第22話 エルラムの特大魔法で森が消失!
オランが俺に憑依してくれたおかげで、体が勝手に動き、彼女の暗殺術を簡単に扱えるようになった。
俺は駆け走り、ゴブリンの死角へ忍び込んで、サクサクとゴブリンの狩っていく。
そして瞬間移動のように影から影に移動し、ゴブリン達を討伐していった。
その俺の動きを見た、リアは眉を吊り上げる。
「私だって活躍するんだからー!」
『うむ、ワシも負けていられんのう。リア、お主の体を貸すのじゃ』
周囲に向けてファイアーボールを放っていたエルラムが、攻撃を止めて姿を霧状に変えて、リアの体と同化する。
そして体を乗っ取ったエルラムが、剣を頭上にかかげ、詠唱の言葉を紡ぐ。
「いちいち小さいことに拘るでない! それ特大魔法じゃ! エクスプロージョン!」
すると大空に巨大な魔法陣が次々と現れ、空がキラキラと輝き出し、その光子が大地に注ぐと、周囲の地面が大爆発を起こした。
「ギャーー! 死ぬ―!」
「心配するでない。我等は結界で守られておる」
「それなら最初に言っておきなさいよ!」
どうやらリアとエルラムが体の中で言い争いをしているようだ。
俺から見れば彼女が一人で叫んでいるだけなんだけどね。
俺達を中心に起こった大爆発は、森の樹々を盛大に吹き飛ばしてしまった。
広がる荒地を見て、俺は両手で頭を抱える。
俺達がガストンさんに依頼されたことは、ゴブリンの異常発生についての調査だ。
森を崩壊させるなんて、冒険者ギルドに報告すれば絶対に怒られる。
地面に両手をついてガックリしていると、リアの体から抜け出したエルラムが、見えない杖を前に突き出す。
『トオル、呆けている場合ではないぞ。この先に穴が見えるじゃろう。あの穴こそがゴブリン達の住み家じゃ』
エルラムの指し示す方向へ顔を向けると、地面に巨大な穴がポッカリと開いていた。
「え? 全てのゴブリン達を殲滅したんじゃないの?」
『エルランド王国が建国して間もない頃、ゴブリンの異常発生があってのう。その時に森の奥にあった穴からゴブリン達が大量に這い出してきて、王国が崩壊する危機となったのじゃ』
「あれ? 今でも王国は健在だよね。その時、どうやってゴブリン達を殲滅したの?」
『当時の王太子が兵を率いて戦ったのじゃ。王太子と配下の兵士達は巣穴の奥底まで潜り、ゴブリンキングと壮絶な戦いを繰り広げたと言われていてな。その戦いで王太子は帰らぬ人となったが、今でも英雄王子として、民衆から称えられておる』
ということは、あの穴の奥深くに大ボスがいるってことか。
でも俺達が依頼されている内容は、森の調査であって、屈強な魔獣を討伐することではない。
俺は一呼吸を置いて、ニッコリと微笑む。
「これで調査終了だよな。さっさと街に帰ってガストンさんに報告しないと」
「え? ここまでやったのに、穴の中へ入ってみないの?」
リアは冒険心が疼いているようだけど俺は違う。
今回はオランが俺に憑依してくれたから、ゴブリン達を討伐できたけだけだ。
生身の俺は、戦いなんてド素人なんだよ。
戦ってみてわかったけど、俺に冒険者の素質なんてないからね。
リアを無視して歩きだす俺の前に、エルラムがスーッと空中を移動してきてニヤニヤと笑う。
『本当にこのまま街に帰っていいのかのう。ただのゴブリン討伐で森の全てを焼き払い、他の魔獣も灰にしてしまったのじゃ。街の近くにあった手頃な狩場を破壊されて、冒険者達がどのように言うかのう』
「それはエルラムが特大魔法でしでかしたことだろ」
『ワシは幽霊じゃから、冒険者達には見えんし、何の罪にも問われん。しかしトオルはどうじゃろうか? 穴を発見したと報告するだけで、ガストンが納得するかのう』
魔獣の狩場である大切な森が消失したと知られれば、冒険者達が俺達『ホラーハウス』についての噂を悪化させるに違いない。
頭にきた冒険者達がバッキオの時のように襲ってくるかも……
ガストンさんにも確実に怒られるだろうし、今回ばかりは森が消失したことを、もみ消してくれないかもしれない。
冒険者達に恨まれる未来を突き付けられた俺は力なく、片膝を落す。
「どうすればいいんだ! このままだと街で暮らせなくなる!」
『ふふふ、穴を下りていくしかあるまいよ。穴の奥底におる元凶を倒せば、トオルとリアも英雄王子のように称えられよう』
英雄と聞いて、リアがキラキラと目を輝かせる。
「私、やる! 私も皆から憧れの眼差しで見られたいわ! もう周囲から変な目で見られるのはイヤよ!」
俺とパーティを組んでから、『ホラーハウス』の片割れとして、リアも冒険者達から敬遠されているもんな。
金と栄光を掴むために冒険者になるのだから、彼女の気持ちは理解できる。
でも、狭い穴の中に入って大量のゴブリンと戦闘を繰り広げるなんて、俺にとって自殺行為に等しい。
ここは素直に、街に戻って冒険者達の協力を得たほうがいいよね。
そんな弱気なことを考えていると、オランが俺の体から抜け出してきた。
『トオル様、アタシと同化して戦っていた時のことを思い出してくださいです。アタシがトオル様の体を操りますから、ゴブリンなどには絶対に負けないです。さっさと穴の中にいる大ボスを倒してしうですよ』
『そうじゃ、ワシもリアの体に憑依しておく故、魔力の枯渇を気にせず魔法を使える。トオルとリアに危険が及べば、究極魔法で穴ごと全てを粉砕してくれよう』
「あんな特大魔法を使ったら、私達が生き埋めになるじゃない! 体は貸すけど、穴の中では火炎魔法は絶対に禁止だから! 地面の底で窒息死なんてしたくないからね!」
自信満々に胸を張るエルラムに、リアがどやしつける。
確かにオランの体捌きや暗殺術は強力だ。
さっきの戦いでも、余裕でゴブリン達を瞬殺していたよな。
それにエルラムがリアと同化するなら、彼女の身も安全だし、魔法も使いたい放題だ。
俺はコキコキと首を鳴らし、大きく息を吐いた。
「できるところまでやってみようか。危険だと判断したら撤退するからな」
「なんだか物語に出てくる冒険者みたい。ワクワクが止まらないわ」
『久しぶりに本格的な冒険ができますです』
『ふふふ、魔法の真髄を見せてくれよう』
オランとエルラムは嬉々とした笑顔を浮かべると、霧状になって俺とリアの体に同化する。
そして俺達二人は手をつないで、穴まで走って行き、底が見えぬ暗闇の中へ飛び込むのだった。




