58・鉢合わせ
夜須美の部屋に裏門から戻ってきた由那が入って来ると、室内は一気に賑やかなものになった。
「あっ、あなたがあの、『ゆるふわヴィレッジ』の原作者、夢白ふわ先生ですか! そ、そのお会い出来て嬉しいです!」
由那が嬉しさからか勢いに任せて迫ると、ふわ先生はそういう熱心な勢いのあるファンみたいな人との接し方も慣れているのか、ふんわりと微笑みながら言葉を返した。
「あなたが由那ちゃん? こんにちは」
笑顔を返され緊張したのか、すこし由那は慌てながら言う。
「あっ、そ、その『ゆるふわヴィレッジ』、わたし、出てくる女の子がみんな可愛くて大好きなんです! 夜須美さんの友達って聞いたからどんな人なのかなって思ってたんですが、その、先生自身もとても素敵な美少女で驚きです! 後でサインいただけると嬉しいのですが!」
「ふふ、美少女だなんて。でも、嬉しい。サインならいくらでもあげちゃうよ、由那ちゃんに」
「本当ですか! ふわ先生がいつまでここにいるのか分かりませんが、その、よければ一緒にテーブルトークRPGも遊んでいただけると嬉しいです!」
「テーブルトークRPG?」
いきなりの由那の要望に首をかしげるふわ先生に、夜須美が経緯を説明する。
「あはは、あたしたち三人、昨日それで遊んでたんだけど、その続きを遊ぶ約束してたんだ。それでさ、今日はふわ子とも一緒に遊べたらってね」
「あー、夜須美ちゃん好きだもんね、TRPG。そうか、由那ちゃんも好きなんだね。わたしはそんなに遊んだことないからルールはよく分からないかも知れないけれど、いいわよ。一緒にやりましょう」
結構マニアックな趣味であるテーブルトークRPGをプレイしようという由那の提案にも、ふわ先生は嫌な顔は一切せず笑顔で微笑む。
ふわ先生も過去に無理やり夜須美からゲームに誘われたことがあるのかも知れないと、翔子は思った。
由那はふわ先生の言葉に大喜びしている。
その様子を見ながら、夜須美が由那に提案した。
「そうだ。なあ、由那。ゲームするならこのあたしの部屋じゃなく、由那の部屋でやらないか?」
「ほへ? どうしてですか?」
「昨日、ばあさん怒ってたろ。それで、母さん夜遅くまでばあさんに愚痴をずっと聞かされてたらしくて、あんまり寝てないみたいなんだよ。だから部屋で、あんまり五月蝿くするのも悪いかなって」
昨日の夜の出来事を思い出したのか、夜須美の言葉に納得したように由那は頷く。
「そうですね。確かにそれなら五月蝿くしてはいけません。わたしがゲームに熱中すると、思わず叫んでしまうかも知れませんし。じゃあ、ゲームはわたしの部屋でやりましょう!」
「翔子とふわ子も、それでいい?」
「うん、別にいいよ」
「わたしも別に構わないよ、夜須美ちゃん」
夜須美の言葉にふわ先生と翔子が頷く。
話が決まり、昼食を食べてから母屋の由那の部屋に移動し、そこでゲームをする事になった。
そうこうしているうちに時刻は12時を回り、一階に下りると、夜須美の母親である朝美が眠そうな目をしながらも食事を用意してくれていた。
事前に夜須美か由那からふわ先生が来るのが伝わっていたのか、彼女の分の食事もちゃんと用意されている。
翔子たちは夜須美の両親と一緒に昼食をいただくと、母屋の方へと向かう。
夜須美の父親である茂がふわ先生の話を聞きたがった事もあって、思ったよりも食事を終えるのに時間が掛かり、離れを翔子たちが出たのは午後1時をとっくに過ぎていた。
翔子たちは縁側で靴を脱いで母屋に上がると、由那の部屋に向けて歩いて行く。
すると、ちょうど昨日夕食を取った和室の扉がゆっくりと開いた。
和室から出てきたのは、着物姿の梓と塚野村長だ。
どうやら塚野村長は今から帰る所らしい。
ちょうど正面から行き交う形になり、翔子たちは立ち止まって脇に寄ると、梓と塚野村長に頭を下げる。
すると、塚野村長が翔子たちと一緒にいるふわ先生に気づいて立ち止まり声をかけた。
「……あれ、ふわ先生じゃないかい? 先生、この家の人たちと知り合いだったんだね」
「村長さん、こんにちは。ええ、夜須美ちゃんとは友達なんです」
ふわ先生は微笑みながら、塚野村長に言った。
すると、梓が一体誰なのかと怪訝な表情で呟く。
「……ふわ先生?」
「梓さん、知りませんか、『ゆるふわヴィレッジ』。今村でも割とアニメのポスター見るでしょう? 彼女、この村を舞台にしたそのアニメの原作を描いてる漫画家さんなんですよ」
塚野村長は笑いながら、梓にふわ先生が誰なのかを紹介する。
すると、梓の表情が見るからに不愉快そうな顔に変わっていく。
そんな梓の表情を見ながら翔子は昨日の風呂場での蓮花の言葉を思い出していた。
梓はあのアニメを嫌っているから、ふわ先生と鉢合わせにならないよう気を付けたほうがいいと言っていた、あの言葉を……。




