第2話 初めての街レグルス!
エルラムと一緒に墓地を出て、林を通り抜けて一時間ほど歩いていくと、高さ五メートルほどの街の外壁が見えてきた。
その壁を指さし、エルラムがニヤリと微笑む。
『あそこがレグルスの街じゃ。街へ行けば、料理屋も飲み屋もあるし、宿で休むこともできるぞい』
エルラムの話ではレグルスの街は、エルランド王国の西にある辺境の端にある街だそうだ。
街の近くに『メルロムの樹海』と呼ばれる未開発の森があり、その森に多くの魔獣が生息しているため、レグルスの街には多くの冒険者が集まっているらしい。
魔獣に冒険者……やはりラノベ小説のような世界ってホントにあったんだな。
日本で学生と会社員しかしたことがない俺が、いきなり冒険者になんてなれるんだろうか?
財布の中には日本円の紙幣と硬貨しか入っていないし、スマホは持っているけど、どうせ圏外だから使い物にならないし、充電も無理そうだからな。
どうにかして資金を得る方法を考えないと、ガチで生活が詰むかも。
そんなことを考えていると、難しい表情をしてエルラムが俺の全身を見ている。
『それにしても、その服装では大門の検閲で警備兵に怪しまれるかもしれんのう』
立ち止まって、改めて自分の服装を見てみる。
上下グレーのスーツに、紺色のネクタイ、それに黒い革靴。
手にはビジネスバックを持っている。
ちょっと墓地で汚れてしまったけど、日本でいえば一般的な会社員の服装だけどな。
「着替えの服なんて持っていないし、このまま街まで行くしかないよ」
『そうじゃのう。もし揉め事になったら、ワシが手助けをしよう』
「では、それに期待しておくよ」
しばらく歩いてくと、街へ入るために多くの人々や、馬車が列を作って並んでいる。
どの人も、中世の欧州を連想させるような、質素な衣服ばかりだ。
エルラムが指摘したように、俺のスーツ姿はちょっと目立つよな。
周囲の人達にジロジロと見られながら列を進んでいくと、俺達が検閲を受ける順番が回ってきた。
厳めしい面構えの警備兵が二人、俺の前に立ってジロジロと視線を送ってくる。
「どこから来た? レグルスの街には何用できた?」
「日本から観光旅行です」
「日本? 観光旅行? 何を言っているのかわからん。持ち物の中身を見せてみろ」
兵士の一人が俺から鞄を取り上げて中を見る。
そして鞄の内側からノートパソコンを取り出した。
コツコツとノートパソコンを指で叩き、警備兵は首を傾げる。
「これは何だ?」
「ノーパソです」
「これは魔道具か? 何に使う道具だ?」
「電気で動く機械です。用途は色々なことに使いますね」
「言ってる意味がわからん。少し待っていろ」
二人の兵士はノートパソコンの蓋を開け、色々と調べ始めた。
一人の兵士が電源ボタンを押すと、ノートパソコンが軌道して、モニター画面が表示される。
それを見た兵士達が「わー!」と驚きの声をあげる。
すると、もう一人の兵士が、腰の鞘から剣を抜いて俺に突き付けた。
「異形の服装に魔道具。お前は怪しすぎる。詰所まで来てもらおう」
警備兵の詰所といえば、日本で例えると警察署のようなものか。
推測が正しければ、怪しいというだけで、何もしていないのに牢屋に放り込まれるかも。
せっかく墓地から歩いてきて、初めて異世界の街に入るのに、牢からスタートするのはイヤだぞ。
「ちょっと待ってください。日本の会社員の通常のスタイルなんです」
「何を言ってるのかわからん。連行する」
剣を向けてきた兵士が強引に俺の腕を掴む。
すると隣にいた兵士が、その兵士の肩にポンと手を置いた。
「おい、この魔道具を闇市に売れば、高値がつくかもしれんぞ」
「そうです。そうです。ノートパソコンは譲りますから、どうか街に入れてください」
このままだと身柄を拘束されてしまうと危惧した俺は、兵士の言葉に便上してペコペコと頭を下げる。
すると剣を握っていた兵士がニヤニヤと笑い、鞘に剣を戻した。
「そういうことなら話は別だ。鞄を置いていけ。街に入ってよし」
「はい。ありがとうございます」
二人の兵士から距離を取るため、俺は深々と頭を下げて、営業スマイルを残して足早にその場を去った。
そしていつの間にかエルラムの姿がないことに気づき、後ろを振り返る。
すると俺を庇ってくれた兵士の体から、エルラムがニョキっと姿を現し、何事もなかったように笑顔で、足音もなく歩いてくる。
『魔道具を没収されたのは痛いが、上手く検閲を抜けることができたじゃろう』
「まさか、兵士に憑りついたのか?」
『うむ、少し意識の方向性を変えたまでじゃ。短時間であったから、あの者は何も気づいてはおらんよ』
憑依して他人の意識を操作するなんて、やっぱり幽霊って不気味だよな。
でも、エルラムのおかげで助かったんだから、感謝したほうがいいのかも。
ノートパソコンを兵士に奪われてしまったが、このシャンベル界には電源もインタネットもなさそうだ。
あのまま持っていても宝の持ち腐れになっていたかもしれない。
兵士達の言っていたように、商人に売り飛ばす手もあったと思うと、少しだけ惜しいような気もするな。
街の大門から離れて大通りを歩いていくと、街の両端に露天が建ち並んでいて、どの店からも香ばしい美味しそうな匂いが漂ってくる。
「なんだか腹が減ったな。そういえば、今日はコンビニで買ったサンドイッチしか食べてなかったな」
『腹が減ったのなら、露天で食べるとよい』
「でも、この王国の通貨を持ってないんだ」
『その心配には及ばん。支払いの時に、ワシが店主に憑依をすればいいのじゃからな』
エルラムはニヤリと笑い、親指を立てる。
その発想って、賢者を名乗るエルラムがしていいの?
俺を助けようと思っているのはありがたいけど。
日本の会社員として働いてきた俺としては、できることなら無銭飲食はしたくない。
でも、このまま何も食べないと、飢えすぎて動けなくなるかも。
頭の中で天使の囁きと悪魔の囁きが繰り広げられ、一瞬の内に天使の声が勝利した。
やはり異世界とはいえ犯罪はいけないよな。
俺は両手の平を前に押し出して、エルラムの誘いに抵抗する。
「やっぱり、止めておくよ」
『ワシの前で恰好つけてもしかたなかろう。誘惑に乗ればいいんじゃよ。ほれ、早く本音になってしまえ』
絶対に俺で遊んでるだろ!
だから幽霊は信用できないんだよ!