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第20話 奇妙な依頼!

オルマンとペイジを捕まえてから一週間が過ぎた。


冒険者ギルドへ今回の依頼完了の報酬を受け取りに行った時にガストンさんから聞いたのだけど、オルマンはベラベラと今までの悪事を話したらしいが、ペイジは未だに黙秘を続けているという。


二人の身柄については、既に警備兵に引き渡され、今は詰所の地下牢の中らしい。


毒に侵されていたロックウェル商会の関係者は、すっかり健康を取り戻し元気に職場へ復帰している。


ドリーについては、ユーリンさんへ賠償金の支払うことで、彼女の罪を不問とすることになった。

その契約書はユーリンさんからの報酬の一部として、俺達の手元に渡っていたりする。


ということでドリーは『ホラーハウス』専属の家政婦となり、アルバート様の別邸の家事全般を忙しく熟している。


邸に来た当初は、エルラム、オラン、アリスちゃんが起こすポルターガイストに怯えたり、俺やリアが目に見えない幽霊達と会話する姿を見て不気味がっていたが、徐々に慣れてきたようだ。

今では彼女も霊感が芽生えたようで、アリスちゃんと自然に会話していたりしている。


いつものように早朝から基礎訓練をしていると、冒険者ギルドからの使者が邸に訪れた。

どうやらガストンさんが俺達『ホラーハウス』を呼んでいるらしい。


ギルドマスターからの呼び出しなんてイヤな予感しかしないけど、逃げたらあの筋肉お化けに絞め殺されるんだろうな。


俺、リア、エルラム、オランの四人が冒険者ギルドの建物の中に入ると、広間にいた冒険者達が一斉に視線を逸らして、俺達を避けるように遠ざかっていった。

周囲では怯えた表情の冒険者達がヒソヒソと呟き合っている。


「ロックウェル商会の使用人達が原因不明の病で倒れたのは、『ホラーハウス』の連中が呪詛をかけて呪ったかららしいぜ」


「怨霊を使ってクエンオット商会の邸を倒壊させたのも、『ホラーハウス』の奴等の仕業って聞いたぞ」


クエンオット商会の邸を壊したのは確かにアリスちゃんだけどさ。

どうしてロックウェル商会の一件が俺達がしたことになってるんだよ!


噂が混ざって、あらぬ方向に大きくなってないか?


ガックリと肩を落しているとエルラムがニヤニヤと笑う。


『人は不可解な事象を恐れるものじゃ。いちいち気にしていても仕方あるまいよ』


『そうなのです、トオル様には私達が一緒にいるです』


オランは俺を励ますように明るく微笑む。


幽霊の君達と一緒にいるから、冒険者達から奇異な目で見られてるんだけどね。

俺のことを理解してくれているのが、幽霊達だけなんて切なすぎる。


しかし、幾ら弁明したところで噂が消えるはずもないし、このまま放置するしかないよな。


冒険者達を無視して、広間の奥にある怪談を登ってギルドマスターの執務室へと向かう。

扉を開けて室内へ入ると、大きなソファに座っているガストンさんが、テーブルの上に積まれた書類をバンと叩く。


「来て早々に悪いが、こいつの処理を頼む」


「それは何の書類ですか?」


俺とリアは対面のソファに座り、書類の束から一枚を手に取る。

するとムスっとした表情でガストンさんが、疲れたような声をだす。


「全て魔獣討伐の依頼書だ」


「それなら掲示板に張って、冒険者達に仕事をさせればいいじゃないですか」


「既にそうした。この依頼書の束は、常に掲示板に残っている依頼書だ。不人気すぎて誰も依頼を引き受けようとせんのだ。だから『ホラーハウス』で全て引き受けろ」


冒険者達は冒険者ギルドの掲示板に張られている依頼の中から、自分達の好みに合った依頼を選んで仕事をしている。


つまり、テーブルの上に積まれている書類は、冒険者達に選ばれなかった依頼ということで……

そんな誰もが手を出さない廃棄物処理みたいな案件を押しつけられても困るぞ。


今回はハッキリと断ろうと心に誓っていると、隣に座るリアが書類を確認しながら首を傾げる。


「あれ? これってゴブリンの討伐依頼? 他の書類も全てゴブリンの討伐よ」


あれ? 簡単な依頼内容じゃないか。

どうして、そんな依頼を俺達に押しつけようとするんだ?


俺が首を傾げているとガストンさんが渋い表情をする。


「トオル、ゴブリン一体あたりの討伐報酬は幾らだったか覚えているか?」


「えっと……銀貨一枚だったような……それにゴブリンの魔石を換金して銅貨五枚……」


「その通りだ。最近では低級魔獣を狩っても金にならんと、冒険者達から敬遠されていてな。新人の連中まで依頼を受けようとしないのだ」


銀貨一枚は、日本円で約千円。

銅貨五枚は、日本円で約五百円。

低級魔獣の討伐とはいえ、魔獣一体あたりの値段が千五百円では、報酬単価が安いような。


ゴブリンやコボルトは群れで出現することが多いけど、十体にも満たないことが多い。


冒険者パーティの人数は四人から六人までの編成だとすると、低級魔獣の群れを討伐したとしても、冒険者一人の手元に入ってくる報酬は五千円を下回る。


レグルスの街の安宿に泊まっていたとして、宿泊費用は三千円ほど。

一日の食事も含めれば、手元にお金が残らない計算になる。


いくら低級魔獣が討伐しやすいとはいえ、実入りにならない依頼を受ける冒険者はいないよな。


それに冒険者ギルドには、もっと報酬単価の高い魔獣討伐もあるし、商いに出かける商人達を護衛する高額な依頼もあるわけで、冒険者ならそちらへ意識が流れるのも無理はない。


そこまで考え、俺は呆れ顔で片耳の穴に指を入れる。


「冒険者達のヤル気が出るように、低級魔獣の討伐報酬を高くしたらいいじゃないですか。そうすれば、皆も喜んで依頼を受けるようになりますよ」


「馬鹿もん、そんなことをすれば、魔獣討伐に関する全ての報酬を値上げすることになる。そうなれば今まで王国内に流通している魔獣の素材や魔石の価格も高騰することになるんだぞ」


「それは冒険者ギルド内で協議することでしょ。私達には関係ないわ。今回の依頼は受けません。他の冒険者パーティへ回してください」


俺と同意見らしく、リアも大きく首を振りキッパリと言い放った。


金貨を何よりも愛する彼女が、金にもならない依頼を受けるはずがないよね。


リアに「帰ろ」と促され、扉の方へ体を反転させると、背中からガストンさんの大声が響き渡る。


「話は最後まで聞いていけ! 特別報酬は出す!」


低級魔獣の討伐に特別報酬?

それなら広間にいる冒険者達に依頼をすればいいのでは?

どうしても『ホラーハウス』の俺達に依頼したいことって、いったい何なんだろう?

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