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さくらの恋  作者: ゆり
22/30

仲良しこよし

 あれから結局2日間お休みを頂き、体力を回復させた。

出勤後、菓子折りを持ってナースステーションを訪ねた。迷惑をかけたことを心の底から謝った。


『いいのよ、元気になってよかった。これに懲りて、もう無理はしないでよ?』


 主任が笑って言った。


『谷川先生もなんだかんだでさくら先生のこと心配してたみたい。あなたがやった後をチェックして間違いがあったら訂正してたから』


『えぇ!?本当ですか……!め、迷惑かけすぎてて、自分で自分にひいてます……!』


『ふふ、ちゃんとお礼言っときなさい』


 入院患者さん達にも『すみません、私すごく態度が悪かったかもしれません…』と謝罪に行くと、目を丸くされた。


『反省して謝罪できるなんて、若い証拠よー!私らくらいにじじぃばばぁになるとね、反省もせんし謝罪もせんからね!』


 笑い話にしてくれて、その心遣いがありがたかった。しっかりせねば、と改めて気を引き締めた。


 そして、谷川さんにも謝罪とお礼を言いにいったところ ーーーー











「ん……そこ……気持ちいい……」


「ここはどうです……?」


「あー……うんうん……さくら……上手だね……」


「喜んでもらえて嬉しいです」


 今日は、穏やかな休日。

 私は谷川さんの部屋で、


「うん、ありがとう。すっきりした」


「よかったです」


 彼の背中をマッサージしていた。

 論文執筆に精を出している谷川さん。ずっと同じ体勢だったので体が痛くなったそうで。


『ねぇ、ちょっともんでくれない?』


『いいですよー。じゃあちょっとそこらへんに寝てください』


 遊びに来ていた私にマッサージをお願いしてきたのだった。


 最近は、谷川さんの部屋によく遊びに来させてもらっている。

あの日、私のミスをカバーさせていたお詫びを伝えると、


『…………そういえば、論文の手伝いでもなんでもするって言ってたよね』


『は、はい!』


『じゃあ休みの日はうちにきて掃除したり洗濯物たたんだりしてよ』


『!え、データのまとめとかではなく、ですか??』


『…………………………』


『いえ、なんでもやらせていただきます。どうぞお申し付けくださいませ』


『うん』


 ……といったやりとりがあり半ば強制的に来させられていたのだが、その強引さが奏功したのか、最近は生活ぶりも安定し、仕事の方もあまり無茶はしなくなっていた。

 寄り添ってくれる谷川さんに感謝だ。


 でも。


(…………ハタからみたらどんな風に見えるんだろ…………。谷川さんは面倒見てくれてるだけだろうに、変な噂がたったら嫌だなぁ……)


 カーペットにコロコロをかけながら、ちら、と谷川さんを盗み見る。眉間に皺を寄せてカタカタとパソコンに向かっている。

私が見ていることに気づいて、手を止めた。


「なに?」


「あ、いえ。私邪魔じゃないですか?掃除終わったら帰りますね」


「……別に邪魔じゃない。誰かいてくれた方が俺もサボらないから。見張ってて」


 自分をしっかり律しているイメージだった谷川さんからそんなセリフが出たことに、少し笑ってしまった。


「谷川さんにも怠け心ってあるんですね!」


「……みんな俺をなんだと思ってるの?」


「えっ、それは……明るく元気な、ともすればチャラチャラしていると言われがちな整形外科で、唯一冷静沈着で頼り甲斐のある先生だってみんな思ってるんじゃないですか?」


 私がそう言うと、谷川さんが苦笑いした。


「……要するに、テンション低くて何考えてるかわからないから怖いけど、何かあったときは面倒ごと引き受けてくれるから助かるわ〜ってことね」


「そんなことは言ってませんて!!!!」


 冗談だとは思うけれど、即座に否定する。


「谷川さんがいると、一本芯が通るんです!あと、何があっても大丈夫だ〜ってみんな安心して動けるんです!!守護神ですよ、守護神!!この人が当直だったら安心ランキングナンバーワンです!!」


