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ゴーストイーター 葦野雁村の惨劇  作者: 榎広知幸
第三幕 霞乃家の一族

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55/75

55・門前で

 夜須美たちと他愛ない話をしていた翔子は、いつの間にか部屋の時計が10時を指している事に気がついた。

 由那も気づいたのか、すっと立ち上がって言う。


「そろそろふわ先生、来るんじゃないですか? 迎えに行きましょう!」


 翔子たちは由那のその言葉を受けて、離れを出て屋敷の入口の門へと向かった。


 観音開きの門のすぐ側にある潜り戸から外に出た翔子たちは周りを確認するも、近くに人の姿はなく、周囲には農地の中に疎らに民家が点在する田舎の田園風景が広がっている。


 役場や雑貨屋、町へ向かうための交通手段であるバス停のある葦野雁(あしのがり)村の南部は比較的建物や民家も多いのだが、霞乃屋敷のある村の北部にあたるこの辺りは農地が多く、民家はそこまで多くないのだ。


 翔子の家はこの霞乃屋敷から南西に歩いて20分ほどの所に、外国人殺人事件の起きた現場に向かうため7月1日に翔子が使った葦雁(あしかり)山へ登るための登山道は、この霞乃屋敷からは西に30分ほど歩いた場所にある。

 ちなみに今日は荷物があるので翔子は徒歩で霞乃屋敷に来ていたが、自転車を使えば移動時間はもうすこし軽減された。


 夜須美は周囲を見回しながら、陽の光を避けるように屋敷の門の陰に入ると言った。


「ふわ子、まだ来ないみたいだね。ここでしばらく待とうか」


 翔子と由那も日陰に入って、ふわ先生を待つことにする。


 けれど、それから15分ほどが経過しても、まだふわ先生はやって来なかった。


 夜須美はふわ先生がやって来ないことを訝しみながら言う。


「……ふわ子のやつ、ひょっとしてこの表門と裏門を勘違いしてるんじゃ……」

「えっ、それは大変です! わたしが裏の方を見てきましょうか?」


 由那がそう提案すると、夜須美が頷いた。


「うん、お願い、由那。そっちにも来ていなかったら戻って来て」

「オッケーです!」


 由那がそう言って腕を振り上げると、屋敷の中へと駆けていく。


 敷地を高い塀に囲まれたこの霞乃屋敷には表門と裏門が存在しているのだけれど、屋敷の事をよく知らない人は裏門もそれなりの大きさがあるため、表門と裏門を間違える可能性は普通にありそうだなと翔子は思う。


 夜須美の話では、もう一つ表門と裏門とは別に屋敷の西側の塀にも外と出入りできる潜り戸があるらしいけれど、そこは普段は完全に施錠されていて使われる事もほとんどないため、ふわ先生が間違うことはまずないだろうという事だった。


 しばらく待っていると、夜須美のスマホが鳴る。


 翔子はふわ先生かなと思ったものの、その電話の主はどうやら由那らしく、裏門には誰も来ていないけれど、しばらくそちらで待ってみるという連絡だったらしい。


 夜須美はスマホの時刻表示を見ながら呟く。


「……遅いし、ちょっと心配だな」


 翔子も自分のスマホの時刻表示を確認すると、10時45分だった。

 ここで翔子が待ちはじめてから、大体40分くらいは経過した事になる。

 翔子は夜須美を心配させないように言った。

 

「まあ、遅れてるだけじゃないかな。それか、道に迷ってるとか」

「うーん、ふわ子ならありえそうだな……」

「気になるなら電話、かけてみたらどうかな?」

「いや、別にいいよ、たぶん車の中だろうし」


 そう言って、夜須美は首を横に振ると、暑いのか手で汗を拭った。


 そんな会話から数分後、屋敷の前の道路に白い車がゆっくりと止まった。


「……あ、来たんじゃないかな」


 翔子がそう言うより早く、車から二人の人物が降りてくる。


 ふわっとしたボブカットの、一見高校生くらいの少女に見える外見をした漫画家の夢白ふわ先生と、もう一人のほうは子安貝美波という名前の、ふわ先生の専属アシスタントをしているという眼鏡をかけたロングヘアの女性だった。


 ふわ先生は美波と共に夜須美と翔子がいる門の所まで歩いて来ると、微笑みながら言う。 

 

「夜須美ちゃん、それと翔子ちゃんもおはよう。……ううん、もうこんにちはかな」

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