7・ふたりの幽霊
崩れ、苔むした石の祠にまるで供えられるように置かれた、三人の外国人の異様な死体。
翔子はその、何かの生贄にでもされたかのようなグロテスクな死体を見ながら、ふと、近くに殺された人たちの幽霊の姿が見えない事に気がつく。
「……はすな様、この殺された人たちの幽霊、どこにいるのかな。幽霊が出てるって、はすな様、言ってたよね?」
「そういえば……三人の幽霊の姿が見当たらんな。儂がこの死体を発見した時は様子がすこし変じゃったとはいえ、近くにおったんじゃが……」
はすな様は辺りを見回した後、三人の死体に再び目線を戻し、憂うような声で呟く。
「……まあ、自分たちのこんな姿になった死体をずっと直視は出来んじゃろうし、それは仕方ないかもしれん」
その呟きに、翔子は死体から目線を外し、はすな様の方に向き直ると言った。
「幽霊、探してみよう、はすな様。わたしも、こんな所にずっといたくないし」
「ああ、そうじゃな」
翔子の言葉にはすな様は頷き、三人の幽霊を探すため、共にその場を離れ歩きはじめる。
手分けして探すと道に迷った際に危険なので、翔子はなるべくはすな様から離れず、一緒に周囲を確認しながら探すことになった。
翔子ははすな様と、お互いに違う場所へ視線を向けながら、しばらく歩き続ける。
すると、 幽霊は死体からそう離れていない場所で、すぐに見つかった。
いたのは二人だけで、もう一人の姿はその場にはない。
幽霊の男性は二人とも足を投げ出して地面に座り込み、首を押さえてどこか苦しそうにしていた。
一人はスキンヘッドの褐色肌の男性、もう一人は金髪細身の男性で、翔子が死体を見た時は分からなかったけれど、こうして幽霊を前にすると、二人の年齢は二十代そこそこに見えた。
幽霊の男性二人は共に衣服を着ている。
( はだかじゃなくてよかった)
幽霊とはいえ全裸だと気まずいものがあるので、翔子はすこしほっとした。
そして、被害者の衣服は死後に犯人によって脱がされたのかもしれないと翔子は考える。
幽霊の姿は、死を迎える前の本人の知覚認識が反映される。
例えば、病院で亡くなると入院着、学校で亡くなると制服といったように、幽霊は死を迎えた際の姿で現れる事が多いのだ。
はすな様の話では必ずしもそれは絶対ではないらしいのだけれど、翔子は今回に関していえば衣服は死後に脱がされた可能性が高いんじゃないかと思った。
翔子は取りあえず何があったのか事情を聞こうと、座り込んだ二人の幽霊に話しかける。
「……その、大丈夫ですか?」
二人の男性は、共に翔子を見た。
けれど、何か言葉を発することはなく、その目は虚ろで、どこか力がない。
……そして、やっぱりどこか苦しそうだった。
幽霊にしても、なんだか様子がおかしい。
あんな殺され方をした事に精神的に参っている、というだけではなさそうなのだ。
(……いったい、どうしたのかな?)
翔子はふたりの幽霊が痛そうに首筋を押さえている事が気になった。
褐色肌の男性の幽霊の側に翔子は屈み込むと、取りあえずは首筋を確認してみる事にする。
すると、そこには翔子がこれまで見たこともないようなものが存在していた。
幽霊の男性の首筋……。
そこには得体の知れない、空間を切り裂くような亀裂が走っていたのである。