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第7話 荒くれ者バッキオとの乱闘騒ぎ!

どうやってこの場から逃げるか、頭の中でパニックになっていると、俺達を取り囲んでいたバッキオの仲間の一人が、隣にいる仲間の頬を全力で殴り飛ばした。

するともう一人の仲間も、他の仲間をぶん殴る。


二人の仲間が吹っ飛ばされて床に倒れている姿を見て、バッキオは目を見開く。


「お前達どうした? どうして仲間同士で殴り合ってる?」


「それが、わからねーんだ。まったく体がいうことをきかねーんだ。殴りたくないのに、殴っちまう」


「俺の体、どうなっちまったんだー!」


二人の男は悲愴な表情を浮かべながら、次々と仲間を薙ぎ倒していった。

そして最後に二人は同時に殴り合って、気絶して床に沈む。


する何時の間に潜り込んだのか、二人の体からエルラムとオランが抜け出してきた。


エルラムは自信満々な表情でニヤリを微笑む。


「ほれ、簡単に倒せたじゃろう」


「では、最後にこの男を倒しちゃいましょう」


オランはピョンピョンと跳ねると、その勢いのまま一気にバッキオの体と同化する。

すると憑依されたバッキオが片膝をついて、両腕を広げた。


「さあートオル様、心おきなく顔面に一発ぶち込んでくださいです!」


「筋トレもしていない俺が殴っても痛くないだろ」


「じゃあ、これを貸してあげる」


どうしていいかわからずに立っている俺に、リアが鞘ごと剣を放り投げてくる。

その剣を両手で握り、俺は生唾をゴクリと飲んだ。


この剣って、どう見ても金属製だよな。

日本にいた時、ヤンキー漫画で、金属バットや鉄パイプで相手を叩きのめすシーンを読んだことがある。


でも、あれは空想の世界でだよな。

現実でこんな硬い剣を使って殴り飛ばしたら、バッキオも大怪我をするのでは?


どうしようかと周囲を見回すと、遠巻きに観戦している冒険者達が熱い眼差しを送ってくる。

そしてリアとエルラムが大きく頷いて、親指を上に立てる。


「こうなったら、ヤケクソだ! おらぁぁああーー!」


俺は野球の座席に立つ構えをして、横薙ぎに剣をフルスイングする。

しかし、予想よりも剣は重く、重心がズレたため、バッキオの股間に直撃した。

するとバッキオの目がクルリと白くなり、口から泡を噴いて、仰向けに倒れた。


それと同時に広間にいた冒険者達から歓声の声があがる。

バッキオの倒れた体から飛び出してきたオランが、なぜか恥ずかしそうに両手で顔を覆う。


『女の子になっちゃったかもです』


剣道もしたことのない俺が、金属製の剣を大上段から振り下ろすことなんてできない。


それが股間にたまたま当たったのは不運な事故というか……同じ男として、ごめんなさい。


こうして華々しい冒険者デビューを果たした俺は、バッキオの股間を潰した男として、冒険者達から一目置かれることになり、俺達のリアのパーティも恐怖の『ホラーハウス』として噂されるようになった。


それから一週間、俺はGランク冒険者として、日々の依頼をこなしている。


とはいえ、最底辺ランクの俺が受けられる依頼は限られていてるから、薬草採取しかしていないのだけどね。


今日も街の周辺にある小さな森へと赴くと、オランがポルターガイスト現象を利用して、せっせと薬草を集めてくれている。


俺がいくら注意して観察しても、雑草と薬草の区別もわからないが、元冒険者であるオランには簡単な仕事のようだ。


彼女がせっせと働いている間、俺はリアから剣術の基礎を教わり、剣での素振りを繰り返す。

しかし、百回もこなしていないのに、金属製の剣を振るだけでも、全身の筋肉がビキビキと悲鳴をあげる。


体力の限界を迎え、地面に仰向けになってゼイゼイと荒い息をしていると、リアが顔を覗き込んできて、大きくため息を吐く。


「これぐらいの訓練で倒れているようじゃ、魔獣との戦闘は程遠いわね。そんなに体力がないなんて、今までどんな暮らしをしてきたのよ」


「だから俺の居た世界では、魔獣なんていなかったんだよ。それにデスクワークしかしたことがなかったんだから、戦闘集団の冒険者達と同じにようにできるわけないだろ」


「そんな弱音は聞きたくないわ。トオルには早く借金を返してもらわないとダメなんだからね」


今、俺が持っている剣も、身に着けている軽装の軽鎧も全てリアが買ってくれたモノだ。


しかし、彼女が奢ってくれたわけではなく、俺の借金として上乗せされている。


日々の薬草採取の依頼の報酬だけでは、宿代を支払うだけでもギリギリで、リアへの借りが膨らむばかりだ。


やっと体力が戻ってきたので、剣の練習を再開していると、森の樹々が揺れて、茂みから大きな魔獣の死骸をフワフワと宙を飛んでくる。


そして、それと同じくしてエルラムが森の中から姿を現した。


「今日の獲物はファングボアじゃ。この森の中では強い部類に入る猪系の魔獣じゃのう。ワシの相手をするには物足りない獲物じゃったわい」


地面にドスンと落されたファングボアの死骸は、こんがりと焼けていた。

どうやらエルラムが火炎魔法を使って、魔獣を仕留めたようだ。


リアが俺の訓練に付き合ってくれているので、彼女の代わりにエルラムが魔獣を倒してくれたりしている。


エルラムは肩をコキコキと鳴らすような動作をして、いきなりリアに飛びついた。


『リアよ。そなたのために働いたワシを癒してくれ!』


「イヤよ! この変態ジジイ!」


抱き着こうとするエルラムの頬を、リアが全力のビンタを見舞う。

すると、恍惚とした表情で、エルラムが後方へと吹っ飛んでいった。


どうやら魔力を手に集中させると、霊体にも触れられるらしい。

エルラムからのセクハラ対策として、リアが考案した撃退方法である。


地面に倒れ伏せたエルラムが顔を上げて、リアに懇願する。


『ワシも頑張っているのじゃ。せめて魔力だけでも吸わせてくれ』


「絶対にイヤよ。エルラムに体を憑依されると、体をペタペタと触られるから。魔力を吸うならトオルからにしなさいよ。アナタ達と契約しているのはトオルなんだから」


両腕に豊満な胸を隠して、プリプリと頬を膨らませてリアが言い放つ。


そういえば彼女が嫌がったから、俺が代わりにオランとも盟友契約をしたんだどね。


よく考えてみると、エルラムには魔獣を狩ってもらい、オランには薬草採取をしてもらってる。

二人の協力には感謝するしかない。


でも、幽霊二人に日々の生計を支えてもらっているのって、冒険者として間違っているよな。

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