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第4話 冒険者登録に行こう!

しばらく少女に憑りついていたエルラムは、爽やかな表情で彼女の体から抜け出してきた。


『ふー、久しぶりに魔力が満タンになったわい』


「こんなに弄ばれて、もうお嫁にいけない……」


憑依が解かれた少女は、体力が尽きたように、地面にペタリと倒れ込んで、涙目でジロリと俺を睨む。


彼女に何かしたのはエルラムであって、断じて俺ではないんだけど。

どこかに八つ当たりしたい気持ちもわかるな。


「大丈夫かい?」


「責任取ってよね!」


「俺は君の体にも触れてないだろ」


「あのエロジジィの幽霊とお友達なんでしょ。だったらアナタの責任じゃない。」


それを言わると痛い。

友達になる人物を冷静に見極めなかった俺に非がある。

それに少女のあられもない姿を見たのは事実だし。


少し責任を感じた俺は、素直に深々と頭を下げた。


「エルラムのしたことについては俺からも謝罪する。ごめんなさい」


「言葉だけの謝罪なんて誠実でも何でもないわ。謝罪するつもりがあるならお金で支払ってよ。この世はお金が全てなんだからね」


「今はお金が全くないから、仕事をして、その報酬から渡すよ。幾ら支払えばいい?」


「金貨一万枚と言いたいところだけど、優しい私は半額にしてげるわ。金貨五千枚。まだ穢れも知らない私を弄んだのだから、これぐらいの金額は支払ってもらうわよ」


幾らを要求されているのかわからないが、高額だろうと見当はつく。


金貨……五千枚……


どうして異世界に来てまで、借金を背負うことになるんだよ。


虚ろな目をしている俺の肩に、エルラムがポンと手を置く。


『元賢者のワシがついておる。金貨五千枚ぐらい軽く稼いでみせよう』


「誰のせいで俺が借金を背負うことになったと思ってるんだ?」


ジロリと俺が睨むと、エルラムがニヤリと微笑んで小声で囁いてきた。


『いざとなれば逃げればいいだけじゃ。お主が彼女を襲ったという証拠はどこにもないんじゃからのう』


少女に憑依したのはエルラムだろ。

気軽な雰囲気で、責任転換するのは止めろ。


それにしても窮地になれば逃げてしまえばいいって、とんだ賢者様もいたもんだ。


すると不穏な感じを察知したのか、少女が片眉をピクリと上げる。


「コソコソと話して気持ち悪いわね。キッチリと支払いが終わるまで、絶対に逃がさないんだからね」


「わかってるよ。そんなつもりはない。でも高額なお金は支払えないよ。この街に来たばかりだって言っただろう」


「仕方ないわね。アナタは冒険者になりなさい。そうすれば私がパーティを組んであげるから。そうすればアナタはお金を稼げるし、私も借金を返してもらえるわ」


いつの間にか、ホントに俺が借金しているみたいになってるし……


でもエルランド王国で知り合いになったのは、幽霊の老人と彼女だけ。

今は少女を頼るしかないんだよな。


学生の時しか運動をしたことがないが、冒険者になれるかな?

不安は残るが、今は彼女の提案に乗るほうがいいだろう。


地面に座り込んでいる少女に向けて、俺は微笑みながら手を差し伸べる。


「それじゃあ、冒険者になるよ。俺の名はトオル。これからもよろしく」


「そういえばまだ名前を教えていなかったわね。私はリア・コウティアス。リアって呼んでね」


リアはニコリと微笑むと俺の手を取って立ち上がり、パンパンと片手で装備についた汚れを払う。


その後に俺は粘り強くリアと話し合い、彼女への借金を金貨三千枚にしてもらった。

俺がエルラムの主ではないと言っても、これ以上の交渉は無理そうだ。

それからリアが、お金が大好きということもわかった。


気分を切り替えて、俺はリアと一緒に冒険者ギルドへ向かうことにした。

もちろんエルラムも一緒だ。


細い路地を歩きながら、ふと頭に過った疑問をリアに聞いてみる。


「リアって幽霊が見えるんだよな。この世界の人達も幽霊を見たりできるのか?」


「私以外に幽霊が見える人を知らないわ。できることなら私も普通の人達のように霊が見えないようになりたかったわ。この体質のせいで、昔から妙なことに巻き込まれてるんだから」


