表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ゴーストイーター 葦野雁村の惨劇  作者: 榎広知幸
第四幕 疑わしきは……

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

73/75

73・死者の顛末

「……それで、話の続きですが、そのさはなという存在が、幽霊を傷つける力を持っているという話でしたね。もし、傷つけられるとどうなるというのですか?」

 

 梓は最初に翔子が語ったさはなが幽霊を傷つける力を持っているという話題に話を戻した。


 梓にとっては自分に直接関係ある話である。

 気になるのはしかたないがないと、翔子は思う。


 翔子は梓に、葦雁山で怨霊に殺された外国人の幽霊に、空間を切り裂くような傷が出来たこと。

 そして、その後その傷は広がり、被害者は痛みを感じながら霊体がばらばらに砕けて言ったことを伝えた。


 翔子の話を黙って聞いた梓は、銃で撃たれた胸元を見ながら答える。


「そんな事が……。でも、わたしは大丈夫ですよ。今のところ、撃たれた場所に特に痛みを感じたり、空間を切り裂くような亀裂のような傷が出来ているなんて事はありませんから」


 その言葉通り、翔子がぱっと見た感じ、山で殺された外国人の幽霊に見られたような傷は梓にはなかった。

 特に痛みもなさそうだ。


(梓さんは銃で撃たれて亡くなったけど、あの三人の外国人は首を直接噛まれて亡くなったんだった。梓さんに亀裂のような傷が出来ていないのはその辺りが関係しているのかな……? あんな傷なんて、出来ていないに越したことはないけれど……)


 そう思いつつ、翔子は梓の幽霊に何事もなさそうなことに取り敢えずほっとした。


 翔子としても、梓が死んでなお苦しむ所は見たくないし、葦雁山の時のように、痛みや苦しみから開放するために幽霊を食べるような事もできればしたくはなかったからだ。


 実際、翔子は自分が幽霊を食べられる人間だという事までは、まだ梓に話してはいなかった。

 

「でも、いったいわたしはこれからどうなるのかしら……。ずっとこのまま、ということもないんでしょう? 死んだらその後どうなるのか、知っているなら教えてもらえるかしら、翔子さん」


 梓が不意に心配そうな顔をしながら、翔子に訊ねる。


「……それは」


 言おうとして、翔子は思わず言葉に詰まった。

 幽霊が死後どうなるのか、教えるべきか迷ってしまったからだ。

 

「教えて」


 梓はどこか覚悟した表情で呟くように言う。


 翔子はその梓の真剣な表情を見て、死後幽霊がどうなるのかについて、教えることにした。

 ゆっくりと、翔子は梓に告げる。


「……数時間後か、数日か、それとも数ヶ月後か……。人にもよるから、正確な時間はわたしにも分からない。でも、亡くなった人間は基本、時の流れと共にゆっくり記憶と存在が朧気になっていって、いつかは存在が保てなくなって消えてしまう。ずっとこの現世に留まり続けることは、普通の幽霊にはたぶん出来ない……」

「そう……。それが死者の迎える顛末というわけね。……わかりました。ありがとう、翔子さん」


 梓は薄っすらと笑うと、翔子に答える。

 取り乱したり、怯えるような表情を浮かべるでもなく、どこか達観したような表情を梓は浮かべていた。

 そんな梓の様子に、翔子もどこかほっとする。


 梓は薄っすらと笑みを浮かべたまま、言葉を続けた。


「……ひょっとして、翔蔵さんも消える時は、そんな感じだったのかしら」

「……え」


 梓がふいに口にしたその言葉に、翔子は思わず声を漏らした。

 そして、梓にどう答えるべきか戸惑ってしまう。


 祖父の幽霊が消えた時の出来事は、翔子にとっては絶対に忘れたくとも忘れられない、強烈な思い出になっていたからだ。


 考えた結果、翔子は梓に亡くなった翔蔵の幽霊が消えた時の事を伝えることにした。

 翔子はゆっくりと梓に答える。


「……はい、幽霊になった祖父は亡くなってから二週間ほどで、消えていきました」


 そう、病気で亡くなった翔蔵の幽霊は、翔子の目の前でゆっくりと、まるで空気に溶けるように消えていった。


 翔子が中学二年生の頃の事だ。


 翔子は、亡くなった翔蔵が消える前、自身を食べるよう、翔子に懇願した事を思い出す。

 翔蔵は自身が幽霊を食べることで引き継いできた人々の記憶、そして自分自身の記憶を翔子に引き継いで貰いたかったようだ。


 でも、翔子にはどうしても翔蔵を食べる事はできなかった。

 その時の翔子はまだ誰の幽霊も食べたことはなく、ずっと一緒に暮らしてきた祖父にいきなり自分を食べろと言われても、到底無理な話だったのだ。


 翔子が実際に幽霊を食べることになったのはそれから数ヶ月後の事であるが、翔子は翔蔵を食べなくてよかったと、今でも思っている。


「……どうしたの、翔子さん?」


 感傷に耽っていた翔子は、梓の呼びかけにはっと我に返った。


「……ううん。なんでもないよ、梓さん」


 翔子はふいに思い出した昔の記憶を心の奥にしまい込むと、今この屋敷内で起こっている事に意識を戻す。


 そう、この屋敷ではついさっき殺人事件が起きて、眼の前にいる梓が亡くなったのだ。


 ……今、自分が出来ることは何なのだろう。

 そんな事を考えながら、翔子はこれからすべき事を思案する。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