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第32話 ペイジの追跡を開始!

お腹を空かしているオランの代わりに、露天商で肉串を買って大通りに近い広場へ向かう。

そして切株に座って肉串を食べることに。


エルラムとオランは微妙な表情で、手で扇いで串肉の匂いを嗅いでいる。

ゴーレムの体を邸に置いてきたんだよな。


『これはこれで美味しいが、できれば肉にかぶりつきたいのう』


『肉を頬張って、肉汁とタレの味を堪能したいです』


肉体を持たない幽霊は、食事として料理の香りを食べる。

しかし、最近はゴーレムの体で料理を食べていた二人には、香りだけの食事では物足りないようだ。


「この仕事が終われば、ノーラに美味し料理を沢山作ってもらおう」


『はい、さっさと終わらせるです』


オランは胸の前で両拳を握りしめて、鼻息を荒くする。


肉串を食べながら、オランからペイジの様子を聞く。

彼女の話では、ペイジと一緒に行動している連中は、やはりカルマイン伯爵の配下らしい。


その者達は色々な貴族を監視しいている密偵らしい。


王宮には様々な勢力や権力の争いがあるから、伯爵に敵対している貴族へ諜報活動を仕掛ているのかもしれないな。


「それでペイジ達は、どんな企みをしてるんだ?」


『マグリニス子爵という貴族を暗殺する計画です。既に子爵の配下に、密偵を潜り込ませていると話ていたです』


「それで襲撃は、いつ実行するんだ?」


『連中の計画では明日です』


オランの応えを聞いて、俺は焦りの声をあげる。


「それではもう時間がないじゃないか!」


聞いてしまった以上、マグリニス子爵に死なれては寝覚めが悪い。

それに邸に戻ったら、絶対にリアに怒られる。


俺は困り顏でエルラムに問いかける。


「マグリニス子爵がどんな貴族で、どこに居るかもわからないんだぞ。どうやって助けるんだよ」


『そう慌てるでない。子爵の素性と居場所は、アルバートに聞けば把握できるじゃろ』


「それでは時間がかかり過ぎるだろう」


『ワシは幽霊じゃぞ。アルバートの記憶を直接覗けばよい。それに幽霊に時間も距離も関係ないからのう。どうせマグリニス子爵を襲撃する時はペイジ達も動くであろう。トオルはオランと共に、奴等と行動を追跡せよ。ワシは先に子爵の近くに潜り込んで、救出の機会に合図をしよう』


エルラムはそういうと何度も頷いて、霧となって消え去っていった。


自分一人で納得して消えるなよ。


俺もオランもマグリニス子爵の情報について何も知らないんだぞ。

せめてアルバート様から得た情報を俺達にも共有してほしかった。


虚空を呆然と眺めていると、オランが元気に手をあがる。


『トオル様、一緒にがんばりますです』


「ハハハ……よろしくお願いするよ」


オランは『暗殺』スキルを持つ元冒険者の幽霊だ。

彼女が一緒に居てくれるだけでも心強い。


俺とオランはペイジ達が潜んでいる潜伏先へ向かうことにした。


毎日のようにリアと戦闘訓練を続けているが、俺はまだ体力不足だし戦闘力も皆無だ。

そこで、オランに憑依してもらい、体を操ってもらって目的の場所へと向かった。


『奴等が隠れ家にしている邸はここです』


目の前の三階建ての建物を見て、オランの声が頭に響く。

随分と立派な邸だな。


呆然とその建物を見上げていると、オランが続けて話をしてくれた。


『ここはカタルジナ商会の邸です。どうやらこの商会はカルマイン伯爵の関係者が運営しているです』


なるほど、商会の商人を装えば、どの領地にでも潜伏することができるもんな。

オランは邸の裏側へ回り込むと、俺の体を操作して三階の屋根まで一気に跳躍した。


『暗殺』スキルの効果だが、自分の体でこんなことができると思わなかった。

屋根の上に屈んだオランは、腰から短剣を取り出し、器用に瓦を剥ぎ取って屋根裏へと侵入する。


その身のこなしは暗殺者というよりも、日本の忍者のようだ。


天井の板を外して下の部屋を覗くと、ペイジが仲間と密談をしているようだ。

耳を澄ましていると、連中の話が聞こえてくる。


その話を要約すると、マグリニス子爵を殺害は数カ月前から計画されていたようだ。

どうして子爵の命を狙っているかまではわからなかった。


もしかすると、子爵がカルマイン伯爵に都合の悪い情報を入手したからかもしれないな。


じっと聞き耳を立てていると、オランが言っていたように、マグリニス子爵への襲撃は明日の深夜らしい。


室内にいるペイジ達は旅装束に偽装し、出かける準備をしている。


俺とオランは邸の外でペイジ達を待ち伏せて、奴等を追跡しながらマグリニス子爵の元へ向かうことにした。


屋根裏を出て、門の外で邸を見張っている間に、オランがフラリと姿を消す。


いったいどこに行ったのだろう?


周囲を見回していると、一頭の馬がゆっくりと走ってきて俺の近くで立ち止まる。

そして馬の体からオランの霊体が抜け出してきた。


「アタシ達も遠出の準備が必要なのです。馬をお持ちしたです」


「その馬をどうやって借りてきたんだ? きちんと馬主と交渉してきたんだろうな?」


「馬に憑依して連れて来たので問題ないです」


オランの言葉を聞いて、俺は両手で頭を抱える。


それって誰の承諾も得ず、馬を連れてきたってことだろ。

下手をすれば、窃盗行為だぞ。


そんな俺を見て、オランはニッコリと笑む。


「馬は賢い動物なのです。遠くへ行っても、きちんと主の元へ帰って来るのです」


「そういう問題じゃないの。黙って馬を借りるのは俺の心が痛いんだよ。このお金を馬主へ渡してくれ」


俺は懐へ手を入れ、革袋を取り出して、その中から数枚の金貨をオランに手渡した。

この金貨は、リアから貰った俺のお小遣いだ。


ポルターガイスト現象で金貨を受け取ったオランは、不満な表情をしながら馬主の元へと飛んでいった。


すぐに戻ってきたオランと二人でカタルジナ商会の邸を監視していると、しばらくして門が開き、ペイジ達が馬に乗って邸を出てきた。


ペイジとその仲間達の後ろ姿を見送った後、俺は馬に飛び乗り連中の後を追う。


俺は馬なんて乗ったこともないし、操作したこともない。

もちろんオランが俺に憑依して、体を操ってもらっている。


空は夕暮れ時となり、太陽が西に傾いてきた。


城壁都市の大門の所でペイジ達の後ろに追いついた俺達は、奴等と距離を取りながら、尾行を続けるのだった。

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