61・銃声
唐突に聞こえてきた、屋敷全体に響き渡るような轟音。
その音によって、和気藹々と盛り上がっていたゲームは中断した。
「何かな? 今の大きな音……」
その音の大きさに、翔子は思わず声を漏らす。
「今の音、家の中からですよね。なんの音でしょう? 何かが落ちたりでもしたんでしょうか?」
それまてゲームに熱中していた由那も、首を傾げながら不思議がる。
夜須美は由那のその言葉を聞いて、ぽつりと呟いた。
「……もしかして銃声、とか?」
「夜須美さん、何言ってるんですか。いくらなんでもそんな非日常な事、あるわけ無いですよ」
由那はふう、とため息をつきながら楽天的に言って、「ゲームの続きをしましょう!」と促す。
ただ、やはり夜須美はついさっき聞こえてきた音が気になるようで、ゆっくり立ち上がると言った。
「……気になるし、ちょっと見てくる」
「じゃあ、わたしも行くよ」
一人で部屋を出ようとする夜須美にそう言って翔子も立ち上がる。
さっき聞こえてきた音に、よくわからないけれど翔子はすこし胸騒ぎのようなものを覚えたのだ。
ふわ先生も夜須美と翔子のその様子を見て立ち上がる。
「夜須美ちゃんと翔子ちゃんが行くのなら、わたしも行こうかな」
「……え、三人とも行くんですか? それならわたしもついて行きます」
由那も渋々立ち上がり、結局は四人揃って部屋を出ることになった。
「さっきのあの音、こっちからか……?」
辺りを見回すと、夜須美はさっき梓とふわ先生が鉢合わせになった縁側の方へと廊下を歩いていく。
「きゃああああああああっ!!」
すると、縁側に出たあたりで、大きな女性のものらしき悲鳴が突然聴こえてきた。
「え、悲鳴?」
翔子はその声に驚き思わず声を出す。
夜須美が声のした方へと駆け出すと、翔子たちも後に続く。
するとすぐに、開け放たれた襖の前で腰を抜かして縁側に座り込む女性の姿が見えた。
霞乃家に雇われた三人いるお手伝いさんの一人だ。
「……牧野さん? どうしたんだ」
夜須美は女性に駆け寄ると、どうしたのか訊ねる。
恐怖に満ちた顔で、牧野と呼ばれた女性は目の前の開け放たれた襖の向こうを指差す。
「……え」
その開け放たれた襖の向こうを見ながら、夜須美は呆然としながら声を漏らす。
どうしたのだろうと、翔子も夜須美の見ている襖の奥へと視線を移した。
そこは昨日夕食を食べたあの和室だった。
昨日食事を食べた大きめの座卓は片付けられたのか、部屋はすこしがらんとしている。
その畳が敷かれた和室の中央で、お腹に赤い染みをつくった着物姿の梓が倒れていた。
そしてその直ぐ側に、拳銃らしきものを手にした一人の男が静かに佇んでいる。
異常な光景に誰しも声を出せないでいると、その拳銃を手にした男がゆっくりと翔子たちの方を振り向いた。
男の顔を見た瞬間、翔子は衝撃を受ける。
20代半ばくらいの男のその顔に、翔子は確かに見覚えがあったからだ。
けれど、見覚えのある顔といっても直接面識があるわけではない。
それは、翔子が幽霊を食べる事で共有した、あの外国人男性、ボリス・アバロの体験した惨劇の記憶の中にある顔――。
葦雁山の事件以来消息不明になっていた、羽賀良純の顔だった。




