75・元気だして
「由那ちゃん、その……。わたし、由那ちゃんに伝えたいことがあるんだ」
「なんですか? 翔子さん」
そう翔子が口にすると、由那は不思議そうな顔をしながら言葉を返した。
梓をちらりと一瞥した後、翔子はベッドに上体を起こした由那の目を見ながらゆっくりと言葉を紡ぐ。
「由那ちゃん、その、昼間の事だけど……。部外者のわたしがこんな事を言うのは変だし、ひょっとしたら由那ちゃんの気にさわっちゃうような事かもしれない。……でも、どうしても由那ちゃんに伝えたい事なんだ。だから、言うね」
「はい」
重要な話をしようとしている事が伝わったのか、由那は神妙な面持ちで頷く。
由那の顔を見ながら、翔子は言葉を続けた。
「……昼間の縁側でのことだけど、梓さん、由那ちゃんが言ったこと、気にしてないと思うんだ。それよりもきっと、由那ちゃんに元気になってほしい、笑顔になってほしい。そう思ってるはずだよ。梓さんは由那ちゃんの事をこれからも見守ってくれてる。……わたしは、そう思う。だから、由那ちゃんも元気だして」
梓の言葉を、翔子は自分なりの言葉に変えて由那へと伝える。
由那は驚いた表情を浮かべつつも、頷くと口元に笑みを浮かべて答えた。
「……そうですね。ついさっきの出来事だからやっぱりまだ心の整理は付きませんけど、でもメソメソしてちゃダメですね。……元気、出さないと。翔子さんの言う通り、お婆ちゃんもきっとそう望んでるとわたしも思います。励ましてくれてありがとうございます、翔子さん」
(由那ちゃん、わたしの言葉をどう受け取るか心配だったけど、少なくとも不快にさせちゃったりはしてないみたいだね。よかった……)
由那の言葉に、翔子は内心ほっとする。
でも、梓は今の由那に向けた翔子の言葉をどう感じたのだろう?
梓の方を見ると、彼女はゆっくりと翔子に頷いた。
「翔子さん、どうもありがとう」
そう言って、梓は微笑む。
意図した通りの言葉をきちんと翔子が伝えられたかどうかは、正直分からない。
でも、梓が笑顔を見せたことで、翔子もまた自分の言葉にすこし自信を持てた気がした。
視線をベッドに戻すと、体を起こした由那が感謝の言葉を告げる。
「……その、翔子さん。わたしが拳銃で撃たれそうになった時、身を挺して庇ってくれましたよね。そういえば、まだその時のお礼、言えていませんでした。わたしをこうして励ましてくれた事といい、翔子さんには本当に感謝してもしたりないです。わたしはもう平気ですから、翔子さんも自分のこと、気にかけてくださいね」
その言葉に、翔子は素直に嬉しく思う。
でも、もう平気だと語る由那の表情がまだ無理をしたもののように思えて、翔子はすこし心配になる。
「……そんな。由那ちゃんは気にしなくていいよ、わたしの事なんて。今は自分のこと、大切にして」
「翔子さん……」
口元に小さく微笑を浮かべた由那は、静かに翔子の名を口にする。
その時、不意に部屋の扉が開く音がした。
思わず翔子は振り向く。
すると、そこにはどこか心配そうな表情を浮かべた夜須美が立っていた。




