69・現場検証
7月14日、日曜日。
午後5時過ぎ。
屋敷に侵入したと思われる羽賀良純が和室にいた霞乃梓を拳銃で銃撃し、自殺するという事件が起きてから、1時間半ほどが経過していた。
今は屋敷に到着した警察による現場検証がすでに始まっている。
翔子は夜須美と庭に出て、遠巻きに事件のあった和室での現場検証の様子を見守っていた。
和室では鑑識係員と検視官による検証作業が行われているが、それとは別に先に現場に到着した駐在の蔵吉が、険しい顔をした県警の刑事たちに、由那の父である英治と夜須美の父である茂のふたりを間に交えて、事件の詳細について話をしているようだ。
県警の刑事たちの中には翔子の見知った顔。
朝来野刑事と賀東刑事の姿もあった。
慌ただしい警察関係者の様子を見ながら、翔子の隣で同じように和室の様子をじっと見守っていた夜須美が呟く。
「……なあ、翔子。あの自分で自分の頭撃って自殺した男の事なんだけど……どう思う?」
「どう思うって言われても……わたしは……」
「あいつ、わけわかんない事話してたけどさ。よくよく思い返してみると、ホントに頭おかしくて怖いなって。あんな風に人が自殺する所なんてはじめて見たし。……それにあの男に撃たれた婆さんも、その、結局助からなかったしさ……」
「うん……」
夜須美の言葉に翔子は悲しげに頷く。
そう、撃たれた梓は結局助からなかった。
何かがあった時のために村の診療所に普段から待機している救急車が屋敷に到着するより前に、夜須美たちが見守る中、霞乃梓はその人としての人生に静かに幕を下ろしたのだ。
「それにしても、なんでこんな事になったんだろう。今日はふわ子が家に遊びに来て、それなりに楽しい一日になるはずだったってのに……」
憂いを帯びた表情でそう言うと、夜須美はすこし離れた場所にいるふわ先生の様子を窺った。
ふわ先生は少し離れた庭木の近くで、車で迎えに来たアシスタントの子安貝美波と話をしている。
事件の話をしているのだろう。
和室の方を見ながら美波はふわ先生の言葉を興味深げに聞いているようだ。
翔子は再び和室の方を見ながら、自分以外の人たちはいったい今回の事件をどう捉えているんだろうと考えを巡らせた。
何も知らない人間から見れば、屋敷に侵入した異常な人間が梓を銃で撃った後、訳のわからないことを喚いた挙句、自ら拳銃で頭を撃って自殺したという不可解極まりない事件に見えているはずだと翔子は考える。
でも、葦雁山の祠から蘇り、羽賀良純に憑依して三人の外国人を惨殺した怨霊が今回の事件の本当の犯人である事を翔子はすでに知っていた。
そして、自らをさはなと名乗った怨霊が羽賀良純の身体から抜け出て、恐らくは翔子以外に認識される事も無く屋敷を去っていった事も……。
『お前たち、この村の人間を、許し難き者たちを、我らの手によりて必ずや根絶やしにするだろう!』
そう言って羽賀の姿で笑うさはなの姿を思い出した翔子は、背筋が寒くなるのを感じる。
あのさはなの口ぶりからして、これで終わりだとは到底思えない。
午後5時を過ぎているとはいえまだ青い夏の空を見上げると、翔子は一度気持ちを落ち着けるべく小さく息を吐く。
そして、どうして羽賀良純の身体に憑依したさはながこの霞乃屋敷に姿を現し、梓を銃で撃ったのかについて、思案してみる事にしたのだった。




