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第19話 これで依頼完了だよね!

門の前で騒いでいても仕方がないので、俺、アリスちゃん憑りつかれたオルマン、ガストンさんの三人は、ユーリンさんのいる応接室へ向かうことになった。


扉を明けて室内へ入ると、ユーリンさん、リアがソファに座って寛いでいて、エルラム、オランの二人がその後ろに立っていた。

そして、床には気を失っているペイジがグッタリと倒れている。


皆がいるのを見て、アリスちゃんが笑顔で、オルマンの体から抜け出してくる。


『わーい、リアお姉ちゃんだー! 私、頑張ったから抱っこしてー!』


「そうなんだー。アリスちゃん良い子ね」


リアは手の平に魔力を集め、アリスちゃんの髪を優しく撫でる。


リアとエルラムが戻っているといことは、病人達から無事に毒を除去することができたんだな。

それに、オランも上手くペイジを連れてくることができてよかったよ。


部屋の中の様子を見て、ガストンさんは困った表情で髪をガシガシとかく。


「ユーリン氏、いったい何が起こってるんだ? 俺にわかるように話してくれないか」


「ガストンさん、丁度良い所に来てくれたわね。もちろんご説明させていただきますわ」


ユーリンさんは優雅に微笑むと、ロックウェル商会の関係者に呪詛を付与した毒が盛られたこと。

その現行犯である使用人を別室で軟禁していることを説明する。


そこまで話を聞いたガストンがジロリと床に倒れているペイジを睨みつける。


「その使用人を操っていたのがクエンオット商会の商会長のオルマンと、床に倒れている男といういうわけか。それで、この男の素性は?」


「カルマイン伯爵の配下で、名前はペイジ、ヤードマン。伯爵の裏の仕事を担当しているようよ」


「カルマイン伯爵といえば王宮にも通じている上位貴族だ。冒険者ギルドとしては王国の内政に干渉するようなことはできないぞ」


「そのことは理解しているわ。今回の一連の騒動はレグルスの街で起こっていることだし、領主であるバックランド伯爵に采配に委ねようと思うの」


「カルマイン伯爵が絡むのなら、バックランド伯爵に任せたほうがいいだろう」


ユーリンさんとガストンさんの間で、今回の件をアルバート様に丸投げする方針に決まったようだ。

領地を統括する領主様って、大変な仕事なんだな。


するとユーリンさんが魅惑的な笑みをガストンさんへ向ける。


「それでガストンさんにはお願いがあるの。私が領都アルノスへ赴くまで、オルマンとペイジの身柄を預かってもらいたいの。二人から自供を取ってもらえると、とても助かるわ」


「アルバート様には色々と便宜を計ってもらっているからな。それぐらいのことはしてやろう。『ホラーハウス』の仕事はここまでだ。後日に報酬を受け取りにこい」


ガストンさんは面倒臭そうに言い放つと、オルマンとペイジの体を両肩に抱え上げ、ドシドシと足音を踏み鳴らして、応接室から出ていった。


大人を二人も荷物のように扱うなんて、さすがは筋肉お化け。

あの太い腕で締め上げられたら、俺の細い首なんて簡単に折られそうだな。


あれ? 何かを忘れているような?


そこでふと頭の中に少女の姿が過り、ユーリンさんに問いかけてみる。


「別室で軟禁している使用人の少女はどうなるんだ?」


「ドリーのことね。彼女については悩んでいるの。リアちゃんの治療のおかげで、幸いにも毒を服用した者達は快方に向かっているわ。それにドリーの家族も毒を盛られていたわけだし。彼女を許すことはできないけれど、できれば警備兵に引き渡したくないの」


少女の名前はドリーと言うんだな。

事情はどうあれ、彼女がロックウェル商会を裏切り、毒を盛ったことには事実は変わらない。

警備兵に連行されれば、牢屋にぶち込まれるのは確定で、下手をすれば重罪犯者として処罰されるだろう。


そうなれば、ドリーの未来は閉ざされる。

だからこそユーリンさんは、すぐ判断できずにいるのだろう。


そこまで聞いて、俺は人差し指を一本立てる。


「オルマンとペイジはガストンさんが連れて行ったし、レグルスの街で起こった騒動については、ほぼ解決したと言っていいですよね。なのでユーリンさんに報酬をいただきたい」


「それはもちろんお渡しするつもりよ。既に報酬の一部は冒険者ギルドの預けてあるわ。使用人達の命を助けてくれたことも含めて、他にも報酬を用意するわ」


「では追加報酬の一部としてドリーの身柄を貰い受けたい」


俺の提案を聞いて、リアが不思議そうに首を傾げる。


「どうして報酬が女の子なのよ。ああいう少女がトオルの好みなわけ?」


「そんなわけないだろう。俺もリアも冒険者だから、今回のように外に出る機会が多い。俺達がいない間、アルバート様から預かっている別邸は誰かが管理する必要があるだろ」


先の幽霊騒動の件で、アルバート様の別邸に務めていた使用人達のほとんどが辞めてしまった。


その上、『ホラーハウス』の俺達が住みついたことで、残っていた使用人は逃げ出し、邸の管理が行届いていない状態なのだ。


俺達が暮らしている一部の部屋の掃除はしているけど、使っていない部屋については、埃が積もっているし、至る所に蜘蛛の巣も蔓延っている。


冒険者ギルドで、使用人を募集することも考えたが、俺達『ホラーハウス』の悪い噂が街中に広まっているから、誰も怖がって応募者はいないだろう。


このままでは近日中に本物の『ホラーハウス』になるに違いない。


俺の言葉を聞いて、その意図を察したリアがパンと両手を叩く。


「面倒臭い掃除や家事で悩むこともないってことね」


「そういうことだ。というわけでユーリンさん、ドリーをください」


「うふふ、それならドリーには、今回の件で賠償金を支払ってもらうことにしましょう。その賠償金の権利をトオルさん達の報酬として譲渡するわ。彼女は返済する資金を持っていないはずだから、その分だけ働いてもらいましょう。それがあの子の償いになるでしょうから」


さすがは王宮御用達商会の商会長を務めるユーリンさんだ。

賠償金という発想は俺にはなかったよ。


もし、俺達からドリーが逃げ出せば、彼女は賠償金を支払うことを拒否したことになり、警備兵に捕まれば奴隷落ちすることになる。


やはり優秀な商売人とは仲よくしておいたほうがいいよね。

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