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さくらの恋  作者: ゆり
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恋のはじまり

「わーー、世話の焼ける弟でごめんね」


 クラスの友人同士で飲んでいた飲み会。潰れてしまった鈴木くんを迎えにきたのは、麗しい王子様だった ーーーー。








「おーい、さくらー?戻ってこーい」


 友人の香奈恵が目の前で手をひらひらさせ、それでハッと我に返った。

休み時間の、ざわざわした喧騒が耳に戻ってくる。


「ごめんごめん、ぼーっとしちゃって……」


「また鈴木の兄ちゃんのこと考えてたの?ここんとこずっとじゃん」


 呆れたようにそう言われ、思わず「違うってば」と否定してしまう。


「確かに、すごくかっこいい人だったけど」


 端正な顔立ち、発光するような美しい肌、ゆるくウェーブがかかった黒髪、均整のとれた体格 ーー。

そして見た目の美しさもさることながら、彼から滲み出る色気にとらわれ、呼吸をすることも忘れてじいっっと見入ってしまったことを思い出す。


「でしょ!?」


「すごく遊んでる〜って感じだった」


「あれだけ美形だったら、周りの女性が放っておかないよ!!」


 思わず力が入る。そんな私に、香奈恵は苦笑いした。


「そんなに気になるんだったらさ、鈴木に仲を取り持ってもらえばいいじゃん」


「!!!!!!」


 突拍子もない提案に、飲んでいた紅茶を吹き出しそうになる。


「そ、そんなの……だめよ!大体鈴木くんだって迷惑に思うって……」


「顔は正直だねぇ」


「…………………………」


 ニマニマしてしまう頬を、両手で覆った。








「兄貴のこと?いいよ、何を知りたいの?」


 時は進んでお昼休み。学食でカレーを食べていた鈴木くんをつかまえた。


「快諾してくれてマジありがとう鈴木ー。もーさくらがさー、あんたの兄ちゃん見てからずーーっと惚けてて……」


 おもしろおかしく話す友人を「ちょっと!」と言って止めた。それを見て鈴木くんがははっと笑った。

爽やかな笑顔。

聡子(同じクラスの美人さん)とお似合いのカップルだったのに、別れてしまったのは残念だ。


「えっと……名前は知ってる?」


「……教えてください!!」


 すちゃっとメモを用意した私に鈴木くんがまた笑った。アナログ感がよかったらしい。


「名前は、鈴木斗真(とうま)。年は俺の6個上の28。職業は医師」


「ーーーーーーーーーー!!」


 ボールペンが紙に刺さった。香奈恵が「え?マジで?あの見た目で??」と失礼なことを言っていた。


「はは、そうなんだよ」


「もしかして同じ大学!?」


 同窓生だったら親近感を持ってもらえるかもしれない。

邪な思いできくと、鈴木くんは首を横に振った。


「いや、大学は##大学(※学費が特に高いことで有名な私立大学)だよ」


「そっかー。残念だったねさくら。さすが鈴木病院の御曹司様だ。てか鈴木、あんたがここにいる方が不思議なんだよね」


 香奈恵はずけずけものを言うので、たまにひやひやすることがある。鈴木くんが気分を害していないかと心配になったが、当の本人はにこにこしていた。


「三男は自由だから。てか偏差値的にはこっちの方が上だし。さくら、自信持ってね」


 ……それで励まされてもあまり嬉しくはなかった。


「あの、ご趣味などは ーー」


 お見合いかよ、と吹き出した友人を尻目に、鈴木くんの回答を待った。

一体前世でどんな徳を積んだらあんな人の弟に産まれることができるのだろう。一つ屋根の下で寝食を共にしてたなんて、羨ましすぎる……!


