第21話 ゴブリンの群れとの戦闘!
俺とリアはガストンさんに呼び止められ、渋々ながらは話を聞くことになった。
俺達二人がソファに座ると、ガストンさんが一枚の地図をテーブルの上に置く。
「この地図は『メルロムの樹海』の手前、レグルスの街の近くを覆っている森の地図だ。そして書かれているバツ印は、ゴブリンの群れが頻繁に現れる場所だ」
「えっと……森中がバツ印で埋まってるわ。『メルロムの樹海』で何かあったのかも?」
リアと推測と同じことを俺も考えていた。
『メルロムの樹海』は未開発の森林で、ドラゴンも生息していると噂される森だ。
その『メルロムの樹海』の中で異変が起これば、その影響で低級魔獣が樹海から逃げ出してきた可能性もある。
しかし、俺達の考えは違ったようで、ガストンさんは大きく首を左右に振る。
「上位冒険者に依頼し、既に『メルロムの樹海』を調査した。樹海の中で異変はないそうだ」
「ということは?」
「考えられる一つは、ゴブリンの異常繁殖だ。その証拠にレグルス近郊の森では中級魔獣達が個体数が激減している。今まで低級魔獣を放置してきたことが一因と思うが、ハッキリとした原因がわからん。そこでお前達に指名依頼が回ってきたというわけだ」
ゴブリンのような弱い魔獣であっても、大量発生して大多数で襲われれば、中級魔獣をも倒すほどの魔獣の群れに化けるってことだよな。
「それなら『メルロムの樹海』の調査に行った上位冒険者へ依頼を回せばいいじゃないですか」
「連中には断られた。ゴブリン討伐なんて冒険者の誇りに関わると言われてな」
「それなら俺達もお断りします。ゴブリン相手に命を賭けたくないんで」
俺はキッパリと断りの言葉を言い、ゆっくりとソファから立ち上がる。
俺は未だにキチンとした戦闘を経験したことがないんだよ。
それなのに異常繁殖した魔獣の群れを相手にするなんて自殺行為に決まってる。
低級魔獣の討伐なら、金さえ積めば喜んで依頼を受ける冒険者も多いはずだ。
危険を侵してまで俺が依頼を引き受ける必要はないよな。
さっさと別邸に戻ろうと思っていると、ガストンさんがドスの効いた低い声を放つ。
「そんなことを言っていいのか? 不問にしていたがクエンオット商会、ロマリオの邸の倒壊を件をもみ消したのは俺なんだがな。一度、地下牢に入って、臭い飯でも食ってくるか?」
「あれはロマリオを捕まえるのに仕方なくと言うか……」
「警備兵達にそんな理屈が通るか試してみるか?」
ガストンさんが厳めしい表情をしてニヤリと頬を歪める。
こうしてガストンさんに弱味を握られいる俺は、指名依頼を引き受けることになり、冒険者ギルドを後にした。
外壁の門へ向かって大通りを歩いていると、エルラムが長いアゴ髭を擦りながら俺を見る。
『ものは考えようじゃ。ゴブリン共であればトオルの戦闘訓練に丁度良いじゃろう。それにワシもオランも一緒にいる。危険なことはなかろうて』
『アタシの暗殺術にかかれば、ゴブリンなんて瞬殺なのです』
街の大門を守っている警備兵に挨拶をし、街道を一時間ほど歩いていくと目的の森へと到着した。
以前にリアと戦闘訓練をしていた森だけど、何だかいつもと森の雰囲気が変わったような気がする。
恐る恐る森の中へと入っていき、獣道を歩いてると、エルラムがスーッと近寄ってきて周囲へ視線を送る。
『トオルよ、気づいておるか。四方から殺気を感じるぞい。既にゴブリン共に監視されているようじゃな』
「それならどうして、すぐに襲ってこないんだ?」
『ワシやオランが共にいることを気配で察知しているのかもしれん。ゴブリンにしては知恵のある者がいるようだのう』
ゴブリンには知能があるらしいが、炎や道具を使いこなすほどの知恵はないと、冒険者の間では言われている。
俺が知る動物で例えるなら、ゴリラやチンパンジーぐらいの知能だろうか。
ゴブリン達の主な攻撃は、岩を削った手製の斧やこん棒での打撃だが、鋭い牙や長い爪の攻撃も侮れない。
腰から剣を抜いて周囲を警戒していると、樹々の上から「ギィギュィー!」という鳴き声が聞こえ、太い枝からバサバサとゴブリン達が落下してくる。
それと同時に茂みの中からも数体のゴブリンが武器を手に姿を現した。
それを見たリアが危惧の声をあげる。
「数が多いわ! 一旦、引いた方がいいかも!」
『ゴブリン共め、奇襲のつもりじゃろうが、ワシには通用せんて! それ、ファイアーウォール!』
『アタシだって活躍するんですからー!』
迫りくるゴブリン達に向けて、エルラムが杖を振るい、俺達を中心に火炎の壁を円形に張る。
そして、オランはポルターガイストを利用して、次々とゴブリンの胸に大穴を穿っていく。
リアも剣と小盾を駆使して、ゴブリン三体を相手に戦っている。
それなのに俺はということ、ゴブリン達の攻撃から逃げるだけでも必死だったりする。
「誰か、助けて―!」
剣を両手で握りしめ、無我夢中で剣を振り回すが、ヒョイヒョイとゴブリン達に躱され、一体も倒すことができない。
その反撃として、ゴブリン達が手斧やこん棒で攻撃を仕掛てくる。
「ヒーー!」
ゴブリンが投擲した手斧が俺の顔を掠め、頬から血が流れる。
怪我をしたと知った瞬間、恐怖心が膨らみ腰が砕けて体が動かない。
ゴブリン達に囲まれ、もうダメだと思った刹那、体が上空に浮かび上がり、オランの元へと引寄せられた。
どうやらオランがポルターガイストを使って、俺を助けてくれたようだ。
『トオル様はアタシが守るです。それでは反撃を開始するです』
オランはニッコリと微笑むと、体の輪郭が薄れて俺の体の中へと入ってくる。
それと同時に、俺の頭の中にオランの声が響いてきた。
《私が憑依して、トオル様の体をアシストしますです。トオル様は思うがままに戦ってくださいです》
すると体の芯から力が湧いてきて、なんだか体が軽い。
どうやらオランが体内の魔力を循環させて、身体を強化してくれたようだ。
グッと脚に力を入れ、前方にいるゴブリンに向けて駆けだす。
そして体が勝手に反応し、逆手に持った剣がゴブリンの腹を裂いた。
これだとアシストというよりは、ほぼ全自動だろ。
しかし、戦闘能力が皆無な俺が、魔獣に囲まれている状況を打破するには、この方法しかないよね。
「オラン、ありがとう」
《このまま、一気に蹂躙しちゃうです》
心の中に、オランの満面の笑みが浮かぶ。
彼女に感謝しつつ、俺はゴブリンの集団へと一気に飛び込んでいくのだった。




