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第15話 黒幕と実行犯!

夕暮れ近くになり、閉店作業が始まった。

既にユーリンさんの仕事は終わっているので、店舗からすぐ近くにある彼女の別宅へと移動することになった。


それから夜も更けてきたので、ユーリンさんの警護についてはリアに任せることになった。

彼女だけでは不安なので、アリスちゃんを連れていってもらった。


女性同士であれば、ユーリンさんの私室でも共にいることもできるし、もしシャワーを浴びる時でも、一緒に浴室に行くことができるからな。


というわけで、一人で応接室のソファに寝転がって寝ずの番をしていると、壁をすり抜けてオランが姿を現した。


そして挨拶もなく、いきなり俺の飛びついてきて俺の体に同化する。

オランに強制的に憑依された俺の意識に、オランの考えが流れ込んでくる。


《エルラム様が呼んでいるです。時間がないので私が体をお借りして、トオルさんを案内しますです》


《どこへ連れて行く気だ?》


《今回の騒動を起こしている連中の元へです。ではトオルさんの体をお借りしますです》


俺の体の主導権を握ったオランが、勝手に体内の魔力を循環させ、身体を強化して応接室から飛び出していく。

廊下を疾風のように走るが、足音一つしない。


オランは『暗殺者』の固有スキルを持っているから、それを活用しているのだろう。


機敏な動きで邸を抜け出したオランは、門の警備兵を避けるように壁を跳躍して闇夜に消える。

そのまま大通りを駆け抜け、細い路地へと入り、角々を間借りながら疾駆する。

しかし、大通りを歩いていた人々も、路地にいた人達も、全くオランに気づかない。


オランが操っているとはいえ、俺の体なのにこんなことができるのか。


ある地点まで来ると、オランはピョンと跳躍し、建物の屋根へと飛び移り、屋根瓦をめくって屋根裏へと潜り込んだ。


暗闇の狭い空間の中を進んでいくと、霊体のエルラムが座っていた。

すると俺の体から抜け出したオランが、ニッコリと微笑む。


『トオル様をお連れしたです』


「こんな所まで連れ出して、いったい何があるんだ?」


四つん這いになりながら、エルラムに近づいた俺は首を傾げる。

するとエルラムはニコニコと微笑み、人差し指を下に向ける。


『ここはクエンオット商会の主であるロマリオの邸じゃ。今、下の部屋では、ロマリオとある貴族の使者が話し合いを行っておる。自分の目で確かめてみるとよい。何事も経験じゃからのう』


エルラムの言葉に戸惑っていると、オランがポルターガイストで音もなく天板を外して開けてくれた。

そこから静かに部屋を覗き込むと、二人の人物がソファに座って話し合っている。


豪華な衣服を着た男が、腹を撫でながら目を細める。

たぶん、恰好からすると、この男がロマリオだろう。


「ミルキースパイダーの糸については、市場に流れている七割は確保してございます。しかし、残りの三割につきましては、ロックウェル商会の手に」


「ミルキースパイダーの糸の加工、その生地の流通については、今までカルマイン領が一手に行ってきたのだ。それを今回だけでも、ミルキースパイダーの糸がロックウェル商会に渡れば、新しい販路を作られてしまう。それは何としても阻止せねばならん」


「そうですとも。クエンオット商会はミルキースパイダーの糸を独占することにより大きくなって参りました。それはカルマイン伯爵の後ろ盾があってこそです」


「それならば、早くユーリン・ロックウェルを殺してしまえ」


興奮を抑えられなかったのか、覆面の男が大きく腕を横に薙いだ。

すると、ロマリオはニコニコと笑い、両手を前に出して、手の平を上下させる。


「既に手配していますとも。多額の金を握らせて、こちら側に寝返らせた使用人を、クエンオット商会の中に忍ばせております。その者達を使い、ユーリンも含め、ロックウェル商会に信を置く者達に毒を盛っております。この毒はある組織から購入した物で、治癒師では治療できない代物です」


「ユーリンはまだ生きているではないか」


「それが疑問でして。王宮御用達商会のロックウェル商会のことですから、私達の知らない魔道具の類を所持しているのかもしれませんな。そうであれば穏便な手法を止め、確実にユーリンを殺す手段を講じるまでのこと」


おいおい物騒なことを言い始めたな。


しばらく下の部屋の様子を伺えていると、話し合いが終わったのか、仮面の男は立ち上がり扉から出て行った。

するとオランが立ち上がり『尾行するです』と言って、天井をすり抜けて消えていった。


天井板をゆっくりと閉めて、エルラムの方へ顔を向ける。


「だいたいのことはわかった。仮面の男が黒幕で、ロマリオが実行犯ってことだろ」


『今はその認識でよかろう。後でトオルにでもわかるように説明してやるわい。ではリア達の元まで戻るぞい。トオルよ、体を貸すのじゃ』


俺一人の力では、真っ暗闇の屋根裏から出ることも無理だ。

諦めて体の力を抜くと、エルラムが俺の体の中へ入ってきて俺と同化する。


俺から体の主導権を取ったエルラムは、屋根裏を素早く移動し、オランが開いた穴から屋根の上へとよじ登った。


そして屋根の上に立ち、目に見えない杖を大きく左右に振る。


「フライ!」


すると俺の体から魔力が杖に流れ、一気に体外へと放出する。

その魔力が体を覆ったように感じた瞬間、何の前触れもなく、俺は空高く飛翔していた。


俺の体、俺の魔力を使ってこんな魔法を使うこともできるのか。

感動しながら、空を見ているとエルラムが呟く。


「トオルは魔力量が他の者達よりも数倍多い。魔法を取得することができれば、このぐらいのことは簡単にできるようになるじゃろ」


今までエルラムから何度も魔法についての講義をしてもらった。

しかし、一度も褒められたことはなかった。

何時までも幽霊たちに頼ってもいられないし、俺も頑張らないとな。


二つの月が瞬く夜空を飛んで、ユーリンさんの別邸まで辿り着いた。

先ほど見た情報を報告するため、彼女の私室へ向かう。

扉をゆっくりと開けて室内へ入っていくと、ワンワンと大泣きしながらアリスちゃんが抱き着いてきた。


『リアお姉ちゃんが! リアお姉ちゃんの意識がないのー!』


いったい俺が留守にしている間に何が起こったんだ?

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