63・宣戦布告
翔子たちに銃口を向ける、自らをさはなと名乗った、羽賀良純の姿をした得体の知れない人物。
その人物に銃口を向けられた縁側にいる者たちは皆反射的に狼狽え後ずさる。
その様子を見ながら羽賀――さはなは嘲笑うように言った。
「くく……さあ、今がその時。高らかに宣言しようぞ」
さはなは歓喜に震えながら言葉を紡ぐ。
「聞け、霞乃の愚か者たちよ。我と、恭順せし我の同胞は、今お前たち、許されざる者たちの末裔、そしてその一族が住まうこの村に宣戦を布告する! そこの老婆への一射はそのはじまりの狼煙と知れ。これより後、この村に地獄の夜が訪れ、死の嵐が吹き荒び、お前たち、この村の人間を、許し難き者たちを、我らの手によりて必ずや根絶やしにするだろう! くははははははは……」
自分の言葉に酔う様に羽賀良純の姿で哄笑するさはな。
その口から出た言葉はどれもあまりに異常で、荒唐無稽にも思えるものだ。
「この異常者め……」
そう、夜須美の父である茂が怒りに満ちた声で呟くのが翔子に聞こえた。
異常者……。
確かにそうかも知れない。
でも、いま口にした言葉はだだの妄言ではなく、さはなは本気で言っているのだと、倒れた梓を見ながら翔子は確信する。
そして、口にした言葉が本気なのだとしたら、その恐ろしさに愕然とした。
(宣戦を布告……。この村の人間を根絶やしにするって……。どう考えても普通じゃない。怖いよ……)
もし今、夜須美たちがこの場から一斉に逃げ出したら、翔子もまた一目散に眼の前のさはなと名乗る羽賀良純の皮を被った怨霊からすこしでも離れるために全力で駆け出すだろう。
それぐらい翔子は銃口を突きつけられ金縛りにあったように身動き出来ない今の状況に、恐怖を感じていた。
もちろん同じ様にその場に立ちすくんでいる夜須美や他の人達もそれ以上に恐怖や不安を覚えているだろうと、翔子は思う。
家族を銃で撃たれているのだから、それは当然だった。
そんな中、さはなの狂気じみた様子に怒りの言葉をぶつけたのは、この場にいる中では最年少の人物――由那だった。
由那は銃を手にした相手の、その狂気じみた目を見ながら、強い口調で言う。
「あなた、いったい何なんですか! この地に蘇りし者とか、宣戦を布告するとか、訳のわからない事を言わないでください! お祖母ちゃんに、こんな酷いことをするなんて、わたし、あなたを許せません!」
由那の言葉にさはなは「はて?」と首を傾げる。
「許せない……? 許せないのはこちらも同じこと……。その方、元服するかせんか程の齢の者であろうが、霞乃の人間なれば誰であろうと我は容赦はせぬ」
さはなはそう言葉を放つと、さっとその銃口を由那へと向けた。
銃口を向けられた事で、由那の表情は年相応な恐怖に満ちたものに変わっていく。
「由那!!!」
母親の清衣が悲鳴のような声を出してその名を叫ぶ。
突然由那が置かれたその状況に翔子も強いショックを受けた。
「……死ぬがよい。その後、あの異郷の地の三人の蛮人と同じ様に魂に痕を穿ち、裂罅の向こう側へと送ってやろうではないか」
さはなはそう言うと、殺意を向けられ顔面蒼白になった由那を無表情に見ながら、手にした銃の引き金に指をかけたのだった。