リアは寂しそうに影のある笑みを浮かべる。


俺も幼少の頃から様々な霊体験に遭遇した。


そのおかげで、学生時代は友達が一人もできなくて……昔を思い出すと悲しくなってくるな。


リアも大変な思いをしてきたんだろう。

親近感が湧くな。


俺とリアの会話を聞いていたエルラムが長いアゴヒゲを片手で撫でる。


『このシャンベル界でゴースト、霊を見ることができるのは、死霊魔術師、ネクロマンサーだ。奴等は彷徨える霊を強制的に使役するので好かん。幽霊の権利を何もわかっとらんからな』


幽霊の権利?

人権みたいなモノかな?

死んでいるのに権利を主張するのって、何だかおかしくないか?


エルラムの言葉にリアはウゲっと吐くような表情をする。


「権利でも主張でもいいけど、いつも突然に襲ってくるのは止めてほしいわね」


「そんなに頻繁に霊現象を体験してるのか?」


「冒険者ギルドへ行けばわかるわよ」


意味深な言葉を残し、リアはツンと顔を背けて、スタスタと脚を早める。

どうやら彼女の機嫌を損ねる何かが冒険者ギルドにあるようだ。


路地を抜けて、大通りを街の中央方面に向けて歩いていくと、レンガ造りの大きな建物が見えてきた。

その建物には剣、盾、槍、杖を画題にした看板が掲げられている。

たぶん、あれが冒険者ギルドだろう。


重厚な扉を開けて、リアと共に建物の中へ入ると、大きな広間には沢山の武装した冒険者達が集まっていた。


人が行き交う通路脇の壁には、巨大な掲示板があり、依頼書だろう羊皮紙がペタペタと張りつけられている。


その通路の奥には大きなカウンターがあり、スタイルの良い受付嬢が佇んでいた。

そして広間の半分は休憩所になっいるらしく、多くの冒険者が昼間から、小樽を片手に談笑している。


俺、エルラム、リアの三人が広間の中央まで歩いていくと、椅子に座っている冒険者達がジロジロと殺気のこもった視線を俺達に向けてきた。


その視線に怯えながら、俺は首を傾げ、隣にいるリアに囁きかける。


「あれ? 俺達、注目されているような? エルラムが一緒だからかな?」


「何を言ってるの。連中には幽霊は見えないわよ。注目されているのはトオルの服装よ。明らかに冒険者の武装じゃないもの」


そういえば異世界に転移してから服装を着替えていない。

冒険者ギルドの中で、上下グレーのスーツにビジネス鞄は目立つよな。

それに体を鍛えていない俺は、冒険者から見れば軟弱そうに見えるのかも。


そんなことを考えていると、不意にリアが「キャー」と悲鳴をあげる。

その声に驚いてリアの方を見ると、彼女は恥ずかしそうに顔を真赤にして、自分のお尻を両手で庇っていた。


「いったい、どうしたんだ?」


「あいつよ、あいつ。冒険者ギルドに棲みついてる幽霊なんだけど、いつも室内にいる女性の体を触ってくるのよ」


リアが指差す方向へ視線を送ると、人間の半分ほどの小人が、受付嬢の豊満な胸に顔を埋めていた。


何と羨まし……いや、けしからん。


すると今まで影を薄くしていたエルラムがフラフラと小人へ歩いていく。


『ワシも一緒に混ぜてもらっていいじゃろうか』


「いいわけないでしょ!」


エルラムの言葉に堪らず、リアが大声で叱責する。


同じ男として気持ちはわかるけど、セクハラになるので止めてくれ。

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