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第1話 突然の転移。ここはどこなんだ?

「ここはどこなんだ?」


いきなり見覚えのない整備された空地で意識を取り戻した。

よく周囲を見回すと、地面には石板や、剣が刺されている。


場所の雰囲気からすると墓地だろうが、日本風の墓場ではない。


「また変な異空間にでも迷いこんだのか? もう自分の体質がイヤになるよ」


幼少の頃から、霊感みたいな感覚が鋭く、今まで色々な面倒事に巻き込まれてきた。


小学校の時は、仲良くなった男の子が現実に存在していなくて、何もない空間に話しかけて笑っている俺を見て、クラスの連中にドン引きされて、誰も友達になってくれなかったし。


中学の修学旅行で宿泊したホテルで、夜に布団で寝ていると、突然に金縛りに遭い、女性のような影に首を絞められたり。


高校の時、通学に利用していた駅で、いつものように電車に乗ったのに、学校付近の駅に到着したと思って電車を降りたら、全く路線の違う見知らぬ駅に立っていたとか。


大学を卒業して、社会人となって就職してからも色々なことに遭遇した。

今までの自分の人生を振り返ってもイヤに思い出ばかりだ。


そんなことを考えながら、周りの景色を眺めて、片手で髪をかく。


「周囲の景色が変だな? どこを見ても日本らしくないぞ?」


今まで霊界や異界みたいな場所に巻き込まれたことはあったけど、そのどれもが日本風の場所だった。

しかし、ここは西洋の墓地のように見える。


墓標のように地面に剣が刺さっていたり、ただの木の棒が刺さっていたり、石板が埋まっていたり。

現在と時代も違うような気がするぞ。


この場に立っていても仕方ないので、石板の間を抜うように、墓地の外を目指して歩く。


するといきなり、耳元でしわがれた男性の声が聞こえてきた。


『どこへ行くんじゃ、異界の人よ? 少しワシの話を聞いていかんか?』


「うわーー!」


その声をビックリして後ろを振り返ると、霧のような白い影が浮かんでいる。


思わず後ずさりをして、その白い影をジーっと見ていると、徐々に人の形がボンヤリと浮かび上がり、白髪の老人がニコニコと笑っていた。


「俺に何の用でしょうか?」


『迷っているようなので声をかけたんじゃ。そなたはエルランド王国の者ではあるまい。いったいどこから来たのじゃ?』


この白い影の老人、どう見ても人間じゃないよな。


でも幽霊から声をかけられるのは慣れているし、今は緊急時だから、少しでも情報がほしい。


「俺は日本で暮らしていた、津守通ツモリトオルだ。エルランド王国って地球のどこにある国なんだ?」


『地球という名は知らんのう。ここは女神が創造されたシャンベル界じゃ。エルランド王国はナトリアム大陸の東の端に位置する王国じゃ』


女神? シャンベル界? ナトリアム大陸?

どの名前も聞いたことがない。


どうやら今回は霊障ではなく、ラノベ小説に登場する異世界転移に巻き込まれたのかも。

でも魔法陣を踏んだことなんてないぞ。

異次元へのゲートを潜った記憶もない。


焦った俺は、両手を広げて老人に問いかける。


「どうすれば元の世界に戻れるんだ? このままだと会社をクビになってしまう。それだと困るんだ」


『ワシも死ぬ前は賢者と呼ばれていた身。できることなら協力してやりたいが、異世界へと通じる魔法は知らんのう』


「賢者? この世界に魔法があるのか?」


『もちろんある。少し、この世界について話してやろうかのう』


老人はニコニコと笑うと、ゆっくりと話始めた。


老人の名はエルラムと言い、千年ほど昔、古代のミルテリアム王国で魔法を極め、賢者として三百年も生きていたらしい。


このナトリアム大陸の森には多くの魔獣が生息しており、ドラゴンとも対峙したことがあるという。


エルラムの話が本当なら、まさにファンタジー小説の物語の中のような世界だ。


半信半疑で話を聞いていると、エルラムがニヤニヤと笑って人差し指を伸ばしてくる。


『トオルよ。お主はシャンベル界について何も知らんじゃろう。ワシと盟友契約をするなら、わからないことを全て教えてやってもよいぞ』


「盟友契約って何だ?」


『文字通り、友人となる契約じゃよ。今はワシも霊となっておるから、年月が経てば消えてしまう身じゃ。しかし、盟友契約でトオルとパスを繋げば、ワシも突然に消滅することがない。よって、この先もトオルに色々と教えてもやれよう。お主にとって悪い話ではないと思うがのう』


日本にいた時、幼い頃から幽霊に取りつかれたり、散々な目に遭ったこともある。

簡単に霊を信じられないが、この世界で生きていくなら、賢者であるエルラムの魔法の知識は魅力的だ。


しばらく悩んだ末に、好奇心には勝てずに、俺は大きく頷いた。


「わかった。契約しよう。ただし、俺を利用しようとするなよ」


『そんなつもりは一切ないわい。異世界から来たトオルに興味があるだけじゃ。さあ人差し指を出すがよい』


俺が人差し指を体の前に伸ばすと、エルラムの人差し指と触れた瞬間、強烈な光が放たれ、俺とエルラムの腕に光の鎖が絡みつく。


そして次の瞬間には光も鎖も消えていた。


そのことに驚いていると、エルラムの輪郭が変化し、普通の老人のようにハッキリと姿が見えるようになった。


『フォフォフォ、きちんとした人の形になるのは久しぶりじゃのう』


「エルラムは幽霊なんだろ? その姿って、周囲の人達には見えるのか?」


『いや、他の者には見えんよ。トオルのように鋭い霊感を持つ者は、この世界でも稀有じゃからのう』


霊感の持たない人々に幽霊が見えないのは、このシャンベル界でも同じなのか。


もし街中に行くことがあれば、エルラムとの会話は控えたほうがいいかも。

そうしないと、誰もいない空間に俺が話しかけているみたいに見えるからな。


そういえば日本にいた時、よく話しかけてきた人が、幽霊と判別できずに会話をしていて、周囲の人達から白い目で見られたりしたよな……


俺は暗い気持ちを切り替えるように、エルラムに話しかける。


「ずっと墓地にいるわけにもいかないし、近くに街はないかい? 少し休憩したいんだけど」


『任せておけ。幽霊になってからも、エルランド王国内を浮遊して旅をしていたからのう。色々な場所へ案内してやろう』


……放浪癖のある幽霊って、生きている人からすれば迷惑な話だな。


エルラムのおかげで話し相手もできたし、後は街へ行って休む場所を確保しないとな。


でも、この世界って電子マネーや日本円って使えるのだろうか?

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