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ゴーストイーター 葦野雁村の惨劇  作者: 榎広知幸
第三幕 霞乃家の一族

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56・遅れたわけ

「……遅いよ、ふわ子」


 遅れてやって来たふわ先生に、夜須美はすこし不機嫌そうに呟いた。


「ごめんなさい、夜須美ちゃん。夜須美ちゃんの家のある、この辺に来るのは本当に久々だったから……。借りたレンタカーにカーナビが付いてなくて、道に迷っちゃって……。最初はわたしが運転してたんだけど、途中で運転を美波ちゃんに代わって貰ってスマホで道を確認しながらなんとかここまで……」


 そう言って、ふわ先生は申し訳無さそうに釈明する。

 ふわ先生は葦野雁(あしのがり)村の住人ではないので、村を舞台にした漫画を描いているとはいえ、迷うのはしかたないのかもと翔子は思った。


 夜須美はふわ先生の言葉を聞いて、ふうとため息を吐く。


「……ま、別にいいよ。来るのが遅いからちょっと心配しただけ。取り敢えず来てくれて嬉しいよ、ふわ子は有名漫画家だし、なによりあたしの友達だからね」

「ふふ、ありがとう、夜須美ちゃん」


 夜須美の言葉ににっこり微笑むふわ先生。

 翔子はふわ先生のそのガーリッシュな笑顔についつい見惚れそうになってしまう。

 

(ほんと、22歳には見えないよね、ふわ先生……。今日の服装もふわふわしててかわいい感じだし……)


 夜須美はそんな微笑むふわ先生を屋敷へと促すように言った。


「ま、中に入ってよ。歓迎するよ」 


 すると、ふわ先生は屋敷に入ろうとする夜須美に「夜須美ちゃん、ちょっと待って」と引き止め、美波の方を向いて言った。


「ここまで送ってくれてありがとう、美波ちゃん」


 美波はふわ先生に無表情で言葉を返す。


「……いえ、別に。それじゃあ、わたしは用を済ませてきますので。夕方にまたここに迎えに来ますね」

「うん、お願い。でも、美波ちゃんもよかったら一緒によっていけばいいのに。夜須美ちゃんだって、美波ちゃんが一緒でも別に嫌がらないと思うし……」


 美波は首を横に振ると、静かに呟くように言った。 


「わたしは取材がありますから。では、これで……」


 夜須美と翔子に軽く頭を下げると、美波は背中を向けて歩き去り、車へと乗り込む。

 屋敷から走り去っていく美波の運転する白い軽自動車を見ながら、夜須美がふわ先生に言った。

 

「今のアシスタントの子、行っちゃったけどよかったの、ふわ子。あたしは別に客が一人増えても別によかったんだけど」


 夜須美の言葉にふわ先生は少し考えるような顔をしながら言葉を紡ぐ。


「……うん、わたしもその方がいいと思うんだけどね……。でも、前に村に来たときにこっちで何か興味を引くものを見つけたらしくて、それで取材したいって。一度は東京に帰ったんだけど、また数日前からこっちに来てるんだよ。美波ちゃんは旅館泊まりだし、あの子も漫画家目指してるから、描きたいものが見つかったなら応援してやりたいなって……」


 翔子はそういえばこの前会った時、美波は旅館泊まりであと何日かしたら帰る予定だとふわ先生が言っていた事を思い出す。

 あれからもう日が経っているにも関わらずこちらにいるという事は、よっぽど何か取材したいものが見つかったんだろうなと翔子は思った。


「そっか。ま、ふわ子、取りあえず入ってよ。ここにふわ子が来るのは本当にずいぶん久しぶりでしょ」

「うん、そうね。道に迷っちゃうくらいだし、本当に久しぶり。じゃあよろしくね、夜須美ちゃん。それに翔子ちゃんも」


 そう言って、ふわ先生は微笑む。


 翔子はふわ先生に改めて挨拶すると、ふたりと共に門の側の潜り戸を通って、屋敷の敷地内へと戻っていく。

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