「趣味。うーん、趣味かー……。女遊び……ごほっ、じゃない、あんまこれといってないと思うけど……」


 言った今女遊びって言った、という声は聞こえない。


「あ、たまにギター弾いてたかな。母がピアノの先生だから、その関係でピアノも弾ける」


「ふむふむ……」


「そういや以前釣りにはまってたこともあったな。でかいの釣って、家まで持ってきたことあったよ」


 想像して、なんだか笑ってしまった。

 好きな人の話って、どうしてこんなに楽しいんだろう。


「ずばり聞くけどさ、どんな女が好きなの?ぶっちゃけ、さくらいけそう??」


 香奈恵の、赤裸々な質問。


「わーーーーちょっとーーーー!!せっかく今エピソードに浸ってたのにーーーー!!」


 ぽかぽか叩くと、


「だろうと思ったから。あんたのペースでいったら夕方になりそう。で、どうなの?」


 香奈恵がまるで借金取りのように身を乗り出す。


「うーーーーん、えーーーーとねーーーー」


「焦らさないで早く言ってよ」


「待って、今共通点を考えてるから」


「ねぇ聞いたーーーー!?やっぱ遊び人じゃーーん!!サンプル数が多いんだよーーーー!!」


「…………………………」


 ドキドキしながら、発表を待った。


「うん、おねえ様ーって感じの人、かな」


「ーーーーーーーー!!」


「さくら、ちんちくりん、諦めろ」


 ぽん、と肩を叩かれた。ーーあ、思ったよりショックだ。

がくっとうなだれた私を気遣ってか、鈴木くんが慌てたように言った。


「いや、まぁあくまで外見の話だし。ってか6個上だから、彼女のことも大人っぽく見えてるだけかもしれないし」


「……聡子に……」


「え?」


 ゆらっと立ち上がる。


「聡子に聞きにいく……どうしたら美人になれるか……」


 鈴木くんが咳込んだ。それを見た香奈恵がにやにやして言った。


「聡子のおっぱいさ、柔らかいよね」


「!!……おま、何言ってんだよ」


「え?疲れたときとか揉ませてもらってるの。私の癒し」


「なんだよそれうらやましすぎだろ」


「ふふふ……。耳元にふーってしたらにゃーーって言うの、かわいいよね」


「…………………………」


 鈴木くんが真っ赤になっている。香奈恵はそれを見て「あ〜思い出してる〜」とからかうように笑った。


「ま、とにかく」


 コホンと咳払いする鈴木くん。


「さくら、応援するよ。さくらが義姉さんになってくれたら俺も嬉しいし」


「えっ」


 いきなり飛躍した話に、思考停止してしまう。


「兄貴も28だからさ。なんか最近周りが結婚ラッシュみたいで。その影響で、生涯のパートナーが欲しいみたいなこと言ってたよ」


「そ、そうなんだ……」


 お近づきにすらなっていないのに、結婚式の妄想をしてしまう自分はつくづく少女漫画育ちだなぁと思う。


「あの、ちなみに食物アレルギーなどは……」


「わーすごく現実的に考えはじめてるー」


「はは、ないよ。嫌いな食べ物もないはず。なんでも食べる人だから、作る人はやりやすいんじゃないかな?」


「そうだね……」


 自分が作ったものを、斗真さんが食べてくれる。その上『おいしいよ』なんて言ってもらえたらーーーー


「さくらー戻ってこーい」


「……俺、余計なこと言った?」


「だいぶね」


「はは、さくらの恋が、実るといいね」


「恋っつーか、憧れでしょ。推しを見つけたー的なさ。て言うか、兄ちゃんの専門って何?あ、好奇心で聞いてる」


 友人たちの会話に、身を乗り出す。


「整形外科。最初は美容系に進みたかったらしいけど、手術で関わった患者さんに涙ながらにお礼を言われて感動したんだって」


 まぁ、うちは救急科や整形外科中心の病院だから。なんだかんだでそうするつもりだったんじゃないかな。


 そう言う鈴木くんの手をとり、ぎゅっと握手した。


「??」


「鈴木くん、ありがとう……!私ね、ずっと専門何にしようかなって迷ってたの。でも今吹っ切れた」


「え、いや、5年になったら実習で色んな科をまわれるんだから、そんなに急がなくても……」


「ううん、決めた。私も整形外科志望する。で、手術上手になって、斗真さん、きゃっ名前言っちゃった、の目にとまるようになる!!」


 香奈恵が「そのアプローチ、ずれてない?」と言った。


「就職先は鈴木病院。お口添えよろしくね鈴木くん!!!!」


「あはは、いいよ。親父に言っとくね」


「わー、おバカ同盟爆誕ーー」


 ぱちぱちぱちぱちぱち……


 無表情で拍手する香奈恵。笑顔で拍手する鈴木くんと私。そしてこの後「おっ、みんなで何やってるの?」と寄ってきたよっしー(吉田直樹くん)もメンバーに加え、同盟始動と相なったのであります。


「なんか楽しいね。とりあえず、今度の休みの日に俺の家来る?兄貴帰ってくるかもしれないし」


 鈴木くんのナイス提案に、秒で頷いた。

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― 新着の感想 ―
物語に入っていきやすく、読みやすい作品だった。
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