第34話 マグリニス子爵とのご相談!
剣を構えたまま、怪訝な表情でマグリニス子爵が俺を見据える。
その様子に俺は慌てて握っている剣を床に投げ捨て、両手をかかげた。
「俺の名はトオル・ツモリ。マグリニス子爵を助けにきた冒険者です。経緯を説明するので落ち着いてもらえませんか?」
「そのままで話せ。変な動きをすれば斬る」
記憶を取り戻したら、邸がめちゃくちゃに壊れていて、変な連中が倒れてるんだから、俺のことを疑う気持ちは理解できる。
俺は体の力を抜いて、アルバート様から指名依頼を受け、ペイジ達を追跡して邸まで来たことを告げた。
しかしまだ疑う様子で、マグリニス子爵が剣を構えなおす。
「邸の者達はどこへ行った? 私の家族は無事なのか?」
そういえば邸の者達を逃がしたと、エルラムが言っていたな。
チラリと視線を向けると、エルラムが大きく頷く。
『邸の者達は街の宿で休んでおる。子爵の家族達も一緒だ。後ほどワシが案内してやろう』
それを聞いた俺は、両手を広げてエルラムから得た情報をマグリニス子爵に伝える。
すると、子爵は安心した様子で剣を鞘へ戻した。
「それで廊下に転がっている者達は、どこの手の者だ?」
「カルマイン伯爵の裏の仕事をしている連中です」
「そういうことか……」
マグリニス子爵は納得したようにウンウンと頷く。
それから俺とマグリニス子爵はペイジ達を体を縄で縛り、邸の地下にある牢屋へ放り込んだ。
もちろんオランが俺の体を操ってくれたんだけどね。
そしてエルラムの案内で、俺達は宿にいる邸の者達を迎えにいった。
すると部屋から出てきた奥様と娘を、マグリニス子爵が愛おしそうに抱きしめる。
家族の無事を確認できて安心したのか、マグリニス子爵が俺に微笑みかける。
「先ほどは疑ってすまなかった。トオル殿を歓迎しよう。こちらからも話したいことがある。今日は邸に泊まって言ってほしい」
「わかりました」
こうして俺、エルラム、オランの三人はマグリニス子爵の邸で一泊することになった。
翌日の朝遅く、邸のメイドに案内され子爵の執務室へと向かう。
もちろんエルラムとオランも一緒だ。
室内に入りソファに座ると、マグリニス子爵がテーブルの上に書類を置く。
「この書類はカルマイン伯爵の周辺を調査したものだ。伯爵と連なる貴族、商会の名を記述してある。邸を襲撃した者達は、これが狙いだったのだろう」
アルバート様の話ではカルマイン伯爵は王宮での権力を拡大するため、色々と手を伸ばしているという。
書類を手に取って内容を読むと、子爵が持っている書類には、伯爵に組みする者達の名がズラリと記載されていた。
ペイジ達はマグリニス子爵への口封じ、それと書類を奪取するために邸を襲ったんだな。
しかし、こんな重要な書類を俺に見せていいのかな?
不思議に思って首を傾げていると、マグリニス子爵が話を続ける。
「この書類をバックランド伯爵の元へ持って行ってほしい。彼ならこの書類を、あの方に渡してもらえる」
「わかりました。お預かりいたします」
そういえばアルバート様もあるお方と言っていたな。
それから俺とマグリニス子爵はペイジ達の護送について話し合う。
ペイジの仲間は全員で五人。
連中を馬車に詰め込んで、兵士達に護衛させても逃げられる恐れがあるよな。
どうしようか悩んでいると、エルラムがニヤリと微笑む。
『護送の心配は無用じゃ。ワシとオランで運んでやろう』
『私達に任せるです』
ちょっとイヤな予感がするけど、俺一人では何もできないから二人に頼むことにした。
俺とマグリニス子爵は相談を終え、階段を降りて地下室へ向かう。
牢の鉄柵の前まで来ると、ペイジが俺達を睨む。
「ここから出せ!」
「王都まで護送する。それまで大人しくしてろ」
「俺達を生かしておけば、必ずお前達を殺してやるからな!」
ペイジと仲間達は目を鋭くし、殺気を溢れさせる。
こんな危ない連中を護送するなんて無理だろう。
そう思っていると、エルラムが鉄柵をすり抜け、ペイジ達の前に立ち、ブツブツと口の中で詠唱して、一人一人の頭に杖を振るう。
すると次々と、ガクリと頭を項垂れ、どうやら意識を失っているようだ。
『こやつ等に睡眠の魔法をかけた。これで運べるじゃろう』
そして霊体のオランが鉄柵の鍵を器用に開け、ポルターガイストでペイジと仲間の体を浮遊させ、牢屋の外へ運び出した。
その様子を見たマグリニス子爵が、緊張した面持ちで剣を構える。
「今のは何だ? 何が起こってるんだ?」
あっ……マグリニス子爵にエルラムとオランのことを説明していなかった。
子爵は霊感がないようだから、二人の姿は見えないよな。
俺は手を広げてニッコリと笑う。
「心配は無用です。私の仲間達がペイジ達を牢の外に出しただけですから」
「仲間? どこにもいないが?」
「俺の仲間は幽霊なんですよ。霊感のない人には姿が見えませんけどね。」
俺の言葉を聞いて、顔色を青くして表情を引きつらせる。
それからマグリニス子爵の馬車にペイジ達を詰め込み、出発の準備を整える。
俺とエルラムが御者台に座り、オランが馬車の屋根の上に乗り、ポルターガイストで車体を掴む。
その様子を見ていたマグリニス子爵が不思議そうに眉をしかめた。
「馬車を貸すのはいいが、馬もなくて、どうやって王都まで行くのだ?」
「それは仲間がやってくれます」
子爵には適当に応えたが、俺もエルラムから何も聞かされていない。
俺が横目で隣を見ると、エルラムが頭上でクルクルと杖を回し、大声で言葉を紡ぐ。
『飛翔!』
すると馬車がボンという爆音を発して、グングンと大空へと飛び上がっていく。
慌てて眼下を見ると、地上でマグリニス子爵が口を大きく開けて固まっていた。
思わず俺は隣に座るエルラムに文句をいう。
「空を飛んで運ぶなら前もって言っておいてくれ!」
『ハハハハ、やはり冒険は盛り上がったほうが良かろう!』
その顔を見て、俺は頭を抱える。
幽霊が派手さを求めるなよ!




