第37話 王都の冒険者ギルドからの指名依頼!
翌日、俺、リア、エルラム、オランの四人は幽霊冒険者達を連れて、冒険者ギルドへと向かった。
もちろんエルラムもオランもゴーレムの体を使って人化している。
テーブルの椅子に座っていたバッキオに声をかけ、パーティメンバーを連れて来たと伝えると、不満そうな表情をされた。
「冒険者への詫びと言えば、金貨だろうが」
「わかってるわよ。キチンと用意してきたわ」
腰のポーチから金貨入りの革袋を取り出したリアが、バッキオに投げつける。
その中身を見たバッキオはニヤリと頬を緩ませた。
「わかってるじゃねーか。お前達が集めてきた連中は、俺の仲間としてしっかりと鍛えてやるよ」
バッキオは機嫌よく、幽霊冒険者の背中を叩いて、一緒に冒険者ギルドから去っていった。
その後ろ姿を、エルラムとオランがニヤニヤと笑いながら見送っている。
俺は髪をかいて、リアに頭を下げた。
「金貨を用意してくれてありがとう」
「礼を言わなくてもいいわよ。トオルの借金に上乗せしておくから」
さすがリア、現実はそれほど甘くなかった。
気分を切り替えて掲示板を眺めていると、受付カウンタから出てきた受付嬢が、俺達の方へと歩いてくる。
「お二人は『ホラーハウス』の方でしょうか? ギルドマスターがお話しをしたいと申していますので、別室へとお越しください」
ギルドマスターからの話と聞いて、イヤな予感がするけど、冒険者である俺達が断れるはずがない。
受付嬢の後ろに続いて、広間の奥にある階段を登って、廊下を歩いていくと会議室のような部屋に通された。
受付嬢が去っていき、部屋の中で待っていると、扉が開いて金髪のイケメンが姿を現した。
「やあ、お待たせ。僕が王都のギルドマスター、フェイン・アルモーゼだ。ガストンから君達をことを聞いてね。ツモリ男爵と呼んだほうがいいかな?」
「トオルでいい。それで俺達に何の用だ?」
「『ホラーハウス』へ指名依頼をしたい? 『晦ましの森』の調査をしてほしい」
フェインの言葉を聞いて、エルラムが長いアゴヒゲを擦る。
そして俺に耳にそっと囁く。
「『晦ましの森』とは王都近郊にある小さい森なんじゃがのう。森の中へ入ると、なぜか迷ってしまい、森の奥へ進めぬと言われている森なんじゃ」
また厄介な森のようだな。
できることなら関りになりたくない。
顔をしかめている俺の隣で、リアが片手をヒラヒラと振る。
「ただ森を調査するだけなら他の冒険者でもいいでしょ。どうして私達に依頼するんですか?」
「『晦ましの森』は低級魔獣の生息する森でね。あまり強い魔獣はいないんだ。なので魔獣討伐の経験を積むために新米冒険者がよく森に入っているのだが、最近になって行方不明になっているパーティが増えてきてね。その原因が判明するまでは冒険者達にも依頼できないのさ」
「そんな危険な森の調査を俺達に依頼するなよ」
俺の言葉に、 フェインがニヤリと笑って、懐からブラックカードを取り出して見せる。
「このカードを持つ者の意味を理解してるよね」
ブラックカードを持つ者は、冒険者ギルドとエルランド王国のために、普通の冒険者が忌避する依頼を受けなければならない。
その代わりに俺達の身分を保証してくれたり、王国への人頭税などが免除されたり、警備兵に捕まることがなくなったり、色々な特典のあったりする。
リアはカードを見て、頬を膨らませる。
「報酬はたんまりと貰えるんでしょうね」
「もちろんだとも。君が笑顔になるぐらいの報酬は出そう。安心して森への調査に行ってくれたまえ」
リアが満足する報酬なんて、金貨が三桁あっても足りないぞ。
どうやら フェインは彼女の怖さを知らないようだ。
指名依頼と言っても、これは実質的な強制依頼に等しい。
抵抗しても無駄だと悟った俺達は、諦めて『晦ましの森』の調査に向かうことにした。
冒険者ギルドの建物を出て、街の外壁を潜って街道に出る。
それから一時間ほどあぜ道を歩いていくと、うっそうと茂った森が現れた。
フェインの話では低級魔獣しかいないと言っていたが、念のためオランに頼んで俺に憑依してもらった。
リアも同じように考えていたようで、自分の体にエルラムを憑依させる。
「憑りついてもいいけど、体の変なところを触ったら、後からお仕置きだからね」
「美少女にお仕置きされるのは、ワシにとってご褒美じゃ」
リアの唇が開いて、エルラムが話す。
傍で見ていると、一人芝居をしているようで不気味だな。
森の外にエルラムとオランのゴーレムの素体が残るけど、後から回収すればいいよね。
薄暗い森の中を歩いていくと、すぐにゴブリンの群れと遭遇した。
それをオランが俺の体を操って瞬殺していく。
身の危険はないけど、これだと俺は何も意識していないから訓練にはならないな。
それから獣道を辿って森の中を進んでいくと、次々とゴブリンの群れや、コボルトの群れが現れた。
しかし、エルラムの魔法とオランの剣技により、どの魔獣もあっという間に討伐されていく。
普通の森と変わらないなと思いながら、森の奥へと歩んでいくと、先ほど見た樹々が現れ、低級魔獣の死骸が転がっている。
その屍と周囲を見回し、エルラムが長いアゴヒゲを擦る。
「どうやら迷いの結界が張られているようじゃのう」
「それって誰かが魔法を使っているということか?」
「それはわからん。探知の魔法で探ってみようかのう」
エルラムがリアの体を使って、剣を振り回して周囲の樹々へと向ける。
そして口の中でブツブツと詠唱し、剣を頭上にかかげる。
「目に見えぬ理よ、姿を見せよ! それ探知じゃ!」
すると目の前の樹々が歪み、ある一方に風が流れていくのが見える。
どうやらエルラムが俺にも魔法を付与してくれたようだ。
《これならアタシでも森の奥へ簡単に進めるのです》
俺と感覚を共有しているオランが嬉しそうに念話を飛ばしてくる。
それから俺達は風の流れに従って、森の奥へと慎重に歩いていく。
すると目の前に円形の祭壇のような遺跡が現れた。
円形の中心には五芒星が描かれており、魔法陣のように見える。
その祭壇の奥には大きな鏡があり、その額縁に猫の顔が備わっていて、実に気持ち悪い。
じっと気味の悪い祭壇を見ていると、リアの体から抜け出したエルラムがニヤニヤと笑む。
『この古代遺跡は、ミルテリアム王国よりも古い時代のモノじゃのう』
「これが何かわかるのか?」
『今はワシにもわからんが、この祭壇を調べれば、何か答えてくれるであろう』
エルラムの言葉を聞いて周囲を見回すが、俺達以外の人影は見えない。
俺達が祭壇を探っていると、不意に声が聞こえてきた。
『お前達は何をしにきたニャー! 悪さをしに来たなら、憑り殺してやるニャー!』
ニャーと威嚇されてるけど、猫の姿なんて何にもいないぞ?
まさか捨て猫の怨霊でもいるのかな?




