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ゴーストイーター 葦野雁村の惨劇  作者: 榎広知幸
第四幕 疑わしきは……

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74・伝えたい言葉

 聞きたいことは大体聞き出し、取り敢えず梓が大丈夫そうな事を確認した翔子は、部屋を出て由那の様子を見に行くことにした。

 

 梓も由那のことが気になったようで、廊下に出た翔子と一緒に、先導する形で前を歩いて行く。


 部屋を出る前の会話で、梓は銃で撃たれた際の状況について、「男は和室に入ってくるなりいきなりわたしに銃を向けて、何も言わず引き金を引きました」と、翔子に語った。

 つまり、さはなは梓と会話すらせずに行動を起こしたと言うことになる。


 翔子はふと、理由も分からず殺される事になったそんな梓の足取りが、ふらふらしたものから普通の歩き方になっている事に気がつく。

 話をする事で、梓もだいぶ平静を取り戻すことができたのかも知れないと、翔子は思った。


 廊下を進み、翔子と梓はすぐに由那の自室の前へとたどり着く。

 ゆっくりと翔子が扉を開けると、由那はベッドの上で横になっていた。


 由那がベッドに横になっている以外は、部屋の中の様子は銃声を聴いた翔子たちが和室に向かった時とほぼ変わらない。


 翔子はベッドに近づくと、由那が起きている事を確認してから、ゆっくりと話しかけた。


「……由那ちゃん、体調、どうかな?」


 声をかけられた由那は翔子を見ると、元気なく呟く。


「別に体調は大丈夫です。心配して来てくれたのなら、すみません……翔子さん」


 口では大丈夫と言っているけれど、相当ショックは大きいのだろうと翔子は懸念する。

 それは梓も同じようで、心配そうに由那を見ていた。


 由那はゆっくり身体を起こすと、カーペットの上に放置されたままの、テーブルトークRPGをプレイするのに使用したルールブックや用紙を見ながら言う。


「……みんなでゲームを楽しんでいたのに、どうしてこんな事になっちゃったんでしょう……」


 由那は寂しそうな表情を浮かべながら、言葉を続けた。


「……翔子さん。わたし、お祖母ちゃんがあの誰かも分からない男の人に殺された事、すごくショックなんですが、それと同じくらい、お祖母ちゃんとわたしが話した最後の会話があんな感じになってしまったことがすごく残念で、悲しいんです。……わたし、お婆ちゃんと碌なお別れ、できませんでした……」


 由那の言葉に、翔子は縁側で梓がふわ先生に嫌悪な感情を向けた時の事を思い出す。

 あの時、由那は去り際に梓に対していいすぎだと、彼女の放った言葉を非難していた。


 それが由那が梓と交わした最後の言葉で、その事を彼女はすごく後悔している……。


 そう思うと、由那の元気が無いのは当然かも知れない。


「……お祖母ちゃん、昼間はあんな感じで翔子さんも嫌な感情を抱いたかもしれません。……でも、本当はすごく優しいお祖母ちゃんなんです。わたし、もっとお祖母ちゃんときちんとお話がしたかった」

「由那ちゃん……」


 翔子は名前を呟くだけで、それ以上何も言ってあげることが出来ない。


 すると、隣で由那の話を思い詰めたような表情で聞いていた梓が、ゆっくりと翔子に言った。

 

「翔子さん……昼間の事ですが……。実は縁側であの漫画家の先生と顔を合わせる前、わたしは村長と霞乃家の所有する土地に関して、あの和室で話し合いをしていました。その際、どうしても腹が煮えくりかえる事があって、かなりイライラしていたんです。あの時、あの漫画家の先生に心無い言葉をぶつけてしまったのも、わたし自身、何かに八つ当たりしたくてしかたなかったんだと今になってみれば思います……」


 そう語る梓は何かを悔いるような表情をしていた。

 翔子は黙って梓の話を聞く。


「……あの『ゆるふわヴィレッジ』というアニメについて、わたしがあまり快く思っていなかったのは事実です。でも、だからといって、感情にまかせてあんな言葉を口にするべきではなかった……。今はそう思います。まあ、ただの言い訳にしかなりませんが……。漫画家の先生だけでなく、由那や夜須美にも悪いことをしてしまいましたね……」


 そう、梓は申し訳無さそうに翔子に語った。

 どうやら梓は、本当に昼間の出来事を反省しているようだ。


(梓さん、反省してるみたい……。でも、梓さんはもう亡くなっているし……。わたしに、何かに出来ること、ないのかな……)


 そんな事を考えていると、梓は由那に視線を向けながら翔子に言った。

 

「……翔子さん、お願いがあります」


(……お願い? なんだろう……?)


 翔子は首を捻りつつも、梓の言葉を黙って聞く。


「……由那に言ってあげてほしいの。お祖母ちゃんは昼間のことは何も気にしてないからって。そして、由那の事をこれからも見守っているからって。由那に元気になってほしい、笑顔になってほしい。それがわたしがいま由那に一番伝えたい言葉であり、思いだから」


 そう語る梓は、じっとベッドの上で寂しげな表情を浮かべている由那を真剣な瞳で見つめている。


(梓さんが、いま由那ちゃんに一番伝えたい言葉……。思い……)


 梓の思いを伝えられれば、由那の心もすこしは晴れるだろうか?

 由那の寂しそうな顔を見たくないのは、翔子も同じなのだから。


(わたしに出来ることがあるのなら……)


 自分の今するべき事を明確にした翔子は、返答として梓にゆっくりと頷いてみせる。


 そして、ベッドの上で寂しそうな表情を浮かべている由那に、翔子はゆっくりと語りかけたのだった。

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