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第29話 邸の幽霊達に体を作ってみる!

玄関先で混乱していても進展がないので、俺達は応接間へ移動し、幽霊メイド達からこの邸についての説明を受けることにした。


幽霊メイドの話では、俺達が貰い受けた邸は、ヘルトレム子爵が建造したモノらしい。


王宮務めをしていたヘルトレム子爵は陰謀に巻き込まれ、爵位を剥奪されて没落したという。

それを恥じた子爵は自害し、慕っていた家臣達はその後を追うように……


これって完全な事故物件じゃないか。


邸の経緯を事前に知っていた王宮が、俺達に邸を押しつけたに違いない。


エルラムの光魔法であれば、幽霊達を昇天させることもできるけど。

幽霊達の方が先住者で、後から邸に来た俺達の方が邪魔者なんだよな。


考えた末、俺は肩を竦めて、幽霊メイド達へ声をかける。


「事情はわかった。俺達に危害を加えないと誓うなら、この邸に居てもいいよ」


『ありがとうございます。これからはトオル様を主として、しっかりとお世話させていただきます』


幽霊メイドの一人が一歩前に出て、深々と頭を下げる。


アリスちゃんと手を繋いで、邸の各部屋を見て回ったが、どの部屋もキッチリと整理整頓されていて、廊下や台所などにも塵一つない。


たぶん邸いる幽霊達が、屋内の維持管理をずっと続けてきたんだろうな。


ヘルトレム子爵に仕えていた幽霊達の全員で六人。

メイド長のポリン、清掃が得意なメイ、料理が得意なノーラのメイド三人組。

それに執事のセルジオ、庭番のサム爺、御者のロイの三人だ。


そういえば邸の庭園が綺麗にされていたよな。


テキパキと働く幽霊メイド達を見て、リアは頭の後ろで両腕を組む。


「幽霊が沢山いる邸って、ちょっと不気味に思っていたけど、部屋もキレイだし、メイドさん達が全てを整えてくれるから、住んでみると意外と居心地がいいかも」


「お姉ちゃんが沢山増えたらから、とっても嬉しいの!」


リアとアリスちゃんは、この邸が気に入ったようだ。

エルラムとオランも、すぐに邸の幽霊達と仲よくなった。


俺とリアの食事については幽霊メイドのノーラが料理をしてくれている。

火起こしも調理もポルターガイスト現象で器用にこなし、プロの料理人のように味付けも美味い。


幽霊邸に住み始めて三日目、そろそろ体が鈍ってきた俺とリアは、早朝から邸の裏手にある庭園に出て、ストレッチと筋トレを行い、二人で組手稽古をして軽く汗をかいた。


程よく体を動かした俺達が邸の中へ戻ると、幽霊メイド達がポルターガイスト現象を利用して、せっせと家事を熟している。


空中を雑巾が飛び交い、誰の姿もないのに箒が勝手に床を掃いていく。

その様子を見たリアが、豊満な胸の下で両腕を組んで、悩ましい表情を浮かべる。


「私達は慣れちゃってるけど、幽霊達が掃除している様子って、霊感のない人達が見れば異常よね」


「今更、何を言ってるんだよ。幽霊に体はないんだから仕方ないだろ」


「それはそうなんだけどね」


リアの言いたいことが何となく伝わってくる。


邸に憑依している幽霊達が一生懸命に家事や掃除をしても、一般の人々には誰にも認められない。


アルバート様とアリスちゃんは仲の良い家族だけど、彼女は死んでいるから肉体がない。


霊感を持つリアからすれば、普通の人々と変わらないように見える幽霊達が、ちょっと切ないのだろう。


俺達が応接室まで戻ってくると、エルラムとセルジオが紅茶を楽しんでいた。

オランとアリスちゃんはアルバート様の王都邸へ遊びに行っているそうだ。


先ほど頭の中に過った疑問があり、俺は紅茶の匂いを嗅いでいるエルラムに声をかける。


「ちょっと聞きたいんだけど、幽霊に肉体を与える方法ってあるの?」


『ネクロマンサーなら、幽霊をグールやゾンビにする方法があるぞい』


「それだと魔物じゃないか。それとは違って、普通の人々でも幽霊と触れ合える方法ってないのか?」


『それなら魔法士よりも錬金術師のほうが詳しいく研究しておったのう。ホムンクルスの肉体を作って、その中に魂を入れる方法や、ゴーレムに魂を憑依させる方法もあったはずじゃ』


ホムンクルスは日本にいた時に聞いたことがある。

中世の頃にいた錬金術師達が目指した人造人間のことだよな。


「エルラムは作れるのか?」


『ミルテリアム王国は滅んでしまったので、肉体の複製を作るのは無理じゃのう。しかし、魂にゴーレムの体を与えるのは今のワシにも可能じゃ』


すると俺達二人の会話を聞いていたセルジオが、姿勢を正して胸に片手を当てる。


『できれば、私に体を与えていただけないでしょうか』


『どうしてお主に体が必要なのじゃ? 今でも不便はないであろうに』


『これからはトオル様が主となって、この邸にお住まいになられます。そうなれば邸に出入りする人も増えるでしょう。もし私共に体があれば、客人を驚かせることもありませんので』


今は男爵になったばかりだから、この邸を訪れる人と言えばアルバート様ぐらいだ。


しかし、このまま王都に長期で滞在するなら、知り合いが増えていくし、いつ誰が邸に来るかわからない。


執事のセルジオからすれば、キチンと客人を歓迎したいのだろう。


するとリアが俺の肩にポンと手を置く。


「私も皆に体を与えてあげたいわ。この邸に住み続けるなら、もうパーティの仲間と同じだもの」


今は俺の魔力を使ってアリスちゃんを実体化しているけど、体があれば彼女も自由にアルバート様に甘えることができる。


それに幽霊メイド達も、街中へ買い物に出かけたりできるよな。


俺、リア、エルラムは話し合い、セルジオに体を与えてみようということになった。


エルラムの話では、ゴーレムを作るには人型となる体と魔石が必要らしい。


魔石は冒険者ギルドで購入すればいいし、人型を作るなら木材でもいいだろう。


俺とリアは武装を整え、王都の中央地区にある冒険者ギルドへ向かった。


王都の冒険者ギルドの建物はレグルスの街の建物の三倍ぐらいの大きさがあり、広間では多くの冒険者達で賑わっていた。


冒険者達の間をすり抜け、俺達は購買所へと向かう。

店内の棚に置かれている魔獣の特殊部位と魔石の中から、オークの魔石とトレントの部位を購入することにした。


トレントは樹木の魔獣で、その体は頑丈な木材になるのだ。


これで用事も済んだので、広間を出入り口へと歩いていくと、休憩所のテーブルに筋肉隆々の冒険者が座っているのがチラリと見える。


あれはバッキオ……レグルスの街で見かけないと思ったら王都に来ていたのか。

鉢合わせすると騒動になりそうだから、コッソリと帰ることにしよう。

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