「はは、光栄だな」


「そうですよ!」


 鼻息荒く熱弁した私に、谷川さんが軽く微笑んだ。慈しむように見つめられ、なんだか照れくさくなって話をそらした。


「あ、おやつには少し早いですけどコーヒー飲みますか?淹れてきます」


「あぁ、お願いしていい?棚に新しいの買ってきてるからそれ使って」


「了解でーす」


「紅茶もあるから飲んでいいよ。クッキーも買ってあるから勝手に食べて」


 谷川さんの大盤振る舞いに目を丸くしてまじまじと見つめると、彼は眉をしかめて「なに?」と言った。


「いえ、もしかして、私のために用意してくれたのかな?って思って……」


「…………………………」


「ってそんなわけないですよね〜。失礼しました〜」


 我ながら乙女チックなことを言ってしまったな、とあはは〜と笑いながらキッチンへ向かった。

 棚を開けると本当に紅茶が用意してあって、嬉しかった。













「はい、どうぞ」


「ありがとう」


 カチャ、とコーヒーを置いた。自分はあまりコーヒーを飲まないので準備するのが難しいのだが、今日はなかなかうまく淹れられたと思う。ネットの動画で学習した甲斐があった。

さて、自分の飲み物も取りに行こうとしたとき、谷川さんから「さくら」と呼び止められた。


「はい?」


 彼がこちらを向き、そっと私の両手をとった。


「……あのさ」


 谷川さんの瞳が揺れ、唇を少し噛んだのがわかった。


「??砂糖とミルクをご所望ですか??」


「いや、そうじゃない……」


「????」


 どうしたのだろうか。何か言いたそうなのはわかるけれど、それが何なのかは皆目検討がつかなかった。


 指先から、谷川さんの体温が伝わってくる。



「「……………………………………………………」」



 なんだか心臓がドキドキしてきた。

 なんだろう。なんだろう!!


「俺たち……その……」


「……は、はい……」


 心臓が!!ドキドキする!!!!


 谷川さんの指が優しく私の手をなでたときーーーータイミングよく彼のスマホが鳴った。


「………………呼び出しだわ」


「あっ、早く出ないと」


 お互いパッと離れ、私は帰り支度を、谷川さんはテーブルに置いていたスマホをとって「はい、すぐに行きます」と応答していた。


「大丈夫ですか?」


「……あぁ。この間俺が手術した患者さんが『痛い、主治医を呼べ!!』って大騒ぎしてるらしい」


「!あの弁の立つおじいちゃんですよね。牧田さんが泣かされたっていう」


「…………俺だって泣きたいよ」


「えっ、谷川さんも何か言われたんですか?」


「…………………………」


 話しながらも素早く出発する準備を完了し、靴を履く。鍵を閉め、急ぎ足でエレベーターに乗り込み「1階」を押した。


 2人、無言でエレベーターの数字が下がっていくのを眺めた。


「じゃ、また病院で」


「はい、気をつけて行ってくださいねー!」


 私がそう言うと、谷川さんは軽く微笑んで病院へ向かっていった。


(…………さっき……電話が入らなかったらどうなってたんだろう…………)


 顔を赤らめていた谷川さんを思い出す。


(……………もう!変な想像しない!!また勘違いして迷惑かけるぞ!!)


 谷川さんと、こ、恋人がするようなことをしている場面をつい想像してしまった自分を、ぽかっと叩いた。


 そう。谷川さんは面倒を見てくれているだけ。

 勘違いをしないよう、くれぐれも注意せねば。




『正直、迷惑だった』




 斗真さんの声がよみがえる。

 なんだかドクドクし始めた心臓を押さえ、自分に言い聞かせた。


 大丈夫、ちゃんと、わかってるから。

 もう、同じ失敗はしない。



「わっ…………」



 ざぁっ…と強い風が吹いた。道端に捨てられていたお菓子の紙が、風になぶられて飛んでいった。














・・・











 そして結局おじいちゃんはなんの異常もなく、『せっかく休日を返上して来てくれたんだから』とそのまま将棋の相手をさせられたらしい。

おじいちゃん曰く谷川さんは中々筋がいいそうで、その後も毎日相手をさせられているそうだ。

『主治医を変わってもらいたいのですが…』と部長に相談する谷川さんの後ろ姿に、皆が同情した。

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