第12話 悪化する噂!
アルバート様と今後について話し合うことになり、今日はアルバート様の邸に泊まることになった。
ヨークさんは冒険者ギルドへ依頼完了の報告をすると言って邸を去っていった。
夜も遅くなってきたので、少し腹が減ったなと思っていると、オランが料理ができると言い張り、台所へと飛び出していった。
その後ろにアリスちゃんも続いて壁をすり抜けていく。
実体化しても幽霊って物質を通り抜けることができるんだな。
それにしても体を持たない幽霊が、どんな風に料理をするんだろうか?
舌もないけど味付けは大丈夫なのかな?
アリスちゃんが応接室を壊したので、俺、リア、アルバート様の三人は食堂で料理ができるのを待つことにして、部屋を移動することになった。
エルラムに頼んで、台所にいるオランとアリスちゃんに俺達が食堂にいることを伝えてもらう。
食堂の席に座って待っていると、扉が開いてアリスちゃんとエルラムが、ポルターガイスト現象を利用して沢山の料理を運んできた。
「オランお姉ちゃん、すごいんの。とっても料理が上手なの」
「それは良かったね。アリスもお嫁さんに行く前に、いつか料理を覚えないといけないね」
「パパ―、いつか私の料理を食べさせてあげるね」
アルバート様とアリスちゃんが朗らかに話しているけど、会話の内容が変だろう。
既に幽霊になっているアリスちゃんに花嫁修業なんて必要なの?
それに幼女の幽霊って成長するのかな?
頭の中が疑問で一杯になり、首を傾げていると、隣からリアが脇腹を抓ってくる。
「余計なことは言わないでよね。全ては報酬のためなんだから」
「わかってるよ。俺もリアへの借金を減らしたいからな」
俺達二人がコソコソと話し合っていると、オランが空中に料理を浮かべて応接室に戻ってきた。
『腕によりをかけて作ったです。たくさん食べてくださいです』
『それは楽しみじゃのう』
エルラムは嬉しそうにホクホクと微笑む。
幽霊なのに、どうやって料理を味わうのだろうか?
テーブルにズラリの料理が並べられ、幽霊が作ったと思えないほど美味しそうに見える。
俺は両手を合わせ、「いただきます」と呟いて、料理に噛り付いた。
「美味い!」
「ちょっと不安だったけど、味付けも最高ね!」
俺の隣で、リアもガツガツと口に料理を放り込んでいる。
俺達の真向いに座るアルバート様は、上品に料理を口に運び、「本当に美味いな」と呟く。
そして幽霊達の方へ顔を向けると、エルラム、オラン、アリスちゃんの三人は、匂いを包むよう手を振って、料理の香りを楽しんでいる。
『これはなかなかに美味い匂いじゃ。久々に満腹になれそうじゃわい』
『エルラム様に喜んでいただいて光栄です』
「久しぶりのお食事! とっても美味しいの!」
そういえば日本では幽霊は匂いを食べると聞いたことがある。
匂いで味もわかるんだな。
あっと言う間に食事は終わり、オランとアリスちゃんは食器を洗うと言って、台所へいってしまった。
するとエルラムが首を傾げてリアに声をかける。
『そういえばリアが料理をするところを見たことがないのう』
「だって宿暮らしだし、街には料理屋や酒場があるもの」
『それでリアよ、そなたは料理はできるのか?』
「うぅ……焼け焦げでもいいなら、今度、料理を作ってあげるわよ」
そういうと、リアは恥ずかしそうに顔を俯かせる。
どうやら、彼女は料理が苦手なようだ。
誰にでも得手不得手はあるし、下手にトラウマに触れないほうがいいだろう。
お腹も満たされたので、少し横になって仮眠を取りたいと思っていると、アルバート様が俺とリアに声をかけてくる。
「実は、この別荘での騒動が終われば、私は領都アルノスに戻らなければいけない。アリスも領都へ一緒に連れていくことも考えたのだが、向こうに行けば私も公務で忙しい。そこで君達『ホラーハウス』にアリスを預けたいのだ。二人にはアリスも懐いていることだし、それにアリスが悪霊になるのを阻止もできよう」
「はい! アリスちゃんを大事に保護しまーす!」
「そこでトオルとリアにこの別荘の管理を任せようと思う。君達と一緒に暮らせたほうがアリスも嬉しいだろうからね。今回の報酬とは別に、それなりの給金も支払うし、アリスが不自由しないように資金も置いていこう」
「しっかりとお引き受けしますので、ご安心だください!」
アルバート様の申し出に、リアが真剣な表情を作り何度も頷く。
リアのことだから、沢山の報酬と資金がもらえることに、心の中で飛び上がって喜んでいるんだろうな。
俺としても関わってしまった以上は、幼女を放り出すことはしたくないし、一緒に暮らせるとなればエルラムとオランもアリスちゃんの世話をしてくれるだろう。
こうして俺達はアルバート様の別荘で暮らすことが決まった。
それから三日間、アルバート様はアリスちゃんと十分に親睦を深めて、名残惜しそうにしながら領都アルノスへと馬車に乗って出発していった。
アリスちゃんが不自由にならないように、大量の金貨を置いていってくれたので、リアは大喜びだ。
邸にずっといても退屈なので、俺、リアは久しぶりに冒険者ギルドに向かうことにした。
もちろんエルラム、オラン、アリスちゃんの三人も一緒だ。
ちなみにアリスちゃんは俺が与えた魔力が少なくなり、実体化が解けて普通の幽霊に戻っている。
建物の中へ入ると、広間にいた冒険者達がビキッと動きを止め、恐る恐る、俺達から遠ざかっていく。
そして俺達と視線を合わさないようにしながら、コソコソと何かを呟いている。
「領主様を幽霊で脅して、街外れの別荘を奪い取ったらしいぞ」
「俺が聞いた噂では、領主様に幽霊を憑依させて、憑り殺すと脅迫したって聞いたぜ」
「やっぱり『ホラーハウス』の鬼畜っぷりは半端ねーな」
そんな噂、事実無根だよ!
どこでどう湾曲すれば、俺達がアルバート様を脅迫したことになるんだ!
ヨークさん、キチンと冒険者ギルドに事実を報告してくれたんだろうな!
周囲の冒険者からの奇異な視線に晒されながら受付カウンターへ向かうと、顔色を青くした受付嬢が深々と頭を下げる。
「『ホラーハウス』のトオル様とリア様ですね。お二人が依頼を完了したことは、『閃光の翼』のヨークさんから報告を受けています。報酬をお渡しするためギルドマスターがお待ちです。執務室までご案内いたします」
え? 報酬を受け取るだけなのに、ギルドマスターと面会する必要があるの?
なんだかイヤな予感がするのは俺だけだろうか?




