第8話 Bランク冒険者からの協力要請!
俺が冒険者となり、リアと二人で『ホラーハウス』として活動し始めてから三週間が経った。
今日も森でオランに薬草採取をしてもらい、エルラムには三体のファングボアを狩ってもらった。
時刻も夕暮れ時になり、森での訓練も終えた俺達は、レグルスの街まで戻ることにした。
いつものように街の大門を潜ろうとすると、警備兵がぎこちない挨拶をしてくる。
「さすがは『ホラーハウス』のお二人。今日も依頼を達成できたようですね」
引きつった笑みを浮かべる警備兵の視線は、俺とリアの後方にフワフワと浮かんでいる薬草の入った荷袋と、ファングボアの大きな死骸に集中している。
これはエルラムとオランがポルターガイスト現象を利用して荷物を運んでくれているのだが、霊感のない警備兵には二人の姿は見えていない。
「いやー、たまたまですよ。最近、運がいいんですよ」
「私達のことは気にしないでくださいね」
俺とリアは慌てて笑顔を作り、警備兵にペコリと会釈をして、逃げるように街中へと急ぐ。
大通りを歩いていても、すれ違う人々が奇異の目で俺達二人を見てくるので、とても恥ずかしい。
なぜ『ホラーハウス』の名を警備兵が知っていたかというと、俺とリアのことが街で噂になっているからだ。
どうやら冒険者ギルドでバッキオの一派を叩きのめしたことが原因のようだけど、その他にも噂に色々な尾びれ背びれが付いているようなのだ。
その噂の中には、俺達の機嫌を損ねると幽霊に祟られて、玉を抜かれるという噂もあるらしい。
妙な荒くれ者達に絡まれることはないが、街を歩くだけですれ違う人達が怯えた表情をするのは止めてもらいたい。
冒険者ギルドの大きな扉を開いて広間に入ると、冒険者達が一斉に振り向き、それまでの動きを止めて、俺とリアに道を開けてくれた。
俺達が受付カウンターへ向かって歩いていくと、周りにいる冒険者達がコソコソと話しをする声が聞こえてくる。
「ひ弱そうな面をしているのに、今日もファングボアを三体も仕留めているとは。やはりネクロマンサーは侮れないぜ。魔獣の魂を吸い取って消滅させるって噂は本当のようだな」
「俺が聞いた噂では、魔獣の玉を潰して殺すと聞いたぜ。まったくエグイことをやりやがる」
冒険者登録する時に、スキル欄へ適当にネクロマンサーと書いたけど、死霊魔術なんて使えないよ。
それに魂を吸い取ることもできないし、玉を潰すってなんだよ。
色々と訂正したいけど、噂なんて勝手に広まるものだし、何を言っても信じてもらえないからな。
事実がどうあれ、信じたいモノを信じるのが人だから、言い訳しても仕方がない。
受付カウンターにいる受付嬢に依頼完了の手続きをしてもらい、報酬を受け取ってから、交換所へ薬草入った荷袋とファングボアの死骸を運び込む。
ファングボアの肉は食肉として人気があり、高値で買い取ってもらえるのだ。
もちろん、その他にもファングボアの皮、牙、魔石、それに薬草も換金してもらう。
用事を終えた俺達が休憩所へ向かうと、窓際のテーブル席に座っていた一人の冒険者が俺達に向けて手を振る。
「おーい、『ホラーハウス』のお二人さん、少し話したいことがあるんだが」
「あ、ヨークさん、私達に何かご用でしょうか?」
リアが気軽に挨拶をしているイケメン男性はヨークと言い、Bランク冒険者で『閃光の翼』と呼ばれるパーティのリーダーでもある。
高ランク冒険者なのに、気さくで分け隔てしないこともあって、女性冒険者やギルドの受付嬢からも評価の高い人物だ。
俺とリアが席につくと、ヨークは少し困っている表情をして髪をかく。
「今回、冒険者ギルドから指名依頼がきたんだが、少し難しい案件でね。それで『ホラーハウス』に協力をしてもらいたいんだ」
指名依頼とは高ランク冒険者に向けて冒険者ギルドが、パーティを指名して依頼を行うことをいう。
冒険者の中にも、俺のような貧弱な実力の者もいるから、ギルドが危険または重要と判断した依頼は指名制となるらしい。
でも実力者揃いの『閃光の翼』が困難とする依頼を、俺とリアで解決できるのだろうか?
「協力できるかどうかは詳しく依頼内容を教えてもらえませんか?」
「もちろんだとも。実は依頼内容は、ある貴族様の別荘を住めるように整えることなんだ」
「それは高ランク冒険者に依頼する内容ではないような?」
「毎年、領主様が魔獣狩りを嗜むため、レグルスの街の別荘に来るのだが、今年も別荘で泊まっているんだ。そこで原因不明の騒動が起こったらしいんだよ。それで高位の方の邸ということで、僕達に依頼が回ってきたんだけど……そこで出たんだ……」
そこまで話して、ヨークさんはイヤなことでも思い出したかのように怯えた表情をする。
屈強な魔獣を相手にしても、平然としている高ランク冒険者が、こんな表情をするなんて珍しい。
リアも不思議に思ったらしく、首を傾げる。
「何が出たんですか?」
「……たぶん、あれは幽霊だ。暗やみの部屋の中から白い影が浮かび上がってきて、その白い体には無数の腕や脚が生えているんだ。それが気持ち悪い動きをして追いかけてきてね。それに髪の毛が伸びてきて、僕達を捕まえようと……」
なるほどホークさんの意図はわかった。
要するに依頼を受けた別荘に、悪霊か怨霊のようなモノが棲みついて、それの退治に協力してほしいということだろう。
冒険者ギルドでは、俺とリアが幽霊を使役していることは噂になっているからな。
でも、俺達は幽霊が視えるだけで、お祓いもできないんだけど。
ヨークさんに協力していいものか考えていると、隣にいたエルラムがニヤニヤと笑う。
『いくら高ランク冒険者とはいえ、幽霊と対峙するは分が悪い話じゃろう。トオルよ、気軽に受けてやるとよい』
「簡単に言うなよ。俺もリアも除霊の方法なんて知らないんだぞ」
『悪霊でも怨霊でも、元賢者であるワシとオランが蹴散らしてくれるわい』
『アタシも頑張りますです』
エルラムとオランがヤル気になっているようだけど。
騒動が大きくなるイヤな予感しかしない。
三人で話していると、ヨークさんが俺達を指差して頬をピクピクと痙攣させる。
「まさか、そこに霊がいるのか?」
「アタシ達はここに居るですよ」
無邪気な笑顔を浮かべ、オランがポルターガイストでテーブルを浮かせる。
するとヨークさんは「ヒー!」という小さな悲鳴を上げて、体を硬直させた。
人に霊の声が聞こえないからといって、いきなりテーブルを浮かせるのは止めなさい。
ヨークさんの様子からすると、別荘でとても怖い体験をしたんだろうな。
これは完全にトラウマになってるね。