第6話 パーティ『ホラーハウス』結成!
異世界に来て容姿が変わっていることについて、悩みは尽きないが、考え込んでいても仕方がない。
何かの呪いや祟りの類だとしても、俺には解く術もないからな。
女性になっていたり、老人になっていればパニックにもなるが、十五歳ぐらいの身体になったのだから、文句を言うどころか、感謝したいぐらいだ。
この異世界で暮らしていれば、いずれ謎もわかるだろう。
ということで、ドタバタはあったものの、俺は十五歳として登録を済ませ、晴れて冒険者となった。
やっと手続きを終えて一息ついていると、リアが顔を左右に振る。
「まだ終わってないでしょ。トオルと私はパーティを組むんだから。パーティ名を考えないと」
「そう言われても、センスのあるパーティ名なんて、すぐに思いつかないよ」
「そうね。私も冒険者としてはDランクだし、トオルは最底辺のGランクだもんね。パーティに一人でも実力者がいれば、そこからパーティ名を考えてもいいんだけど」
『それなら賢者のワシがおるではないか。ワシの名を取ってエルラム教団というのはどうじゃ』
「そんなの絶対にイヤよ」
エルラムの提案をリアが激しく拒否する。
それは俺も同感だ。
どこかのカルト新興宗教みたいな名前は止めてくれ。
でも待てよ……幽霊を連れている冒険者って、それだけで特徴的だよな。
日本のアニメや漫画の主人公にも、ゴーストバスター、心霊ハンターなど色々ある。
すると俺の頭の中にふと、ある名前を思いついた。
「『ホラーハウス』ってのはどうかな。俺達は幽霊を連れているからホラーだろ。それにパーティって、仲間というか家族みたいな関係だよな」
「幽霊の棲む家、私達らしいパーティ名ね。他に良い名も考えつかないから、それでいきましょう」
『幽霊であるワシやオランにも配慮された名前じゃ。気に入ったわい』
『はい。アタシもそれでいいと思いますです』
リアにも納得してもらったし、エルラムとオランも喜んでくれているようで良かった。
パーティ名も無事に決まり、登録を済ませた俺達は、カウンターから離れて、休憩所へと向かった。
空いている四人掛けのテーブルの椅子に座って寛いでいると、オランがニッコリと笑って立ち上がる。
『アタシが料理を買ってきますです。注文は何にしますですか?』
「そうね。私はオーク肉のステーキと、野菜スープのお願いするわ」
「じゃあ、俺も同じ料理で」
オーク肉というのは、ラノベ小説にも登場する魔獣のオークの肉だろうか?
日本では魔獣の肉なんて食べたことがなかったから、少し興味が湧くよね。
リアもウキウキと料理を頼んでいるし、不味いことはないだろう。
スーッとオランが去っていったので、そのことに気づかずリアと談笑していると、テーブルの近くからドタドタと大きな足音が聞こえてきた。
その音に気づいて後ろを振り返ると、筋肉隆々の剥げ頭の男が、料理を乗せたカーゴを押して、俺達に近づいてきた。
カーゴから料理を下ろして、テーブルに並べていく厳つい男の姿が不気味で仕方がない。
「もしかしてオランか?」
「はい。そうです。料理をお持ちしたですよ。お代は既に、この男が支払っていますから、気にしないでいいです」
小さくて可愛いオランの姿と、憑依している剥げ頭の男のイメージが、どうしても一致せずに、頭が痛くなってくる。
眉間を指で揉んでいると、今まで呆気に取られていたリアが気を取り直して声をかける。
「オラン、憑依している人が誰か知ってるの?」
「まったく知りませんです。男性には興味ないですから」
「そういう問題じゃないわよ。この男は、冒険者ギルドでも荒くれ者で有名なバッキオよ。素行は悪いけど、Cランクの冒険者なんだから。騒ぎになる前に体を返してきて」
「お姉様の命令であれば、すぐに体を元の場所に戻してくるです」
バッキオの体に憑りついたオランは、姿勢を正して敬礼すると、窓際にいるバッキオの仲間達の元へと走っていった。
その様子を見ていた周囲のテーブルから冒険者達のヒソヒソ話が聞こえてくる。
「あの狂暴なバッキオが敬礼していたぞ。奴等は何者なんだ?」
「Cランク冒険者のバッキオに命令できるなんて、どんな実力者なんだよ」
「冒険者の間でも、手のつけられない狂犬と言われているバッキオを従わせるなんて半端ねーな」
うぅ……完全に周囲の冒険者から誤解されてるぞ。
それにしてもバッキオって奴は、とんでもない実力者みたいだけど、どうしてそんな厄介な男に憑依するんだよ。
なんだかとんでもない事態になったと頭を抱えていると、窓際の席からバッキオの大声が轟く。
「どうして俺が見ず知らずのヒヨッコ冒険者の給仕をしなくちゃならねーんだ。どうして俺が奴等の代金まで支払ってるだ。納得いかねーぞ」
ガバっと席を蹴飛ばして、バッキオが怒りの表情を俺達に向けてくる。
そしてバッキオの仲間達も立ち上がり、俺達のテーブルを目指してゆっくりと歩き始めた。
それを見た瞬間、顔色を青くして、リアが俺の手をギュッと握る。
「ボヤボヤしてないで逃げるわよ。あんな連中と喧嘩しても勝てる見込みもないでしょ」
「ああ、そうだな」
『待て、待て。ここにはワシとオランがおる。心配せんでも、あの程度の連中なら簡単に蹴散らしてくれよう』
俺達二人が慌てているのに、いつの間にか席に戻ってきていたオランとエルラムは、余裕の表情でニヤニヤと笑っている。
幽霊の二人には人間の拳は届かないけど、あんな筋肉隆々の冒険者に殴られたら、俺が一発で致命傷だよ。
俺とリアが逃げようと席を立つと、それよりも早くバッキオの仲間が俺達の周りを囲む。
そしてバッキオが両拳をボキボキと鳴らして、険しい表情をする。
「よくも俺様をパシリ扱いしてくれたな! いい度胸だ、死ぬ準備をしろよ!」
「待って、待って、待って! 暴力はよくない! 話し合いで解決しよう!」
「冒険者が何を言ってるんだ! ここでは暴力こそが力を持つんだろうが!」
平和な日本であれば、クレーム対応もしたことがある俺の実績であれば、揉め事を丸く収めることもできただろう。
しかし、異世界であるシャンベル界では、屈強な魔獣が森の中を徘徊する世界だ。
冒険者といえば、武芸や魔法によって戦う戦闘集団である。
そんな連中を相手に俺が戦って勝てるはずがない。
どうやって、この場から逃げればいいんだよ。