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第18話 アリスちゃんと散歩に行こう!

既に毒を盛った犯人は捕まえているし、ユーリンさんのお世話は他の使用人がしてくれる。

というわけで、彼女には邸にいてもらい、俺とアリスちゃんはロマリオの邸へ向かうことになった。

オランにはペイジの身柄を確保するようにお願いしている。


二人で手を繋いで通りを歩いていく。

アリスちゃんは散歩気分のようで、とても嬉しそうだ。


『嬉しいなー! 嬉しいなー! トオルお兄ちゃんとお散歩、嬉しいなー!』


俺から見れば、とても可愛い女の子なのに、普通の人達に彼女は見えないんだよな。

まだ遊びたい盛りなのに、こんな少女が幽霊だなんて、ちょっと切なくなってくる。


アリスちゃんと街並みを眺めながら一時間ほど路地を歩いていくと、ロマリオの邸が見えてきた。

大きな門の前には門番であろう男が周囲を警戒している。

どうやら邸の警備のために、ロマリオが雇った冒険者のようだ。

たぶん邸の中にも多くの冒険者がいるだろう。


ここまで来たけど、ロマリオと会う方法を考えていなかったな。

素直にお願いしても、邸の中に入れてもらえいないよね。

戦闘能力が皆無な俺に、強行突破は無理だし。


邸の前で悩んでいると、門を警備をしていた男が怒鳴ってくる。


「この邸はクエンオット商会の商会長様の邸だぞ! さっさとどっかへ行っちまえ! さもないと酷い目に遭わせるぞ!」


「俺は『ホラーハウス』のトオルだ。ロマリオに会わせてもらいたいんだけど」


「『ホラーハウス』だと!」


『ホラーハウス』の名を聞いて、冒険者は一瞬だけ怯えた浮かべるが、俺の顔をジーっと見て、余裕の笑みを浮かべた。


「『ホラーハウス』のネクロマンサーは筋肉隆々の男だって聞いてるぞ。お前のようなひ弱そうな男が、バッキオさんを倒せるわけがねー。嘘を言うならもっと上手く言えよ」


どうやらバッキオとの騒動で、俺のイメージが一人歩きしているようだな。

少し考えてから、俺は隣にいるアリスちゃんへ微笑みかける。


「アリスちゃん、あのお兄ちゃんが遊んでくれるそうだから、少しだけ壁を叩いて驚かせてみようか」


『うん! お兄ちゃんをビックリさせるー!』


嬉しそうにアリスちゃんは腕をグルグルと回し、「ドーン」と言いながら、拳を前に突き出す。


すると壁からドンという大きな音が鳴り響き、石造りの壁の一部が吹き飛んだ。

アリスちゃんは楽しそうに笑って、正拳突きの構えから連続で拳を繰り出すと、ポルターガイストによって、壁がドカン、ドカンと崩壊していく。


それを呆然と見ていた門番の男が俺を指差し、悲鳴のような大声で叫んだ。


「『ホラーハウス』の襲撃だー!」


うんうん、壁が勢い破壊されたんだから、襲撃と勘違いされても仕方ないよね。


すると男の声を聞いたのか、玄関から幾人も冒険者達が飛び出してきた。

そして俺に向けて、剣や槍を向けて身構える。


周りを取り囲む冒険者達を見回し、俺は両手を上げて降参のポーズを取る。


「怖いお兄ちゃん達に囲まれちゃったー! これはピンチだなー!」


『トオルお兄ちゃんをイジめるのはダメなの! アリスが助けてあげる!』


アリスちゃんは頬を膨らませ可愛く怒ったポーズをして、両腕を伸ばして大きく真横へ薙いだ。


すると見えない力が加わり、冒険者達が次々と吹き飛んでいく。

連中の後ろにあるロマリオの邸がバキバキと音を立てて崩れた。


あー、アリスちゃんに手加減してねとお願いするのを忘れていた。

幼女だから、こんなに力があるなんて思ってもみなかったよ。


「アリスちゃん、ストーップ、ストープ。もう悪い人達いなくなったからね。助けてくれてありがとう」


『どういたしまして。イジメられたらいつでも言ってね。トオルお兄ちゃんのことはアリスが守るからね』


「うんうん、トオルお兄ちゃんは弱いからね」


自分って言っていて、少し悲しくなる。

せめて幼い女の子に頼らなくていいように、戦闘訓練も頑張らないとな。


すると邸が破壊されたことに怯えたのか、傾いた邸から続々と冒険者や使用人達が逃げ出してくる。

そして、その人達に紛れてロマリオも姿を現した。


門の前まで走ってきたロマリオは日頃の体力不足からだろうか、ゼイゼイと荒い呼吸をして、四つん這いに倒れ込む。


俺はロマリオを指差し、アリスちゃんにお願いする。


「あのおじさんは悪い人だから、ユーリンお姉ちゃんの邸まで連れていかないといけないんだ。それでアリスちゃん、お願いできるかな?」


『はーい、トオルお兄ちゃんに協力するー!』


アリスちゃんはニコニコと笑って、霧状に変化してロマリオの体に憑依した。

するとロマリオがスクッと立ち上がり、満面の笑みを浮かべて、俺の左手をギュッと握る。


「それじゃあ、トオルお兄ちゃん、ユーリンお姉ちゃんの邸まで帰ろ!」


「そうだね。散歩しながら帰ろうね」


憑りついたアリスちゃんが話していると知ってるけど、外見が脂ぎったオッサンの姿だから、気持ち悪い。


しかし、手を振り払うとアリスちゃんが悲しむから、俺はロマリオと手を繋いだまま歩くことにした。


街の人達が俺達二人を見たら、どんな想像を膨らませるんだろう。

少し不安ではあるけど、ここはグッと我慢する。


ロマリオの少し離れ、路地をゆっくりと歩いていると、武装した警備兵達とすれ違った。

突然に大きな邸が崩壊したんだから、誰かが警備兵に通報してもおかしくないよね。


邸を壊したのはアリスちゃんだけど、幽霊だから霊感のない人々には彼女の姿は見えない。

ということは、ロマリオの邸を壊したのは俺ってことになるのかな?


もし、警備兵に捕まる事態となったら、ギルドマスターに何とかしてもらおう。

『ホラーハウス』に問題事を押しつけたのは冒険者ギルドだからね。


アリスちゃんが何か食べたいというので、大通りまで歩いて露店で肉串を買って、二人で食べながら、ゆっくりとユーリンさんの邸へ戻ると、門の前でガストンさんが厳めしい表情で立っていた。


「あれ? 俺達の応援に来てくれたんですか?」


「『ホラーハウス』の連中が街中で暴れているから何とかしろと警備兵から苦情がきたぞ。さっきクエンオット商会の商会長の邸を破壊したのはお前だろ。ロックウェル商会の一件を任せたはずだが、どうしてトオルがロマリオ氏と一緒にいるんだ?」


邸をぶっ壊されたはずのロマリオが、仲良さそうに俺と手を繋いでいるのは変だよな。


どこから説明すればいいかわからないから、一先ずはユーリンさんと会ってもらうほうがいいかも。

彼女ならガストンさんを上手く説得できるかもしれないしね。

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