろいでしまっていた。
その玄関部分から上がってすぐのところが居間で、面白いことにその土間と続きの奥が台所で、台所は土足エリアにあった。
ひょっとしたら、昔は釜土とかもあったのかもしれないけど、今は普通にシンクにガス台があるようだ。
台所スペースもやたら広い。まぁこの大人数分の炊事をしないといけないのだから大変だろう。ここでの炊事も、ちょっと面白そうだ。
居間の隣の部屋を案内された。
2部屋繋がっていて、その奥には仏壇がある。仏壇の横の上には、先代・先々代の写真が並んでいる。流石に3代前まで来ると白黒写真だ。
「うぃーあ」『爺ちゃん』
そうか。健太さんにとって、この先代であるお祖父ちゃんは、一緒に暮らしていた事のある肉親なんだね。
荷物は、則子ちゃんと元子さんの旦那が運んでくれた。
「これくらい、自分で運びますのに」
百合子がちょっと恐縮している。
「いやいや、ちぃと力有り余っとりますけん」
重いスーツケースも軽々とだ。
部屋の隅に座布団が重ねられていたから、いくつか持ってくる。
移動中出来なかった、愛美のオムツを換えてやろうかと思ったから。
すると、それを察した則子ちゃんが
「ねぇねぇ、オムツ換えるの? 私にもやらせて」
と近付いてきた。
「え、大丈夫? 若い子はこういうの苦手でしょ」
「大丈夫よ。私だって、農家の子だもん」
農家の子と、オムツ換えがどれほど関係あるのかどうかは分からない。
「まぁね、大家族だと家族誰かが何らかの仕事を割り当てられるからね。収穫やら世話やら、家事とか育児も」
「はぁ、なるほどね」
ひょこっと、元子さんも愛美の顔を見に来た。
「私はまだ小さくて無理だったけど、兄貴は則子のオムツ換えも手伝ってたんだよ」
「ええー!?」
則子ちゃんが不満そうな声を上げる。
則子ちゃんが赤ちゃんだと、元子さんは5・6歳あたりで、健太さんは13歳か。
「じゃあ、私の大事なところ、兄貴に見られちゃっていたんだ!」
「見られるどころか、触られてたんだよ」
「うわぁぁぁ」
ちょっと、則子ちゃんは身震いして、
「じゃぁ、愛美ちゃんで復讐する!」
そう言いながら、もうやる気満々になっている。
「あは……じゃ、いいわ。手伝って」
ちょっと健太さん的には可哀そうな気もするけど、仕方ない。
まだ則子ちゃん自身が、本人だと気付いていないのがまだ救い。
愛美を、小さい布団の上に寝かせて、オムツカバーを脱がせて、紙オムツのテープを剥がした。
「うわ、いっぱいウンチしてる~。でも全然臭くないね」
「まだ母乳しか飲んでないからね」
両足を持ち上げると、黄色いウンチがいっぱい広がっているし、お尻も汚れている。お尻拭きを出して、則子に渡す。
「ウンチは、ばい菌のかたまりだから、しっかりとね」
言われて、則子が丁寧に拭いていく。お尻の穴とか、割れ目の奥とかも。
「う~っ……」
愛美が不満の声を上げる。
会社では、一通り全員、涼子とか理恵とかにもオムツ交換して貰った事はあるんだけど、やはり実の妹にされるのは別の恥ずかしさがある様だ。
まさに、ある意味凌辱プレイなのかもしれない。
オムツカバー穿かせて貰って、やっと解放された。
そしたら、それを見ていた元子さんがボソッと。
「あたしも、後学の為にオムツ換えとかさせてもらおうかな?」
「うぇ?」
愛美ちゃんの、苦難は続く……。
――― next after 11 岡山帰省 (後編)
シーンを追加して、予想以上に長くなってしまいました ―――