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刻(とき)吸いの魔女  作者: かもライン
愛しの人を、赤ちゃんにしてしまったら
15/20

after 8 年始 と 初出勤

 今年の勤務はその日いっぱいで、そのまま正月休みに突入した。

 休みは6日間と長いが、特にもう急ぎのものはないし、することもなく暇だったが、丁度のんびり休養出来て良かった。ある意味2人共。ただ、特に示し合わせもなかったのに、社員の人達がポツポツと顔出してくれた。愛美ちゃん用品も含め、色々な買い出しもしてくれた。

 社員以外でも、百合子の古い友人とかも、噂を聞いて訪ねてきてくれていた。


     ☆


 そして年末を越え、お正月が来て、今日は1月2日。


 ピンポーン!

 インターホンが鳴った。


「あーごめん、誰か出て」

 百合子はキッチンで、何か作っている。


 理恵はあたりを見渡した。

「えっとぉ」


 ダイニングキッチンのテーブルでは、優子と実花が差しで呑んでいる。

 話しに夢中で、ちょっと誰も邪魔できる雰囲気じゃない。


 今、ダイニングのソファでは涼子が、愛美ちゃんを膝の上にのっけて、テレビの箱根駅伝を観ている。結構熱が入っている。2人とも。

 理恵も、とりあえず一緒にテレビ観ながらポッキーでコーラ飲んでいたが、今手が空いているのは、自分だけなんだろうなと思って立ち上がった。


 インターホンの機械を操作すれば玄関の人と話が出来るのかもしれないが、操作が分からないので直接玄関に行って、開錠してドアを開けた。

 そこに、景子が何か風呂敷包み持って立っていた。


「あら、理恵。貴方も来ていたの?」

「いえ、今ここにみんな来ています。これで全員揃いました」

「え、そうなの? 何も聞かされていないけど」

「私もそうですけどぉ、自然と集まっちゃった感じみたいでぇ?」


 奥から、百合子が何か言っている。

「どうしたの? 誰」

 そしたら理恵が答える前に、景子の方が先にスタスタと入って行った。

「あ、社長。明けましておめでとうございます」


 まぁいいかと、理恵は玄関を施錠して、また居間に戻った。


 景子はキッチンの流し台の上に持ってきた風呂敷包みを持ち上げ、

「あなた達2人が寂しいかなと思って、おせちのおすそ分け持ってきたけど……」

 そう言いながら居間の方を見たら、本当に全員集まっていて、それぞれ好き勝手している。

 景子はそのお節の小さなお重と、居間の面々と見比べ、

「コレじゃ、全然足りないね」

 百合子と優子だけなら、多少余らせる位だが、そこに涼子が入るだけでも全然足りなくなる。

「いーのよ。嬉しいわ。足りなきゃ買ってくるか、出前でも取るわよ」

「お昼は?」

「もう済ませた。涼子と理恵に、近くのスーパーへお寿司買いに行って貰って」

 見ると、多分そのスーパーのお寿司が入っていたのだろう、大きなプラ容器が袋に入って転がっている。


 まぁ箱根駅伝観ている涼子と愛美ちゃんは良いとして、

「あのさぁ、優子が呑んでいるの、お酒?」

「そーなのよー。実は実花が来たのは大晦日でね、それからずっと居ついちゃって、年末と正月はなんとか我慢できたけど、今日はもう流石に我慢できなくなって、この有様よ。今日いっぱいはもう母乳は無理ね」

 呑むと、母乳にアルコール成分入ってしまうので、特に新生児に呑ませるわけにはいかない。


「まぁずっと色々と我慢していたし、今日ぐらいは仕方ないんじゃ」

「あの子も頑張ったしね。どっちにしろ愛美ちゃん、母乳だけじゃ足りないし」

 キッチンの流しの洗い桶の中には3SET分の哺乳瓶が殺菌中である。


「で、来たところ申し訳ないけど、台所手伝って貰える? 戦力になるの、他にいなくて」

 涼子と理恵は、怖くて火の番も包丁も任せたくない。

 実花はそこそこ出来るけど、今は優子の相手してもらっている。 


 景子は大きく嘆息して、持参のエプロン着用し始めた。

「まぁ一応そのつもりにしていたからね」

「で、何するの?」

「この人数だから、鍋でもしようかと。材料足りなかったら、涼子に買いに行かせるしね」


「よし! 抜いた、行け!」

「あーうぁ、うー!」

「で、今どこが勝っているんですかぁ?」

「違うのよ、それはあくまで理想論! それじゃ回らないわ」

「何、ぅてんねん。我慢しすぎやて、言う時はガツンと言わな!」


「あ~。良いお正月ねぇ」

「そうね。百合子がそれで良いなら」


 このまま夕方までもつれ込んだが、流石に夜にはお開きになった。

 流石に実花も、今日は帰った。


     ☆


 さて昨日の臨時慰労会のおかげか、優子の疲労やストレスからすっかり回復し、明けた3日・4日などは、前回やりかけた健太のアパートの掃除に取り掛かる事が出来た。回収日が未だだから、ゴミ捨て以外はほぼ完了。

