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ゴーストイーター 葦野雁村の惨劇  作者: 榎広知幸
第三幕 霞乃家の一族

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60/75

60・ここにいていいよ

 由那の後に続いて歩を進めていくと、夜須美とふわ先生が由那の部屋の近くの廊下で佇んでいるのが翔子の目に入った。

 ふわ先生は俯きがちな様子で、夜須美もどこか憂鬱そうな顔をしている。


 由那は二人に話しかけると、自分の部屋へと促す。

 翔子も二人に続いて由那の部屋へと入った。


 夜須美の自室よりは幾分か狭い勉強机に本棚、ベッドが置かれた小ぢんまりした由那の部屋。

 その部屋の畳の上に敷かれたカーペットの上に翔子と夜須美、そしてふわ先生は座る。


 ふわ先生は気落ちししているのか悲しげな顔をしていて、とてもゲームをしようという雰囲気ではない。


 その場に満ちる沈黙。

 その沈黙にいたたまれなくなったのか、これまで黙っていたふわ先生がぼそりと寂しそうな顔で夜須美に言った。


「ねえ、夜須美ちゃん。夜須美ちゃんのお婆さんに知らないうちに嫌な思いをさせてたみたいだけど、わたし、ここにいていいのかな……」


 夜須美はふわ先生のその言葉に、強い口調で返す。


「何いってんの、ふわ子! あたしがこの家にふわ子を呼んだんだし、ここにいていいに決まってるじゃん。婆さんの事は気にしないでいいよ。ひょっとしたら、昨日から家の問題でカリカリしててついふわ子に強くあたっちゃったのかも知れないしさ」

「そうですそうです。ふわ先生はここにいてください。わたし、今日はふわ先生に会えてとても嬉しかったんですから!」


 ベッドに腰掛けた由那も、真面目な顔で言葉を続ける。


「わたしも向こうがこれ以上何も言ってこないのなら、ふわ先生はここにいていいと思う。……あまり気にしないほうがいいよ」


 そう、翔子もふわ先生を気遣うように言う。


「ありがとう、夜須美ちゃん。由那ちゃんと翔子ちゃんもありがとう」


 ふわ先生も口元に少しの笑みを浮かべて、ゆっくりと頷いた。


 それから少しの沈黙の後、ふわ先生は元気を取り戻したのか、翔子たちを見ながら言う。 


「……そうだ、わたしはもう平気だから、今からでもゲーム、やりましょう。約束したものね」


 ふわ先生を気遣うように、夜須美が言葉を返す。


「いいの、ふわ子?」

「うん、もう平気だから」


 ふわ先生は笑みを浮かべて夜須美に頷く。

 そのふたりの様子を見て、由那が元気に言った。


「そうですか、じゃあ早速TRPGやりましょう! わたし、楽しみにしてたんですよ!」


 その由那の言葉に夜須美は頷くと、自分の部屋から持ってきていた布製の袋を開けて、ゲームに使う紙や筆記用具、ルールブック等を取り出した。


 翔子が部屋の時計を確認すると、時刻はもう少しで午後2時という所。


 ゲームの準備を進める夜須美に、ふわ先生は小さな声で言った。

 

「……ねえ、夜須美ちゃん。ゲームを始める前にちょっとおトイレ、借りていいかな」


 夜須美は手を止めて、ふわ先生にトイレの場所を教える。


「もし部屋の外で婆さんに会っても無視しとけばいいから」


 そう夜須美は言うと、ふわ先生をトイレへと送り出した。


 ふわ先生はそれから10分程で部屋に戻って来る。

 何事も無かったようで、翔子はすこしほっとした。


 ふわ先生も戻ってきて、さあこれからゲームをはじめようという所で、今度はさっと夜須美が立ち上がる。


「どうしたの? 夜須美さん」


 翔子がどうしたのか聞くと、夜須美は頭を掻きながら言った。


「いや、あたしもなんかトイレに行きたくなってきてさ、ははは」

「それならはやくしてください、夜須美さん」

「分かってるよ」


 どうやらトイレに行きたかったらしく、由那の言葉に急かされるように夜須美は部屋を出ていく。


 夜須美が部屋を出ている間、由那がゲームのルールについてふわ先生に説明し、翔子もその話を黙って聞いた。


 トイレに出てから10分程で、夜須美は部屋へと戻って来る。


「……さあ、はじめようか。あたしが進行役のGMね」


 帰ってきてカーペットに腰を下ろしたその夜須美の言葉で、ようやくゲームがはじまる。

 翔子がちらっと時刻を確認すると、午後2時20分過ぎ。


(あのアシスタントの人がふわ先生を迎えに来るのは夕方って言ってたよね。ゲーム、ちゃんと終わりまで出来るかなあ)


 翔子はそんな事を心配しながらも、今日はうんと楽しもうと決めてゲームに集中する。

 有名な漫画家の先生とこんな風にテーブルトークRPGをプレイするなんて滅多にない体験だし、きっと今日の出来事はいい思い出になるはずだと翔子は頬を緩めた。


 それからゲームはトラブルもなく進み、場には和気藹々とした空気が流れる。


 その明るい空気を吹き払うように「バン!」という大きな轟音が突如屋敷内に響き渡ったのは、ゲームが始まってから一時間後の事だった。

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