 もっとも妹の則子ちゃんが住むとなったら、いくらか別途手を加えないといけないのだろうけど、それはまた本人の意思を聞いてから。


 それ迄にも何度か入試等の為に上京する事もあると聞いていたが、その時にこの部屋を使うのか、ウチに来て泊まるか何かも追って対応で。


 とまぁそんなこんなで、意外とお正月休みも早々に過ぎた。


     ☆


 1月5日は初出勤の日。

 改めて全員出社してきたが、つい数日前にも全員顔を合わせているから、久しぶりという感じでもない。

 前回と同様、愛美も出社していて、優子の席の隣にハイローチェアを置いて、そこが会社における愛美の定位置になりそう。


 さて、優子の会社の初出勤日は、同時に健太の会社の初出勤の日でもあるから、ここでようやく、退職の手続きが出来るようになる。

 既に、警察に捜索届けまでは出してある。ここで健太の退職手続きが完了すれば、当初考えていた、やるべき事リストに目途が付く。


 優子は頭の中で何度もシミュレーションしていた。備忘のメモもある。さて電話をしようと受話器を取ったら、先手を入れられていて百合子が健太の会社に電話をかけていた。

「ちょ、ちょっと百合子」

『もう、折角だから任せなさい』

 と、口パクで言って、受話器に耳を当てる。

「だって、これは」私の仕事! と言いかけたが、もう電話は繋がっていた。


「あ、もしもし。こちら高倉健太の家族の者ですが、はい。総務の方に繋いでいただけませんでしょうか? あ、そうですか。実はですね」

 百合子がしゃべり始めた声は、傍から聞いたら騙される位に優子の声としゃべり方だった。

「凄いね。あいかわらず」

 横から景子が聞いている。


「はい、ウチの健太が病気で休んだ翌日から行方不明になっておりまして、帰宅していないんです。そのまま今日までずっと。ええ。それで、もし会社に出勤しているのなら、まだ安心なのですが。ええ、はい、やっぱりそうですか。もしこのままずっと欠勤という事になれば。そうですよね。それで何かありましたら、こちらの連絡先申し上げますので、はい」

 そう言いながら百合子は、優子の携帯の番号と、ここの会社の電話番号を伝えた。

「はい、そこで倉岡優子を呼んでもらうか伝言していただければ。はい。はい分かりました。宜しくお願い致します」

 そう言って、百合子は電話を切った。


「もう~~~」

「いいじゃない。代わりに言ってあげたんだから」

「それは良いのよ。でもしてくれるなら予め言ってくれたら、私もこんなに緊張しなくて済んだのに」

「元々はあなたの仕事だからね。ただ、今回下手に言わなくてもいい事まで言っちゃうかもしれないと思って」


「それもいいの。何より気になったのが」

「ええ」

「何気にクオリティ高い、私の声帯模写しなくても、って事」

「だってまた、向こうから電話かかってくるかもだし、その時は同じ声の方が」

「同じ人が電話してくるのかどうかも分からないでしょ。同じ人だとしても覚えていないわよ」

「そうかな?」

 その2人の会話の背後で、「ウチも電話で騙された事ある」「あたしもー」と実花・里枝が話をしていた。


   ☆


「え~っと」

「またー、どうしたの?」

 電話を切った総務担当の女性に、経理部お局OLが尋ねた。


「あの、倉岡さん、今日出勤していないんですが、家族の方から行方不明になっていて、会社に来ていませんか? という電話が」

「え!?」

 お局OLも、流石に困ったなぁの反応。


「行方不明って、失踪したって事?。部署への連絡は?」

「ええ、また総務からして下さいと依頼で」

「で、今の電話は前の人?」

「ええ、前回の身内って言っていた女性」

「まぁ!」

 お局は、またその身内女性に喰いついた。


「その人、倉岡さんとどういう関係かな?」

「あの、また連絡先も聞きました。でも今回、姓が倉岡になっていて」

「え!? じゃ、籍入れたのかしら。結婚?」

「いやーん。ショック!」

「あ~、やっぱり倉岡くん、狙ってた?」

「え~、そんなんじゃ無いです。そんなんじゃない筈なのにぃ!」

「あ~。どうするんだろう。とりあえず、部署と総務部長に連絡しな」

 健太(愛美)も優子達も知らないところで、また一波乱あったという。



 ――― next after 9 健太さんの 車 ―――


 ※実は前作読み返すまで、健太の自家用車の存在を完全に忘れていた。

  さらっと、一言あったんだよね。

  だから、次回は校正でなく、書下ろしです。

  さぁどんな車にしようか? まだ考えていなかった。

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